第9話
教会に着いたミラクルの目に飛び込んできた光景。
「あん、そこ…もっと強く…」
「はいですぅ」
「なかなか上手ね…」
「私、こういう事なれてなくて…」
「本当に?かなり良いんだけど…」
大きな赤いリボンを頭に乗せた少女が、葉奏にマッサージをしていた。
「あー、姫。何してんの?いあ、その子は誰?てゆーか声がいやらしいよ?」
困惑しつつ問う。葉奏はちらっとミラクルを見て
「ああん…シィル君…上手…」
無視した。
「ちょ、無視はいくない!」
ミラクルの叫び。
「シィル君ありがと。もういいよ」
葉奏は少し残念そうに、リボンの少女に声をかけた。
「それで姫、その子は誰なわけ?」
「通りすがりの騎士見習いシィル君。今日からあたしの家来2号。」
葉奏はシィルの頭を撫でながら
「はい、お駄賃」
と財布からお金を渡す。その財布をよく見ると、ミラクルの財布だった。いつの間に取ったのか。朝から無いと思っていたのだ。
「うちの財布…だよね?」
「元、ミラさんの財布。今はあたしの」
「中身はうちのだよね?」
「元、ミラさんの中身。今はあたしの」
「それ、泥棒って言うんだよ?」
「国王の物は国民の物。国民の物は国民の物」
「…姫は国民違うじゃん…」
「あら、この前住民票取ったわよ。税金は納めたことないけれど」
ミラクルは頭を抱えた。城で一人シリアスやってたのがアホみたいだった。しかもそのせいで、秘書のソレンセンは蜜柑の美味しい実家へ帰ってしまった。辛く当たったりはしていないと思うのだが。全てが終わった後で迎えに行かなくては。
「そうだシィル君、これ」
葉奏がシィルに鍵を渡し
「あたしの部屋使ってね。どうせ今日は帰れないから」
部屋の住所とここからの道のりを告げた。
「ありがとですぅ!」
シィルは飛び跳ねながら喜んだ。子供は可愛いな、とミラクルは思った。もし大人だったら、とてつもなく痛いが。
「じゃあシィル君、あたし達用事があるからもう行って。また後でね」
配慮。巻き込まないための配慮。
「はぁい。姫またですぅ!」
シィルは大きな黄色い鳥に飛び乗り、教会から出て行った。鳥を教会に入れるのはどうかと思う。その前にあの鳥は何だろうか…少なくともアグス王国には生息していない。
「さてミラクル王、そこの女僧侶…ソラは闇商会のナンバー2だが…」
どこからともなく尚徳が現れる。最初から居たのだろうが、まったく気配を感じなかった。
尚徳の目線の先、金髪の女僧侶が懺悔を聞いている。
「へぇ…美人だね…って、なんで闇商会の人間が教会で僧侶やって懺悔聞いてるのさ」
「ちなみにさっき姫が一戦交えた。痛い子…シィルの乱入で二人共冷めたが」
「ナンバー2ってことは姫や尚君より強いわけ?」
「おそらく彼女は覇位並み…一対一の正面戦なら、私では勝てないだろう」
尚徳の答え。
「全然あたしの方が強いし」
葉奏の答え。
葉奏のはたぶん自信過剰で、尚徳の答えが正しいだろう。そう判断した。
そしてしばらく雑談で時間を潰す。教会内に一般人が居なくなるまで。三十分程で、教会の中には四人だけになった。ミラクル、葉奏、尚徳、ソラ。僧侶が一人しか居ない教会というのも珍しい。たまたま休みなのか。最初から一人なのか。消されたのか。どちらにしろ都合が良い。
ソラに話しかけようとしたその時、そいつ等は現れた。入り口から入れば良いものを、わざわざ教会の壁をぶち破り、派手に登場した。
一人はシャナン。忘れるはずもない。弟。大好きだった弟。
もう一人は真紅の鎧を着込んだ大男。兜の先端にヤカンの様な突起物。とても冷たく、感情も何も無い様な印象。
「久しぶりだな、兄貴」
ミラクルに向けられた挨拶。
「そうだね…弟」
それに答える。
「ソラ、素敵な報告をありがとう。それと、この教会はあきらめろ。また新しいのを立ててやる」
ソラは頷き、シャナンの隣に並ぶ。
「…へぇ…兄弟だったの…。似てない兄弟ね…」
葉奏は呟きながら戦闘態勢をとる。尚徳もすでに戦闘態勢だ。
「あわてるな、裏切り者共。兄貴に挨拶に来ただけだ。ソラ、帰るぞ」
シャナンとソラは、あっけないほど簡単に背中を見せる。本当に挨拶に来ただけらしい。
「あぁ、そうだ。アルバート、命令だ。この三人をぶち殺せ」
振り返り、シャナン。真紅の鎧を着込んだ大男が、頷く。
「なぁ兄貴。こいつに勝てたら、コロシアムで待ってるぜ」
「待て!シャナン!」
ミラクルは火炎の槍を放った。詠唱省略魔法は不意打ちにはとても便利だ。
火炎の槍は、シャナンに届くことは無かった。真紅の鎧…アルバートが自らを盾にし、火炎の槍を防いだ。ダメージを受けた様子はない。
「…ミラさんの魔法が…効いてない…?」
葉奏の驚愕。
ミラクルは軽くショックを受けた。鎧の上からとはいえ、まともに食らったはずなのに一切のダメージが見られない。信じられない。信じたくも無い。
「ふざけるな!」
ミラクルは怒り任せに魔法を発動させる。右手と左手に火炎球を二つずつ。クワドロプルファイア。並みの魔法使いには使えない。全てを焼き尽くす四重の火炎。魔力を大量に消費するのが難点だが、今までこれをくらって生き残った者は、甲鱗の龍ティアマト以外には居ない。
「燃え尽きろ!」
四重の火炎球を、アルバートへと放つ。
その頃のシィル&プライン。
「あのぉ、お部屋が無いってどーゆーことですかぁ?」
プラインの超高速機動力で、すでに葉奏に教えられた住所へ到着したが、部屋は無いと言われた。理解できなかった。お腹も空いた。
「だからな、お嬢ちゃん、その部屋は家賃を払ってもらってないから引き払ったんだよ。こっちは吸血鬼を泊めるってだけでも嫌だったんだから」
「…あなた…悪徳不動産業者ですね!姫を騙したんですね!」
「いや、わしはただの大家…」
「問答無用です!この世に悪がある限り!シィル&プラインは今日も剣を取る!」
右手で騎士剣を宙へかかげる。
「悪は滅びて消え去るのが定め!必ず正義は勝つのです!」
左手で髪の毛をかきあげ、悪徳不動産業者…と決め付けた相手を睨み付ける。
「天誅ぅ!」
なんの躊躇も無く、一切の迷いも無く、一片の慈悲もなく。
「うわ!何をす…」
シィル&プライン、指名手配。
極めて危険であるという事で、アグス王国正規軍も確保、または抹殺に乗り出す。各ギルドにも手配書が配られた。賞金額は20万G。
to be continued
コメント
- 賞金首ですか… (T-T -- シィル
- 賞金首ワロタw やっぱミラさんがいい味出してるね♪ -- ティンカーベル♪
- ごめんねシィル君、なんとなく賞金首にしてみたの (^-^ -- 葉奏
- ミカンの美味しい実家・・・。ミラさん関係なく毎週帰ってたりしてw -- それん@ねこ
- やっぱミラさんだよねぇ。Bloody Princessの本当の主人公では? (^-^ -- Kengo