最終話
あの日から約五ヶ月の時間が流れた。
あの日のことを、ミラさんや尚君に聞いても、詳しくは教えてくれなかった。混沌の魔手を使用したあたしはどんな風だったか、そう聞いたら、「あなたは、特別です」と尚君が微笑んだ。答えになってない。
ただ、シャナンとソラは死んだらしい。それならそれで、良いのかもしれない。記憶が飛んでしまっているあたしには、それで十分なのかもしれない。
約束の報酬ももらった。軍資金にするには丁度良い。ギルド設立の、軍資金には。
あの後あたしはシィル君と尚君を連れて東の国へと向かった。たった一人きりの友達を、ギルドに誘うために。
その友達はアグス王国の人間と遠距離恋愛をしていたらしく、何の苦労も無く仲間に引き入れることができた。最後に会った時は二十代だったその子も、今年三十になるんだとか。相変わらず笑顔が不気味だった。
そしてあたし達四人は、ギルド設立の許可を求め、アグス王国へと戻った。
王城謁見の間。ここで待たされること約三十分。さすがにちょっとイライラ。
「まだですかぁ? 立っておくの疲れたですぅ」
シィル君はプラインに乗ってるから立ってないじゃない。そもそも謁見の間にプライン連れてくるな。と思うのだけれど、誰も何も言わなかったのでまぁ良いのかな。
「おいらもちょっと疲れた〜」
東の国から連れてきた歌ちゃんが、杖にもたれ掛かる。
尚君は涼しい顔で立っている。疲れているのかどうか分からない。どうせ疲れても表情には出さないだろうし。
と。やっと国王が顔を出した。
「いやー、遅くなってごめんよっと」
反省の色は見えない。国王、ミラさんは大きめの玉座へと腰掛ける。
「ごめんで済んだら正義の使者はいらないですぅ」
シィル君が文句を垂れる。相手は一応国王なのに。まぁあたしはその国王を殺そうとしたことがあるので、大きなことは言えないけれど。
「いやー、しかし姫、久しぶりだね〜、ハグハグする?」
「ミラさん、死ぬか殺されるか死なされるかぶっ殺されるか選ぶ?」
「や、やだなぁ、冗談だよ、冗談♪ てゆーかうちとの結婚はどうなったの?」
そういえば、そんなことを、言っていたような、言っていないような。
「うん。却下」
あっさりはっきりきっぱり言っておいた。女王様というのも悪くはないけれど、やっぱり似合わないと思うし。
「えー。ひどいなぁ」
と泣き真似をし、すぐに真面目な表情に戻り「で、結婚の件じゃないなら何の用事できたの?」と聞いてきた。話通ってないし。あの女秘書め。
「…ギルド設立許可をもらいにきたんだけど」
「あぁ、ギルドね。うんうん。却下」
ちょっと待て。さっきの仕返しか。何も考えてないでしょ。即答だし。仕返し以外考えられない。そういえば、こんな人だったかなぁ、この人。五ヶ月も会ってないと、忘れるものです。
「却下の理由が分からないんだけれど」
「さっきの仕返し♪」
やっぱりか。
「シィル君、あの人実はちょっと悪人かも」
「むむむぅですぅ。そうみたいですぅ。許可しないなんて悪人ですぅ! 悪人はくたばれですぅ」
シィル君が騎士剣を抜き、プラインから飛び降りる。
「ちょ、落ち着いて、許可するよ、たぶん」
ミラさんの言葉を聞いて、あたしはシィル君を制する。
「それで、ギルド名は?」
「愛染、愛で、染めると書いて愛染」
「うちも姫の愛で染められたいぃぃ!」
まったくどうでも良い答えが返ってきた。どうしてくれよう。この人。シィル君と同じくらい痛いんじゃないかと、今更ながら思った。
「ミラさん、あんまりふざけてると、手足もぎ取ってでっかいお鍋でお米と一緒にぐつぐつ煮込んで国王雑炊にして国民にふるまっちゃうぞ?」
「…そ、それは、さすがに嫌かも…」
「だったら、真面目に話進めてね」
「分かったよ、それじゃあ、これから依頼を受けてもらう。その依頼に成功したら、許可するよ」
ありがちなパターン。妥当と言えば妥当なんだろうけど。とにかく、どんな依頼か知らないけれど、成功させなきゃ。
「尚君以外の三人が今晩うちを満足させたら…」
ファイアランスを放った。ヴァンパイアは詠唱しなくて良いから魔法で突っ込めるところが便利よね。
しかし惜しくも炎の槍はミラさんに避けられた。さすがに覇位だけのことはある。
「あ、危ないなぁ、今のは冗談だよ、冗談♪」
「ほんっとぅに、いい加減にしてくれないと、あたし怒るよ?」
「ごめんごめん、それじゃあ、本当の依頼ね、ミッドランドって国に『賢者の石』ってのがあるから、それを強奪してきてね。一ヶ月以内に」
強奪ですか。強奪なんですか。あたし、もう闇商会じゃないのだけれど。まっとうなギルド目指しているのだけれど。
でも、そういう仕事も、悪くない。あたしと尚君、元闇商会、これは、武器になる。表に出せないような仕事も、引き受け…って違う違う。まっとうなギルド目指すんだった。
「引き受ける以外になさそうね。それじゃ、詳細を教えてもらえる?」
どちらにしても、ギルド設立許可をもらうためには、この依頼は、受けなければ。そして、成功させなければ。
最悪すぎる娘の吸血姫の物語。紅で血塗れなお姫様の物語。
策士にして高位魔術師の物語。人類の限界と謳われた国王の物語。
目的の為に魔人となった者の物語。人間を辞めた男の物語。
不自然すぎる超越者の物語。存在自体が罪悪な覇王の物語。
この世の災厄の物語。封印された魔王の物語。
〜完〜
コメント
- 賢者の石奪取話希望wティン君との出会い話希望wアナザー2希望 (^_- -- Kengo
- ここ(ttp://www.animax.co.jp/present/detail_taishou5.html)でアニメ化? -- ACE
- とうとう最終回:: おつかれさまでした〜 &heart -- natori
- 最後まで読んでくれた人、ありがとうございました! -- 葉奏