人外と人間
人外アパート リビングメイルと苦学生 人間♂×鎧 騎士×人間♀ 昆虫人間×人間♀
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関連 → ヤンマとアカネ
リビングメイルと苦学生 859 ◆93FwBoL6s.様
今日も良い天気だ。
窓と雨戸を開け終えたアビゲイルは、緩やかに流れ込んできた湿り気を帯びた朝の空気を感じ、気持ちを緩めた。こういう日は、布団を干すのに丁度良い。だが、その布団の主は、深夜まで根を詰めたせいか起きる様子はない。勉強机の上には教科書や参考書が散らばり、飲みかけのコーヒーが入ったマグカップがそのまま放置されていた。
アビゲイルは窓を閉めてから振り返り、部屋の主である青年の枕元に膝を付いてから、冷たい手で彼に触れた。冷え切った金属の感触に僅かに眉根を歪めるも、瞼が開く気配はない。このままでは、また講義に遅刻してしまう。勉強熱心で真面目ではあるが、時間にルーズなのが彼の欠点だ。ため息を零しつつ、アビゲイルは六畳間を出た。
窓と雨戸を開け終えたアビゲイルは、緩やかに流れ込んできた湿り気を帯びた朝の空気を感じ、気持ちを緩めた。こういう日は、布団を干すのに丁度良い。だが、その布団の主は、深夜まで根を詰めたせいか起きる様子はない。勉強机の上には教科書や参考書が散らばり、飲みかけのコーヒーが入ったマグカップがそのまま放置されていた。
アビゲイルは窓を閉めてから振り返り、部屋の主である青年の枕元に膝を付いてから、冷たい手で彼に触れた。冷え切った金属の感触に僅かに眉根を歪めるも、瞼が開く気配はない。このままでは、また講義に遅刻してしまう。勉強熱心で真面目ではあるが、時間にルーズなのが彼の欠点だ。ため息を零しつつ、アビゲイルは六畳間を出た。
「祐介さんたら、仕方ない人ね」
二十代後半の女性に酷似した柔らかな声を発した銀色の甲冑は、関節をがちゃがちゃと鳴らして居間に入った。自分以外の音がないのは寂しいのでテレビを付けてから、アビゲイルはフリルの付いた白いエプロンを身に付けた。そして、鏡に自分の姿を映してみる。女性体型に作られてはいるが、紛れもない西洋甲冑が自分自身を見つめていた。
アビゲイルはリビングメイルである。中世時代に作られた女性型の甲冑で、魂を封じ込められて戦場に投じられていた。生前は女性だったのだが、時間が経ちすぎていて過去の記憶はほとんど思い出せず、自分の本名すら解らなかった。アビゲイルという名も、この部屋の主である祐介が、RPGに登場する女性キャラクターの名から取って付けてくれたものだ。
過去を示すものは、玄関脇の傘立てに突っ込まれている両刃の西洋剣ぐらいなものだが、剣を抜いたことはなかった。というより、使い方が解らないのだ。剣はかなり使い込まれているのでアビゲイルは相当強かったらしいが、記憶にない。それに、現代社会では戦う力を取り戻しても意味はないと思っているので、アビゲイルも祐介も過去を詮索しなかった。
アビゲイルはリビングメイルである。中世時代に作られた女性型の甲冑で、魂を封じ込められて戦場に投じられていた。生前は女性だったのだが、時間が経ちすぎていて過去の記憶はほとんど思い出せず、自分の本名すら解らなかった。アビゲイルという名も、この部屋の主である祐介が、RPGに登場する女性キャラクターの名から取って付けてくれたものだ。
過去を示すものは、玄関脇の傘立てに突っ込まれている両刃の西洋剣ぐらいなものだが、剣を抜いたことはなかった。というより、使い方が解らないのだ。剣はかなり使い込まれているのでアビゲイルは相当強かったらしいが、記憶にない。それに、現代社会では戦う力を取り戻しても意味はないと思っているので、アビゲイルも祐介も過去を詮索しなかった。
「今日は何を作ろうかしらねぇ。昨日はお魚だったからぁ…」
手狭な台所に入ったアビゲイルは冷蔵庫を開け、中を覗き込んだ。食べるのは祐介だけなので、食材は少ない。アビゲイルは、体が体なので何も食べないからだ。魂の活性を維持するために、他のものを摂取する必要はあるが。
「んー、そうねぇ」
アビゲイルは冷気の流れ出る冷蔵庫を睨んでいたが、ぱんと硬い両手を合わせた。
