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第8話

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第8話

教会の裏。葉奏とソラ。向かい合ったまま沈黙。しかしその沈黙は長くは続かなかった。
「裏切り者にはどんな死がふさわしいでしょうか」
「あら、売女のくせにずいぶん生意気ね」
「自分だって国王と寝たんでしょうに」
「あれは不可抗力よ。ああ、いえ、あれはその、強姦よ。うん。あとで慰謝料ふんだくる予定だし」
言い訳。罵り合いでは不利と悟り、葉奏が戦闘態勢をとる。左手と左足を前に、顔が真横を向く形。正中線を隠した横半身の構え。実はほとんど我流だったりする。
「言い残すこととかあるかしら?」
微笑みながら、余裕の問いかけ。ソラは答えず、エネルギーを練る。僧侶系の人間は魔法使いと違い、龍の力の片鱗を借りたりはしない。自分のエネルギーと自然界のエネルギーを練り上げ融合させて使用する。
葉奏が最初に動いた。間合いを詰め、拳を打ち込む。ソラの回避運動。予想通りの動き。ソラが回避したその先へ、蹴りを打ち込む。かわせないはず。
「その程度ですか…血啜りの一族」
葉奏の蹴りは、完全に受け流された。驚愕。この伝言係りは弱いと思っていたのに。
「まだまだ…」
後退。同時に魔法の発動。火炎球を右手と左手に一個ずつ。デュアルファイア。順番にソラへ投げつける。
「絶対防壁…メディオス」
ソラは練り上げたエネルギーを自分の前面で具現化させた。それはまるで盾の様で。最強の矛であれ最強の剣であれ最強の魔法であれ、何者も寄せ付けない、そんな盾。打ち消し、かき消し、弾け飛ばす、そんな盾。
二重の火炎球はその盾に衝突し、打ち消された。あっけなく。脆く。最初から炎などなかったかのように。静かに。
「けっこうやるわね」
「血啜りの一族…魔王の子孫…肩書きだけですね」
ソラの不適な笑み。気に入らない。
「姫…やはり手伝おうか?」
二人の攻防を見ていた尚徳の問い。葉奏は首を横に振ることで答えた。
「しかし…こいつは覇位並みの強さだ。正面から一対一など…」
それでも引かない尚徳。覇位が何だと言うのだろう。それがどうしたというのだろう。もう一度首を横に振った。
二人のやり取りを黙って聞いていたソラが問う。
「不思議です…なぜあなたは正面から戦うことに固執するのですか?それではまるで冒険者。くだらないです。覇位でしょうが何でしょうが、暗器を使うなり暗殺術を使うなりすれば、殺せるでしょう?」
葉奏は答えない。
「冒険者は正面から戦うことには特化していますが、対アサシンにはまったく慣れていない。冒険者は名乗りをあげて敵を打ち、名声を得る。私達には関係ないはずです。私達は会話をかわすこともなく、ただ命を奪うだけ。迅速に、確実に」
葉奏は答えない。
「裏切り者。吸血鬼。なぜミラクルを殺さなかったのです?なぜ正面から戦ったのです?殺すだけなら、いくらでも方法はあったでしょう?それとも本気でホレタのですか?」
そう…殺すだけなら…標的が覇位であっても殺せる。正面から戦えばきっとあっさり負けるだろう。しかし殺すだけなら…。
そういえば尚徳はあの時ミラクルを殺せていた。なぜ殺さなかったのだろう?疑問。どうでも良い疑問。すぐに忘れた。
「裏切り者。吸血鬼。なぜ私達を裏切ったのです?答えなさい」
葉奏は答えない。
「…あなたまさか…冒険者になりたいとか思ってました?ねえ?そうなんでしょ?でもなれなかった?そうでしょうね。だってあなた吸血鬼ですものね。魔王の子孫ですものね。血啜りの一族ですものね。忌み嫌われる者ですものね」
葉奏は答えない。ただ少しずつ、殺意だけが膨らんだ。
「そう。そうだったのね。まっとうな人間に受け入れてもらえないからこっちの世界に入った。でも、国王はあなたを抱いた。嬉しかったんでしょう?そうなんでしょう?最高に傑作ですね。あなた利用されてるだけなのに。笑いが止まりません!」
葉奏は答えた。
「ペラペラペラペラ…勝手な妄想で喜ばないでもらえる?」
同時、間合いを詰める。ソラはまだ笑っている。拳を打ち込む。避けられる。気にしない。連撃。右。左。蹴り。全て回避された。舌打ち。
「そこまでよ悪党!僧侶さんから離れなさい!」
突然聞こえた女の怒声。葉奏でもソラでもない。
一瞬驚き、声の方を確認。頭に大きな赤いリボンを乗せた女。大きな騎士剣と軽そうな鎧。大きな黄色の鳥にまたがっている。風貌は…異国の騎士、といった感じ。見た感じ十五歳か、十六歳程度。
「この騎士見習い、シィル&プラインがいる限りっ!」
リボンの女…シィルかプラインは桃色の髪をさらっとかきあげながら続ける。
「あ、ちなみに私がシィルで、この子がプラインですぅ」
黄色い鳥…プラインの頭を撫でるシィル。
「くえー」
っとプラインが答える。
「えぇっと、続けますね。シィル&プラインがいる限りっ!この世の悪は滅びて散る!」
騎士剣を右手で空にかざす。
「さぁ悪党!おとなしく私に斬られなさい!」
空気が凍った。
沈黙。長い長い沈黙。永劫に、永遠に、永久に、悠久に打ち破られないような沈黙。

