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第12話

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第12話

 馬車がガラナ遺跡へと到着したとき、既に陽は傾きかけていた。
「ちっ」
馬車から降りたディスが、近くの木に縄でつながれている三頭の馬を見ながら舌打ちする。
「『七魔団』が先に着いたみたいだな。荒らされてなければいいが・・・」
「そうね・・・」
葉奏が馬車を降りながら相槌(あいづち)を打つ。
 歌妃も馬車を降り、ショーティと、その肩に乗ったティンカーベルが最後に地面へと立った。
 五人で軽い食事をとり、改めて、ガラナ遺跡へと向き直る。
 地上部分は荒れ果て、まともな壁は何一つ残っていなかった。ひび割れた柱や、地面に横たわる女神像、舞う土煙などが、その遺跡がどれだけの時を経てきたのかを物語っている。
「行きましょう」
葉奏が全員に言う。強く、全員が頷いた。
 荒れ果てた地上部分の一角にある階段へと歩く。地下へと続く階段は土ぼこりにまみれ、その上に三種類の足跡が重なっていた。
 ディスを先頭に、ゆっくりと階段を下りる。
「うっ・・・」
強烈な悪臭に、ディスが顔をしかめた。
「ティンちゃん、光を」
「あ、うん」
ティンカーベルも臭いに顔をしかめながら、ぼそぼそと呟いた。
「『光陰の龍コヤンヤア』の力の片鱗。我が身に闇を照らす光を。照華光明<グローリーライト>」
 かっ、とティンカーベルの体が光を放つ。 闇に包まれていた地下道が、ティンカーベルの光に浮き彫りにされる。灰色の石壁と、道に横たわる数多(あまた)の屍。
「うげえ・・・」
ショーティが顔を歪め、鼻と口許を手で隠す。
 ゴブリンの屍から漏れる血の臭いと死臭。どこからか漂う腐臭。さらに長年の埃(ほこり)っぽさが悪臭をひどいものとしている。歌妃が少し離れたところで吐いていた。
 葉奏だけは特にその悪臭を感じた様子も無く、道へ続くゴブリンの屍と、壁に幾つも開いている四角の穴を見やった。それぞれに、大きな『何か』が収められている。
「・・・どうやら、ゴブリンの根城だったみたいね」
ふう、と小さく嘆息して。
「『七魔団』も随分ハデにやったわね・・・」
「ま、手間が省けていいんじゃね?」
ディスが相変わらず鼻をつまみながら。
「姫、平気なのか? この臭い」
「ええ・・・血の臭いは慣れてますから・・・」
どこか憂うような目を、空に泳がせながら。
 そして五人は、進む。

 道中は、ほぼ全てのゴブリンが『七魔団』に討たれていたため、楽に進むことができた。
「これだけ暇だと、逆につまんないー」
ショーティがぶつぶつとぼやく。
「最後あたりにでっかい龍でもどーんと出てこないかなあ。これでしょーちゃんも龍殺し!みたいな♪」
「おいおい、滅多なこと言うなよ」
ディスが渋い顔で制す。
「龍はマジで恐ろしいぞ。もう二度と会うのはごめんだ・・・」
「ほえ?」
ティンカーベルがすっとんきょうな声を上げた。
「ディスさんほど強くても、龍相手じゃやっぱ苦戦するの?」
「苦戦ほどの騒ぎじゃないって・・・。『甲鱗の龍ティアマト』を倒した時でさえ、何度死ぬかと思ったか分からないよ。仲間がいたのが重要だね」
 ディスがははは、と笑って話を打ち切った。龍殺しの記憶を思い出したくないのか、それは分からない。
 ただ一言、ディスが呟いた。
「あの時は仲間だったのに、何で今は争ってるんだろうな・・・」
 どこか寂しげに。そして、昔を懐かしむかのように。

 二階へ降りてしばらく歩く。やはり一帯に、ゴブリンの屍ばかりが転がっていた。
「一体何体いるんだ・・・」
はあ、とディスが溜息をつき――次瞬。
 地面に転がっていた屍が、ずずっ、と引きずられるように動いた。それも一匹だけではない。あたり一帯に転がっている全ての屍が、一つの意志に統一されているかのように一方向へと動き出す。
「ひっ!」
ショーティが悲鳴をあげた。ゴブリンの動きは次第に早さを増し、葉奏たちがやってきた方向から、恐らく三階への階段があるであろう方向へと一目散に動く。
「何が起きてるの・・・・?」
葉奏はゴブリン達の過ぎ行く先を見ながら、驚愕に目を見開いていた。
「みんな、この先へ急ぎましょう!」
 もう既に、恐らくは全ての屍がそこを通り過ぎていた。葉奏が走る。四人がそれに続く。
 そしてまっすぐ走った先にあったのは、砕けた壁と、その奥に続く長い階段だった。
「・・・『七魔団』が先に着いていたのか」
力任せに壊された壁を見ながら、ディスが呟く。
「多分、スカイの仕業だな。相変わらず何もかも、力技で済ます奴だ・・・」
 葉奏が階段へと踏み出し、ティンカーベルがその肩へと乗る。かなり深く、長い階段。二階以上に、そこは埃が多かった。
 ゆっくりと、一歩一歩降りてゆく。そしてティンカーベルの照らした光の先に、階段の出口と、そこに横たわる人影が映った。長い髪を後ろで束ねた、男の影。
「ボノさん!?」
葉奏が驚きに目を見開き、駆け寄る。
「・・・逃・・・げろ・・・」
途切れ途切れに、ボノが呟いた。
「龍・・・・・が・・・・」
 嘘のような、現実だった。
 確かに目の前に、ボノがいる。しかし葉奏はその姿に目を疑い、これが夢であることを願った。
 目の前に横たわるボノの、下半身がなかったから。

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