「卵焼きがいいわね。中にホウレンソウも入れちゃいましょっと」
アビゲイルは必要分の卵とホウレンソウの束を取り出すと、音程の狂った鼻歌を零しながら、台所に向かっていった。ガスコンロの上では既に出来上がった味噌汁が湯気を立て、炊飯器からも炊き立ての白飯の匂いが緩く昇っていた。慣れた手付きでホウレンソウを洗い、卵を溶いて卵焼きの準備をする後ろ姿は、甲冑でさえなければ新妻のようだった。といっても、そう思っているのはアビゲイルの方だけだ。祐介は、中身が女性でも外見が甲冑では何も思わないらしい。だから、同居するようになってから半年が過ぎても祐介はアビゲイルに素っ気なく、料理は褒めるがそれ以外はない。
アビゲイルと祐介が出会ったのは、半年前、都心部の大学に合格した祐介が上京してきたばかりの頃のことだった。祐介の下宿先である安アパートの門扉に、アビゲイルが寄り掛かって倒れていたので、祐介は興味本位で触ってみた。粗大ゴミにしては異質だが、中に人間が入っているとは思えなかったので、ヘルムを開けたり、胸部を叩いてみたりした。すると、消耗しすぎて魂が消えかけていたアビゲイルは、祐介の生命力を吸収して目を覚まし、現在に至るというわけだ。生身の女の子の方が良かった、と祐介に嘆かれたことは少なくないが、今ではどちらもこの変な生活に慣れてしまった。
同棲よりは色気はないが、独り暮らしよりは寂しくないからだ。
アビゲイルと祐介が出会ったのは、半年前、都心部の大学に合格した祐介が上京してきたばかりの頃のことだった。祐介の下宿先である安アパートの門扉に、アビゲイルが寄り掛かって倒れていたので、祐介は興味本位で触ってみた。粗大ゴミにしては異質だが、中に人間が入っているとは思えなかったので、ヘルムを開けたり、胸部を叩いてみたりした。すると、消耗しすぎて魂が消えかけていたアビゲイルは、祐介の生命力を吸収して目を覚まし、現在に至るというわけだ。生身の女の子の方が良かった、と祐介に嘆かれたことは少なくないが、今ではどちらもこの変な生活に慣れてしまった。
同棲よりは色気はないが、独り暮らしよりは寂しくないからだ。
朝食の準備を終えたアビゲイルは、六畳間の寝室に戻った。
祐介が起きる気配はなく、布団の中で惰眠を貪っている。アビゲイルは枕元に膝を付き、彼の肩を揺さぶってみた。だが、やはり目を覚まさない。早く起きなければ困るのは本人なのに、と少し呆れながら、布団を一気に引き剥がした。外気の寒さを感じて背を丸め、小さく呻いたが、瞼は閉ざされたままだった。余程、昨夜は勉強に勤しんだのだろう。けれど、このままでは本当にまずい。朝食も冷めてしまうし、祐介も大学に遅刻してしまうし、布団も干せず終いだ。
祐介が起きる気配はなく、布団の中で惰眠を貪っている。アビゲイルは枕元に膝を付き、彼の肩を揺さぶってみた。だが、やはり目を覚まさない。早く起きなければ困るのは本人なのに、と少し呆れながら、布団を一気に引き剥がした。外気の寒さを感じて背を丸め、小さく呻いたが、瞼は閉ざされたままだった。余程、昨夜は勉強に勤しんだのだろう。けれど、このままでは本当にまずい。朝食も冷めてしまうし、祐介も大学に遅刻してしまうし、布団も干せず終いだ。
「起きて、祐介さん」
アビゲイルは掛け布団を放り投げてから、祐介の傍らに横たわった。
「起きないんなら、私の方が先に食べちゃうわよ?」
向かい合って寝転がり、アビゲイルは祐介を見つめた。眠りこけているせいか、いつにも増して締まりのない顔だ。 どこにでもいる青年で、可もなく不可もない。身長もアビゲイルよりは高いが平均的で、体格も細身で男らしさはない。
「ねえ、祐介さん?」
アビゲイルはするりと手を下げ、祐介が寝間着にしているジャージのズボンの中に差し込んだ。
「朝だからとっても元気ね」
アビゲイルの冷たい指に伝わる彼の手応えは硬く、生温い。力を入れずに手を動かすと、次第に硬度が増してきた。
「祐介さんが起きないのが悪いんだから」
