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第10話

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第10話

 ミラクルの放った四重の火炎球は、教会の跡も形も残さなかった。焼け崩れ、原型など存在しない。凄まじいまでの破壊力。
「ちょっとミラさん…あたしまで殺すつもり?」

 瓦礫の下から、葉奏が這い出てきた。
「ごめんごめん。久しぶりに熱くなっちゃったかな。あはは」

 反省の色などかけらも見えなかった。
「やりすぎだ…が、これが覇位の実力か」

 尚徳も瓦礫の下から這い出てきた。
 尚徳の言葉に、葉奏は少しだけ考え込む。あの時、ミラクルに正面から挑んだのは間違いだったと。あまりにも愚かすぎたと。正直に言って、覇位を舐めていた。舐めていた理由は、沢山いるんだからそんなたいしたもんじゃないでしょ。そうでもなかった。いや、ミラクルだけが特別なのかもしれないが。
「まぁ、これで生きてたらあのアルバートだっけ?化けも…」

 化け物だよね。葉奏はそう言おうとした。言えなかった。
 その化け物は、瓦礫の中から立ち上がった。恐怖と共に。恐怖と言うにはあまりにも最凶すぎる。最凶と言うにはあまりにも凶悪すぎる。究極的で絶対的で圧倒的。そして絶望的。
 立ち上がった化け物。アルバート。ミラクルに狙いを定め、駆けた。あまりにも直線的な動き。しかしあまりにも速い。回避など、到底不可能な速度。
 アルバートはミラクルを殴り飛ばした。鈍い音。衝撃で後方へと飛ばされるミラクル。何度も地面に叩き付けれらながら、数メートル吹っ飛んで停止。そのまま動かなかった。正確には、動けないのだろう。生きているかどうかも、確認できない。
「…い…いや…」

 何が嫌なのかすら分からない。思考がまとまらないまま、葉奏は尻餅をついた。その葉奏に、アルバートが狙いを定める。そして、加速。
 葉奏は動かなかった。動けなかった。これが恐怖?絶望?
「姫!」

 尚徳が、葉奏の前に立つ。
 その尚徳に、アルバートはアッパーカットを打ち込む。
 尚徳の体が宙を舞う。高く。高く。
 空中の尚徳を追って、アルバートが飛翔。そのまま尚徳の足を掴み、振り回し、地面へと叩きつける。嫌な音。舞う瓦礫。踊る砂埃。えぐれた大地。
 どうすることもできない絶望の中、葉奏の心は急速に冷めていった。こんな事は、何度もあった。誰かが死んで誰かに殺されそうになる。孤独に生きた千年間。数え切れない程見てきた場面。恐怖など、感じる必要はない。何度も何度も死に掛けて、何度も何度も自分を救った《とっておき》がある。
 アルバートが今度こそ、葉奏を殺そうと構える。
 葉奏はマントの万能ポケットから、グローブを取り出した。
 最凶で凶悪な化け物には、最狂で狂悪な破壊兵器を。自ら使うことを禁じた究極の兵器。使った後には、更地しか残らない。理由は分からないが、記憶も飛ぶ。だから何をしたのかも分からない。覚えていない。ただ、何も無くなる。そして過去何度も救われた。そんな《とっておき》の兵器。
 その兵器を、混沌の魔手を、装着。
 アルバートが駆けた。葉奏を殺すために。

 薄れた意識の中。視界の片隅。尚徳は異様な光景を見た。
 アルバートの拳を、葉奏が受け止めていた。痛みでおかしくなって、幻を見ているのかもしれない。そんな風にさえ思った。自分の死期も近い…嫌な予感。
「なるほどね。混沌の魔手を使っている間は、お父様の魔力のおかげで一時的に記憶が戻るわけね」

 葉奏の発言。その中で、ありえない名を聞いた。すなわち…混沌の魔手。魔王と恐れられた龍が、たった一人の娘の為に作り上げた究極の破壊兵器。血啜りの龍リュカが、最愛にして溺愛の娘に送った最悪のプレゼント。
 リュカの娘。血啜りの龍の血を啜った唯一の存在。その存在は龍と対等に渡り合うという。その存在が混沌の魔手を使用した時、龍をも滅すると聞く。この世で最も特別な存在。龍にして龍にあらず。ヴァンパイアにしてヴァンパイアにあらず。人にして人にあらず。
 しかし…なぜ姫が…。心の中で呟く。
「記憶は戻っても、私自身の力は封印されたままなのね」

 この葉奏の言葉の後、尚徳は血啜りの龍リュカの娘の名を思い出した。
 もしもそうならば。本当にそうなのであれば。尚徳にとってこれほどの幸せは無いだろう。
 その名がそうであるならば。
 血まみれの吸血姫。
 紅の姫。
 ブラッディプリンセス…ハカナ。

「禍々しい魔力…」

 長袖のシャツに短めのスカートを履いた、細身の女が呟く。
『あいつじゃないじょ』

 答えたのは、女の膝のぬいぐるみだった。
「分かってる…」
『あいつの娘が、混沌の魔手を使ったんだじょ』
「どちらにしても、あいつが出てくる…」
『うん。今のあいつの娘には負担が大きすぎるじょ。あいつの娘の意識が飛ぶようなことになれば…また…更地にされるじょ』
「行って…」
『分かってるじょ。それがくぴぴの役目だじょ』
「ごめん…本当は…うちが行くべきなのに…こうなったのも…」
『リオは気にしなくて良いじょ。好きでやってるんだじょ。あいつの娘とも、知らない仲じゃないじょ。それに、リオがきたらあいつぶち切れて何しでかすか分かんないじょ。いくら娘の体に封印されてるとは言っても、それでも龍の2、3匹はぶっ殺せるじょ』

 ぬいぐるみは右手を振り上げ、指先に力を込めた。指先から蒼い炎がほとばしり、ぬいぐるみ自らの体を焼く。
『あーあ。またぬいぐるみダメになっちゃったじょ』
殻であるぬいぐるみを焼き捨て、青い羽根と青い髪を持った女が呟く。冷たい表情は、とても不機嫌そうだった。
「また…ディスに買わせる…」
『そうしてもらうじょ』

 軽く微笑み、
『行ってくるじょ』

 青い羽根を羽ばたかせ、宙に浮くは癒浄の龍、クー・ピニオンクロゥ・ピーツ。
「死ぬな…」

 悲しげな表情で見送るは、雷鳴の龍リオ。

 この世の災厄の元へ。
 この世の最悪の元へ。

to be continued

コメント

  • 万能ぽっけ=○次元ぽっけ・・・? -- それん@ねこ
  • マタ、買わされるのね・・・w -- ディス
  • まぁ○次元ぽっけみたいなもんw ディスさん、買ってあげてくださいw -- 葉奏っぽい人
  • やっべー・・・姫の書いた表現に思わず身震いが・・・。十話書き直そうかな(´・ω・`) -- ティンカーベル♪
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