人外と人間

S令嬢×M人外男 SM・女性上位・主従・鬼畜

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S令嬢×M人外男 1-201様

 音もなく雨の降る夜更け、古いがよく手入れをされた洋館。その裏手にある小さな扉が細心の注意を払って開かれ……入ってきたのは、人の形をしているが、体毛はなく、代わりにところどころを甲殻が覆っている、そんな生き物だった。
 彼は開かれた扉からするりと身体を滑り込ませ、注意深く辺りを見回し――正面にある階段の上に仁王立ちして、彼を見つめる少女に気付いた。

「――ジェシカお嬢様」

 彼は頭を下げる。その動きに合わせてシャラリと首に巻かれた鎖が鳴った。鎖の留具にはこの屋敷のいたるところに刻まれている紋章が、同じように入れてあり――それは即ち、彼がこの家に「モノ」として属していることを示していた。

「こんな時間に、どこへ行っていたのかしら?シルヴァ」

 純白の夜着の上から、刺繍の細かさで高価な事が見て取れる若草色のストールを羽織った少女は、あからさまに不機嫌な声音で尋問の言葉をつむぎ、カツカツと足音を立てながら階段を下りた。
シルヴァは頭を下げたまま視線を動かし、ジェシカの足をちらりと盗み見る。彼女は柔らかな室内履きでなく、艶やかな黒革のピンヒールを履いていた。
 その禍々しい艶にゴクリ――と思わず唾を飲む。

「まぁ、だんまりなの、シルヴァ――顔をお上げなさい」

「……」

 カッ、と足音を一際高く立ててジェシカはシルヴァの前に立ち、自分より頭二つ分くらいは長身のシルヴァを見上げ、彼の金の瞳を睨みつける。シルヴァは黙ったまま、ただジェシカの紺碧の瞳を見返していた。

「お前が黙りこくったところで、意味がないわ。だってわたくし、知っているのですもの――『あの女』のところに、行っていたのでしょう?」

「――ッ!!」

ピンヒールの尖った踵が、シルヴァの足の甲を覆う甲殻の隙間に刺し込まれた。
甲殻の下の柔らかな皮膚が彼の弱点である事を知り抜いた的確な攻撃に、思わず叫び声をあげそうになる。

「ほらシルヴァ、何とか言ったらどうなの?」

 ぐりぐりと弱点を抉られながらでは、叫び声をあげないでいるのがやっとだ。

「ッ――ぉ、」

 それでも懸命に言葉を搾り出す。だんまりのままでいられるのは、彼女の最も嫌うことだと知っているから。

「なぁに?シルヴァ」

「ぉ、母上を、そのよ、うにッお呼びになっては――ガぁッ」

ぶちり、とシルヴァ足の甲がたてた音は、彼の漏らした呻き声にかき消された。
忌々しそうな顔で少女が足を引くと、鮮やかな緑色の血が漆黒のヒールに滴った。
それを見てシルヴァは跪き――当然といわんばかりにジェシカは折られた膝の上に汚れたヒールを載せた。

「お前のせいで汚れてしまったわ……綺麗になさい」

シルヴァは首と舌をあらん限り伸ばし、ヒールに付着した己の血液を舐め取る。
雨に濡れた彼の身体に触れぬよう抓んで持ち上げられたスカートの中からは、興奮したジェシカの匂いが薄く香り、シルヴァは内心安堵する。
これはいつもの戯れで、自分は本当に嫌われているわけではない。
それさえ分かれば彼にとってはどんな仕打ちも無上の喜びだ。

一方ピチャピチャと靴を舐めるシルヴァの様子を眺めたジェシカは、彼の痩せてはいるが広い背に目を向ける。
昼間に彼女がつけた傷痕が刻まれている筈のその場所に、今はガーゼが丁寧に貼られていた。『あの女』の、仕業だ。
生れてすぐに母と死に別れたジェシカに、多忙ゆえに共にいられない日の多い父親が、ペット兼下働き兼ボディガードとして与えたのがシルヴァだった。
彼は主の言いつけを守り、いつもジェシカの傍に仕え、彼女の言うどんな我侭にも従ってくれた。
それなのに……

(あんな女、母ではないわ。決して許さない……お父様だけでなく、シルヴァまでわたくしから取り上げようとするだなんて)

「もういいわ。身体を拭いたら、わたくしの部屋にいらっしゃい。勿論背中の、汚らしい膏薬も取ってね……おまえにはまだ、躾が足りないようだから」

「――畏まりました」


翌日。
元気一杯スッキリした様子の少女と、対照的に青い顔をした男が逃げるように宿を後にし、後には半分溶解した部屋と掃除に来たままノブを握りしめ硬直した宿の主人が残された。





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