祐介の体を仰向けにさせてから、アビゲイルは彼のズボンと下着を引き摺り下ろし、上を向いている性器を握った。唇を寄せるような気持ちで、銀色のマスクを性器に当てる。先端を押し潰すようにこね回していると、体液が分泌された。引っ掛かっていたマスクが滑るようになり、温度が高くなる。アビゲイルは顔を離すと、両手を使って性器を愛撫した。
「うふふふふふ」
照れと高揚の混じった笑みを浮かべながら、アビゲイルは赤黒く張り詰めた男根を柔らかく撫で、さすっていった。先端が反れるほど張り詰めたからか、祐介は目が覚めないまでも感じているらしく、時折押し殺した呻きが漏れていた。
舐めるような気持ちで、マスクを性器に這わせていく。下の筋に添わせて上げつつ、先端の穴を指先で抉ってやる。分泌量の増えてきた体液が、小さく水音を立てる。朝に似付かわしくない生臭さと相まって、淫靡な雰囲気を作った。マスクで先端の穴を塞ぎ、根元を絞り、同時に精液の溜まった袋を柔らかく揉む。祐介の漏らす呻きが、強くなってきた。性器全体の怒張が頂点に達し、後もう少し、というところで祐介がいきなり起き上がり、アビゲイルの兜を押さえ込んだ。
舐めるような気持ちで、マスクを性器に這わせていく。下の筋に添わせて上げつつ、先端の穴を指先で抉ってやる。分泌量の増えてきた体液が、小さく水音を立てる。朝に似付かわしくない生臭さと相まって、淫靡な雰囲気を作った。マスクで先端の穴を塞ぎ、根元を絞り、同時に精液の溜まった袋を柔らかく揉む。祐介の漏らす呻きが、強くなってきた。性器全体の怒張が頂点に達し、後もう少し、というところで祐介がいきなり起き上がり、アビゲイルの兜を押さえ込んだ。
「何してんだよ、お前は」
「祐介さんが起きないのが悪いのよ」
「祐介さんが起きないのが悪いのよ」
悪びれずに愛撫を続けるアビゲイルに、祐介は顔を歪めた。不愉快半分、快感半分だ。
「せめて俺が起きてる時にしろって言っただろうが。女が男の寝込みを襲うな。普通は逆だ」
「ここのところ、したくても祐介さんがさせてくれなかったんだもの」
「試験で忙しかったからな。それに、何度も言うが俺は金属塊には欲情出来ない」
「でも、ちゃんと勃ったわよ?」
「ここのところ、したくても祐介さんがさせてくれなかったんだもの」
「試験で忙しかったからな。それに、何度も言うが俺は金属塊には欲情出来ない」
「でも、ちゃんと勃ったわよ?」
ほら、とアビゲイルが発射寸前の性器を小突くと、祐介は喉の奥で呻きを押し殺した。
「あんなに刺激されりゃな。生理現象だ」
「ここまでされて出さないのも、スッキリしないわよね?」
「ここまでされて出さないのも、スッキリしないわよね?」
表情があれば満面の笑みを浮かべているであろうアビゲイルに、祐介は辟易した。
「そりゃそうだが…」
「それに、出してもらわないと私も吸収出来ないのよ。だから、お願い。祐介さん」
「なあ、アビー。朝飯は先に作ったんだよな?」
「そうよ。そうじゃなかったら、襲いに来ないわよ。ほうら、早く出さないと、せっかくの朝ご飯が冷めちゃうわよ」
「なら、大丈夫か」
「それに、出してもらわないと私も吸収出来ないのよ。だから、お願い。祐介さん」
「なあ、アビー。朝飯は先に作ったんだよな?」
「そうよ。そうじゃなかったら、襲いに来ないわよ。ほうら、早く出さないと、せっかくの朝ご飯が冷めちゃうわよ」
「なら、大丈夫か」
アビゲイルの答えに、祐介は多少安堵した。性器をいじくり回された手で料理を作られては、たまったものではない。アビゲイルは祐介の了承を得たことで調子付いたらしく、性器を扱く手に力を込め、より強い刺激を与えて射精を促してきた。
上体を起こした祐介は、アビゲイルの後頭部を力任せに押さえて顔を伏せさせ、性感で弛緩した表情を見せないようにした。ただでさえ情けない状況なのに、顔を見られるのはとてつもなく嫌だった。これは必要なことなのだと、自分に言い聞かせた。アビゲイルの手付きは以前に比べれば慣れてきた方だが、大して上手いわけではなく、本当に刺激だけで屹立してしまった。彼女は同居人としては素晴らしいが、鎧は鎧だ。だから、性愛の対象になるわけがなく、アビゲイルで射精するのは頂けない。いつものように隣室に住まう少女の顔を思い浮かべながら、祐介はアビゲイルのマスク目掛けて、迫り上がった精液を放出した。
