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第11話

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第11話

「えーい、襲っちまったもんは仕方ねえだろ! こうなりゃ倒すぞハジャ!」
「全部親父の責任じゃねえかよ!」
ハジャと呼ばれた魔術師がわめく。
「改めて自己紹介しよう!」ハジャの言葉を聞かず、大柄な壮年の男が向き直った。
「俺の名はアッサーラ! 誰にも呼ばれたことはないが、通称『アグスの狼』だ!」
「つまり自称じゃん・・・」
ティンカーベルが疲れた顔で呟く。
「そしてこっちは息子のハジャ!」
「あ、息子ッス」
ぺこ、と丁寧にハジャが頭を下げた。
 よく分からない二人組。ショーティは弓を下ろし、剣を地面へと置き、改めて二人へ向き直る。
「私が相手するよ♪」
ごく自然体で、構えもせずに言う。
「私に勝ったら、金目のもの全部あげるよ」
「マジか!」
アッサーラが笑った。
「だったら来いや!この小むすひでぶっ!」
 アッサーラの言葉は、頬へと突然襲い掛かった痛みに阻(はば)まれた。しなる皮の鞭(むち)。ショーティがぴしっ、と地面を叩いて、そのしなりを示すかのように両手で引っ張る。
 アッサーラの顔が真剣味を帯びる。そして背中から巨大な大槌を出し、地面を打った。
「ゴングは、既に鳴ってるってか」
にや、と笑う。
「いくぜハジャ! 援護しな!」
 アッサーラが大槌を振りかぶり、その後ろでハジャが魔法の詠唱へと入る。
 ショーティは再び鞭を振るい、アッサーラの首を狙う。
「ふんっ!」
アッサーラが力まかせに大槌を振り回し、鞭の軌道を阻んだ。同時にショーティへと詰め寄り、大槌を振り上げる。
「『緋炎の龍ラスト・ドラゴン』が力の片鱗(へんりん)」
 ハジャの詠唱の声。ショーティはアッサーラの大槌をかわしながら、口中でモゴモゴと呟く。
「『水鏡の龍カミュ』が力の片鱗」
 ショーティの魔法詠唱。唱えながらもアッサーラの大槌をかわし続け、隙があれば鞭を振るう。
 アッサーラの攻撃は何一つかすることもなく、しかしショーティは確実にダメージを与える。
「・・・焦熱の儀に伴い産まれよ炎熱。火炎槍打<ファイアランス>」
「・・・その身を以て我が前の全てを跳ね返せ。反射鏡面<リフレクション>」
 ハジャの杖から発せられる炎の槍。一目では幾つあるか数え切れないほどの槍が、まっすぐにショーティを射抜こうと疾走(しっそう)する。しかしその全てが、ショーティの作った鏡に跳ね返され、逆にハジャへと向かってゆく。
「嘘っ!?」
ハジャが信じられない、といった顔で体ごと槍をかわした。
「は・・・反射呪文だなんて!?」
「相変わらず見事なもんだね〜」
ティンカーベルが感心したように頷く。
「流石は七つの武器を操る女♪」
「剣と弓矢はディスさん直々に鍛えたらしいね」
葉奏がそれに答えるように呟きを返した。
「魔法はおいらが教えたけど・・・あそこまで即座に吸収できる人間もそうそういないね」
歌妃が微笑を浮かべながら呟く。
「おいら達の中じゃ、一番天才って言ってもいいんじゃないかな」
 ショーティが鞭を捨て、ごく短いナイフでアッサーラの攻撃を受け流す方法へと変えていた。七つの武器を操る、別名『全身凶器のショーティ』。
 きん、と金属音がしたと共に、アッサーラの大槌が宙に舞った。ショーティが得意げに、ナイフを手の先でまわす。
「ま、残念だけど殺しちゃだめらしいから」
ショーティが微笑みながら、ナイフをひゅん、と投げる。
「最後の武器で相手したげる♪」
 次瞬、アッサーラの視界からショーティの姿が消えた。
 アッサーラの驚く間もなく、その頬へと拳が突き刺さる。一瞬での移動。アッサーラが宙に舞った。
 そして改めて、ハジャの方へと向き直る。そこには先程ショーティが投げたナイフが、頬のぎりぎり届くか届かないかの位置に刺さり、震えているハジャの姿があった。
「なるほどー。戦闘不能にできたね」
ティンカーベルが頷く。
「今日は七つ目の武器が出なかったなぁ」
「ある意味最強なのにねえ」
歌妃も残念そうに呟く。
「きっと最終兵器なんだよ♪」
葉奏があはは、と笑う。
「しょーの七つ目の武器、『うっかり』はね」
 ショーティがジト目で三人を睨んだ。全員、気づかない振りをした。
「で、どう? どう? 合格??」
 ショーティがにこにこと笑いながらディスに駆け寄る。ディスがにや、と微笑んだ。
「ふごーかく」
あっさりと言い放つ。ショーティが目を見開いて驚いた。
「手本を見せてやるよ。見てな」
 次瞬――ディスが消えた。正確には、目にも止まらない速さで動いていた。
「ぎゃぁぁぁぁっ!」
ショーティの背後から、アッサーラの悲鳴。ショーティの隙を見て、大槌を振り上げていた。
 その右手が、肩から斬り落とされて。
「一番簡単な方法だよ」
ひょい、と血に染まった剣を一振りして。
「敵を殺さずに戦闘不能にするには」
 返り血に染まった顔で、その龍殺しが笑う。
「腕一本落とせばいい」

 五人を乗せた馬車が走り去る。残されたアッサーラが、肩を抑えてもだえ苦しんでいた。
「親父! 親父!」
ハジャが心配そうに、何度も呼びかける。
「ひでえよ! あいつらひでえよ!!」
「・・・ど・・・ちくしょう・・・」
アッサーラが震えた声で、息を切らせながら呟いた。
「殺してやる・・・『流星矢のディス』・・・」
「見事な逸材(いつざい)だ・・・あの娘・・・」
 す、と音もなく、目の前に人影が現れる。
 白衣を着、帽子を目深にかぶった不気味な男。マスクごしの声はひどくこもり、その声で不気味な笑い声をあげる姿は、まさしく狂っているようにも見える。
「君達、このままでは、いずれ死ぬねえ」
 にやり、と男が笑う。ハジャが眉間に皺を寄せて立ち上がった。
「てめえ! 何が言いたいんだ!」
「ふふふ・・・気に障ったかね? 私が、君達の復讐を手伝ってあげようと言っているのだがね」
 男の言葉に、アッサーラが目を見開く。男がにやり、と笑った。
「復讐を求めるなら、来るがいい。しかし、己の身がどうなってもいいのならな・・・」
 アッサーラが小さく、しかし確実に頷いた。男が満足げな笑みを浮かべ、パチン、と指を鳴らす。
「連れていけ、アルバート」
 巨大な鎧に身を包んだ、大男。ゆうにアッサーラの二倍はあろうかという巨大な体で、軽々とアッサーラ、ハジャの両名を抱える。
「自己紹介しておくか」
男がマスクを取り、皮膚がただれた歪んだ顔で笑う。
「私の名はベロ。人は私を、『科学の妖怪』と呼ぶ」

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