閑話
「そんなっ・・・!」
王立図書館の最奥。古書ばかりが並んでいる棚の前で、一冊の本を前に尚徳が体を震わせていた。
「これに・・・これに書いてあることが真実だとしたら・・・」
手に取っている本は、タイトルすらかすれて読めないほど古びた書。書いてある文字も現存のものではなく、もはや廃(すた)れた古代言語である。古代語から外国語まで、言語に精通した尚徳だからこそ読める本。
「ガラナ遺跡自体が建造されたのは1200年前・・・しかし地下一、二階が造られたのはそれよりさらに200年前だ・・・」
ぱたん、と本を閉じ、荒い息で呟く。
「もともと、ガラナ遺跡は神殿ではなく地下墓地(カタコンベ)だった・・・」
その本に書いたあった驚愕の事実。尚徳は冷や汗を垂らしながら、さらに独りごちた。
「そして三、四階なんてものは存在しない。二階の下に巨大な円形の空洞を造り、その高さが二階分あるからこそ地下四階と称されたということ・・・。これが造られたのが、一、二階が造られて150年後・・・」
尚徳は更にもう一つの本を手に取り、付箋(ふせん)のしてある場所を無造作に開く。
「流行り病の患者を全て、そこに閉じ込めて飢え殺した・・・」
むかしむかし、かかったひとはみんなしんでしまうという、おそろしいびょうきがありました。 おうさまはそれいじょうびょうきのひとがふえないように、びょうきにかかったひとをみんな、ガラナぼちのちかにとじこめました。 ちかにとじこめられたひとたちは、たべるものもなく、みんなつぎつぎにしんでしまいました。
子供向けに書かれたと思われる、古代言語の残酷な童話。尚徳はさらにページをめくる。
「これが本当なら・・・」
聞こえるはずはない。それは分かっている。それでも、呟かずにはいられない。
「ガラナ遺跡では、何も殺しちゃいけない・・・殺したら目覚める・・・!」
すると、なんということでしょう。しんだひとたちのからだがひとつにあつまり、おおきなきょじんになったのです。 きょじんはちかのかべをなぐりこわし、ちじょうへとあらわれました。 おうさまはおどろいて、ぐんたいをだしてきょじんとたたかいました。 しかし、けんできろうとやりでつこうと、きょじんはすこしもとまりません。 たくさんのいえがこわされました。 たくさんのひとがころされました。 おうさまのぐんたいはぜんいんころされて、きょじんをとめることはできなくなりました。 ひとびとはきょじんをおそれて、かくれてくらしました。 きょじんは七にちのあいだあばれまわり、七にちめのよるにもとのしたいにもどりました。 おうさまはきょじんをおそれて、にどとめざめないように、ガラナぼちのまうえにしんでんをたてました。 それいらい、ガラナぼちはガラナしんでんとよばれるようになりました。
ガラナ遺跡地下の暗闇で、ゆっくりとそれは雄叫びをあげた。