開放感と倦怠感を味わいながら、祐介がアビゲイルの兜から手を外すと、アビゲイルは熱い白濁液に汚れたマスクを拭った。精液に濡れたマスクをなぞる指先の表情は、気恥ずかしげながら満足げだったが、頬も染めていなければ瞳も潤んでいない。それ以前に、頬も瞳もないのだ。アビゲイルの女性らしさが垣間見えるたびに、中身と外見のギャップの大きさを感じてしまう。
上体を起こした祐介は、アビゲイルの後頭部を力任せに押さえて顔を伏せさせ、性感で弛緩した表情を見せないようにした。ただでさえ情けない状況なのに、顔を見られるのはとてつもなく嫌だった。これは必要なことなのだと、自分に言い聞かせた。アビゲイルの手付きは以前に比べれば慣れてきた方だが、大して上手いわけではなく、本当に刺激だけで屹立してしまった。彼女は同居人としては素晴らしいが、鎧は鎧だ。だから、性愛の対象になるわけがなく、アビゲイルで射精するのは頂けない。いつものように隣室に住まう少女の顔を思い浮かべながら、祐介はアビゲイルのマスク目掛けて、迫り上がった精液を放出した。
開放感と倦怠感を味わいながら、祐介がアビゲイルの兜から手を外すと、アビゲイルは熱い白濁液に汚れたマスクを拭った。精液に濡れたマスクをなぞる指先の表情は、気恥ずかしげながら満足げだったが、頬も染めていなければ瞳も潤んでいない。それ以前に、頬も瞳もないのだ。アビゲイルの女性らしさが垣間見えるたびに、中身と外見のギャップの大きさを感じてしまう。
「これで一週間ぐらいは持つかしら。ありがとう、祐介さん。お腹一杯よ」
「ああそうかい」
「ああそうかい」
祐介は下着とズボンを引っ張り上げながら呟くと、アビゲイルは精液まみれのヘルムとマスクをそのままに、居間に戻った。いつもながら、これでいいのかと悩んでしまう。他にもっと良い手段があるのでは、と思うが、差し当たって思い付くことはない。
アビゲイルの動力源は、人間の生命力だ。恐らく、あの剣を振るって戦っていた時は倒した相手から吸収していたのだろう。だが、過去の記憶を全て失い、誰とも戦わなくなったアビゲイルは、人を殺さなくなったために生命力を吸収出来なくなった。けれど、何も与えなければ魂が失われかねないので、アビゲイルは人間の生命力が最も高まる瞬間に吸収することにした。それが、射精の瞬間である。死に瀕した人間の生命力に比べれば弱いが、日常生活を送る分には充分な量を得られる。
これなんてエロゲ、と内心でぼやきながら、祐介はアビゲイルの手で枕元に並べられていた着替えを取り、着替えた。朝っぱらから一発抜かれてしまっては、頭も冴え渡って眠気も感じない。これはこれで好都合だが、納得は出来なかった。嫌だ嫌だと思いながらも状況に適応してしまう自分を不甲斐なく思いながら、祐介は寝室を出て居間に入り、朝食を食べた。
いつものように、どれもこれもおいしかった。
アビゲイルの動力源は、人間の生命力だ。恐らく、あの剣を振るって戦っていた時は倒した相手から吸収していたのだろう。だが、過去の記憶を全て失い、誰とも戦わなくなったアビゲイルは、人を殺さなくなったために生命力を吸収出来なくなった。けれど、何も与えなければ魂が失われかねないので、アビゲイルは人間の生命力が最も高まる瞬間に吸収することにした。それが、射精の瞬間である。死に瀕した人間の生命力に比べれば弱いが、日常生活を送る分には充分な量を得られる。
これなんてエロゲ、と内心でぼやきながら、祐介はアビゲイルの手で枕元に並べられていた着替えを取り、着替えた。朝っぱらから一発抜かれてしまっては、頭も冴え渡って眠気も感じない。これはこれで好都合だが、納得は出来なかった。嫌だ嫌だと思いながらも状況に適応してしまう自分を不甲斐なく思いながら、祐介は寝室を出て居間に入り、朝食を食べた。
いつものように、どれもこれもおいしかった。
アビゲイルに見送られながら、祐介はアパートを出た。
門から出てから振り返ると、アビゲイルは新妻以外は絶対に身に付けないであろうエプロン姿のまま、手を振っていた。全身鎧である彼女は、当然ながらエプロン以外には何も身に付けていないので、考えようによっては裸エプロンにも見える。そう思った途端、やけに恥ずかしくなってきた祐介はアビゲイルに適当な言葉を返して、通学するために最寄り駅へ向かった。