「…い…痛い子ちゃん*1…?」
最初に口を開いたのは葉奏だった。
「痛い子だな」
尚徳が答える。
「冷めました。帰ります」
ソラは帰ってしまった。それを引き止める気力もなかった。
「し…失礼ですぅ!初対面でいきなり『痛い子』とか!やっぱり悪党ですね!」
シィルは騎士剣を構えた。
「いあ、あのね、初対面で悪党とか言うのは失礼じゃないの?」
「悪党には何言っても良いって騎士学校で習いましたぁ」
まともな学校ではなさそうだが、深くは突っ込まなかった。
「むしろあたしは悪党じゃないし。どっちかとういと、正義の味方。うん。国王直々の命令を受けて、悪の秘密組織の幹部と戦っていたのよ」
普通は信じないだろうが、まったくの嘘でもない。
「え?そうだったんですかぁ!なんかオーラが悪そうだったんで勘違いしちゃいましたぁ!ごめんなさい!」
信じたらしい。
「…まぁ、良いけど。子供が騎士の真似なんてしちゃだめよ。危ないからね」
「あ、私子供じゃないですよぉー。二十六歳ですよぉ」
嘘だ…と思ったが声には出さなかった。
「それじゃあ、あたし用事あるから、尚君、行きましょ」
尚徳の腕を掴んで、足早にその場を去ろうとする。
なぜかシィルが追ってくる。プラインは結構早い。
「あのぉ、待ってくださぁい。私、実は違う大陸からきたんで、えっと、そのぉ、お金ないんですぅ。見捨てないでくださいぃ!お腹空きましたですぅ!」
さっきまで殺そうとしていた相手に言う言葉ではない。
葉奏は立ち止まり、シィルの顔を覗き込む。泣き出しそうな顔をしていた。そして、良く見るととても可愛いという事実に気付いた。そう、葉奏好みの。
「二十六歳…女騎士…ああ、見習いか…ちょっと痛いけど…好みだし…」
少し考える素振りを見せて。
「オッケー。シィル君。お金は体で稼いでね &heart 」
極上の笑みで葉奏。困惑するシィル。
「あ…あのぉ…体って…そのぉ…やっぱり…んー…えと…優しくして下さい…」
商談は、成立したようだ。

to be continued

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注釈

*1 言動が痛かったり、あと思い込みが激しかったり、大雑把に言うと変な子w