学生やサラリーマンの姿が多い大通りを歩いていると、足音が近付いてきた。振り返ると、セーラー服姿の少女が現れた。赤いスカーフと紺色のプリーツスカートを揺らしながら駆け寄ってきたのは、祐介の隣室に住まう高校生の少女、茜だった。
門から出てから振り返ると、アビゲイルは新妻以外は絶対に身に付けないであろうエプロン姿のまま、手を振っていた。全身鎧である彼女は、当然ながらエプロン以外には何も身に付けていないので、考えようによっては裸エプロンにも見える。そう思った途端、やけに恥ずかしくなってきた祐介はアビゲイルに適当な言葉を返して、通学するために最寄り駅へ向かった。
学生やサラリーマンの姿が多い大通りを歩いていると、足音が近付いてきた。振り返ると、セーラー服姿の少女が現れた。赤いスカーフと紺色のプリーツスカートを揺らしながら駆け寄ってきたのは、祐介の隣室に住まう高校生の少女、茜だった。
「おはよう、祐介兄ちゃん!」
「おはよう、茜ちゃん」
「おはよう、茜ちゃん」
射精の瞬間に思い浮かべてしまった相手なので、若干罪悪感を覚えながら、祐介は挨拶を返した。
「今日は早いんだな。日直か?」
歩道を並んで歩きながら祐介が尋ねると、茜は頷いた。
「うん、そうなの。だから、今日は祐介兄ちゃんと一緒だね」
朗らかに笑う茜に、祐介は改めて思った。どうして自分の部屋に転がり込んできたのが茜でないのだろうか、と。
「あ、そうだ! 後でアビーさんにお返ししないと! この前、カボチャの煮物をお裾分けしてもらったままだもん」
「気にするなよ、そんなこと。あれはあいつが勝手にやってるだけなんだから」
「もらってばっかりじゃ、アビーさんにも祐介兄ちゃんにも悪いもん。何かいいものなかったかなぁー…」
「気にするなよ、そんなこと。あれはあいつが勝手にやってるだけなんだから」
「もらってばっかりじゃ、アビーさんにも祐介兄ちゃんにも悪いもん。何かいいものなかったかなぁー…」
んー、と茜は悩んでいたが、顔を上げた。
「そうだ、いいものがあった! ヤンマが取ってきてくれたハチノコ!」
「…え?」
「…え?」
祐介が身動ぐと、茜はにんまりした。
「昨日、ヤンマがスズメバチの巣を一杯壊してきたから、山ほどあるんだ」
「いや…俺はそういうのはちょっと…」
「精力付くよぉー、おいしいよぉー」
「いや…俺はそういうのはちょっと…」
「精力付くよぉー、おいしいよぉー」
屈託なく笑う茜に、祐介は半歩身を引いてしまった。茜は性格も良く、可愛らしい少女だが、その同棲相手が難点なのだ。その名をヤンマといい、名前から想像出来るように昆虫のオニヤンマである。しかも、人間よりも大柄な昆虫人間という種族だ。不良上がりのような言動を取る男で、茜にはデレデレに甘いがそれ以外には態度が極めて悪く、祐介も例外ではなかった。
出来れば関わりたくない相手だが、茜からお裾分けされては関わらないわけにはいかない。だが、ハチノコは食べたくない。茜を妹のように可愛がっているアビゲイルは、茜からのお返しを受け取らないわけがないので、絶対に食卓に上がるだろう。無理にはねつけては茜に嫌われるかもしれないし、それでは祐介の日々の潤いである茜との交流がなくなってしまいかねない。だから、ハチノコを受け取る以外の選択肢はない。祐介は引きつった作り笑いを浮かべながら、茜と共に最寄り駅へ向かった。
アビゲイルがいる生活には慣れたが、昆虫人間が隣人である生活にはまだ慣れない。
出来れば関わりたくない相手だが、茜からお裾分けされては関わらないわけにはいかない。だが、ハチノコは食べたくない。茜を妹のように可愛がっているアビゲイルは、茜からのお返しを受け取らないわけがないので、絶対に食卓に上がるだろう。無理にはねつけては茜に嫌われるかもしれないし、それでは祐介の日々の潤いである茜との交流がなくなってしまいかねない。だから、ハチノコを受け取る以外の選択肢はない。祐介は引きつった作り笑いを浮かべながら、茜と共に最寄り駅へ向かった。
アビゲイルがいる生活には慣れたが、昆虫人間が隣人である生活にはまだ慣れない。