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第14話

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第14話

「・・・ディスが死んだ」
 くぴごんを膝に乗せて、椅子に座ったリオが小さく呟く。しかし内側に深い悲しみを込めて。二、三度、くぴごんの頭を撫でた。
「・・・ファフニールが目覚めた。また、この世の均衡(きんこう)が崩れる」
『そうなる前に止めるのが役目』
宙空のどこかから声。リオは驚いた様子もなく、小さく頷く。
『千年前の過ちは繰り返さない。今度は早急に止める』
「ファフニールを止めて」
宙空の声に応えるかのように。
「ディスの魂が『あいつ』に使われてからじゃ、もう遅い」
 リオはそこでふっ、と嘆息し、そして確かな声で呟いた。
「行って」
 そしてリオの膝から、くぴごんが消えた。

 スカイが死んだ。ボノが死んだ。ディスが死んだ。愛染のメンバーも死んだ。
 右足を失って動くことも出来ないロランが、悲痛に息をつく。目の前の巨人は、未だにロランを殺そうとはしない。最後の獲物と考えて勿体(もったい)つけているのか、それは知れなかった。
「・・・早く殺せ」
 どこか祈るような面持ちで、ロランが呟く。じっとしている間にも、千切れた右足の痛みは増していった。
 と――途端に、巨人が驚いたように体勢を崩した。
 その目はロランをみておらず、その後ろをじっと見つめている。その奇妙さにロランは眉根を寄せ、首だけで後方を見やる。
 心臓を貫かれて息絶えたはずの、葉奏がそこに立っていた。
 しかしその表情はいつもの穏やかな微笑でもなければ、先程のような恐怖の眼差しでもない。そこに立っている葉奏は、どこか不機嫌そうな目をしながら、笑っていた。
『・・・貴様』
初めて、巨人が言葉を出した。地の底から響いてくるかのような、威圧的な声音。しかしその声のどこかに恐怖が混じっていることが、ロランにも分かった。
『リュカか!?』
 リュカ――そう呼ばれた葉奏が、小さく笑った。そして前髪を無造作にかき上げながら、声を出す。
「よぉ、ファフ」
くくくっ、と含み笑いをいたる所に混じらせながら。
「何年ぶりだ? もう三千年になるか」
『何故貴様が・・・!』
 驚きと恐怖の混じった声。この圧倒的な力を持つ巨人が、葉奏の中にいる『何か』を異様なまでに恐れていた。
「悪ィが、寝起きのリュカ様はちと不機嫌だぜ」
口許から笑いをはがし、びしっ、と人差し指を巨人へと突きつける。
「特に、ずぅーっと口説いてた『破魔の龍レイア』ちんがやっと俺の前でブラウスのボタンに手をかけるという最高でハッピーな夢を邪魔された今はなァ!」
 リュカ――その名前に、ロランは聞き覚えがあった。
 太古の四十八龍が一人であり、『全知の龍エルトシャン』、『天照(あまてらす)の龍エンジェラ』と並ぶ三柱龍(トリニティ)と称されし『血啜(ちすすり)の龍リュカ』。~このよに破壊と殺戮を創造し、人であり人でない吸血鬼の始祖として有名な龍でもある。
 もっとも、それは文献上のものでしかない。伝説級の龍が人前に姿を現すことなど滅多にないし、何よりも『血啜の龍リュカ』は遥か昔、『天照の龍エンジェラ』をはじめとした龍の軍団により討伐されたという伝承が残っている。
 しかし、そのリュカがここにいる。
「長かったなァ・・・三千年だ。確かてめェも討伐軍のほうに参加してやがったよなァ」
 す・・・と葉奏――リュカは、その腰に下げてある鉄の塊を手に取った。葉奏が常に持ってなければ不安だった『お守り』、それがリュカの手により、無機質な武器へと変わる。
「殺すぜ、ファフ」
 それは棍棒でもなければアクセサリーでもなく、ましてやお守りなどという陳腐なものでは断じてない。
 リュカは穴の開いた先端を巨人へと向け、鋭く突き出した可動部分へと指をかけ、無造作に狙いを定めてそれを引いた。『銃』と呼ばれる最古の武器から、鈍色(にびいろ)に光る弾丸が発射される。
 どぉん、という大きな炸裂音と共に、巨人の右肩が吹き飛んだ。
『ウガァァァァァァァァッ!』
 巨人の叫び。スカイラインの斬撃も、ショーティの矢嵐も、歌妃の魔法も、何一つ通用しなかった体がはじけ飛ぶ。『血啜の龍』の最強たる所以(ゆえん)。何もかもを破壊する破壊力。
「・・・ちっ」
軽くリュカが舌打ちをして、『銃』の中央部にある円筒を真横へと傾けた。リボルバーの弾倉から、鈍色にきらめく六つの弾丸が手へと落ちる。
「弾切れか。久々に使うとこれだから困りモンだ」
 巨人が動いた。左腕でリュカを屠(ほふ)ろうと振り上げ、まっすぐに叩き落す。リュカは右手一本でそれを払い、何事もなかったかのように、呆けているロランを見た。
「おい、そこのお前、死霊術士だな?」
 かつて龍殺しとして讃えられてから、ついぞこんな失礼な口調は聞いたこともなかった。
「そ・・・そうだ・・・」
恐れに満ちた声音で。ロランがそれだけ返す。残る言葉は、顎が震えて言葉にならなかった。
「なら命令だ」
ロランのもとへ、手に落としていた弾丸を投げつける。
「それに一つずつ、魂を封入しろ。ゴブリンのやつだろうが」
説明しつつ、巨人の攻撃を片手に払いのけながら。
「そこで死んでる人間のやつだろうが、何でもいい。てめェならできんだろ?」
 ロランはこくこくと頷き、その弾丸を改めて見た。ただの鉛の塊にしか見えないそれに魂を封入するために、周囲の魂を探る。死霊術士であるロランは周囲に存在する魂を利用することで様々な攻撃を可能としているが、場合によっては今のように、物へと魂を封入することもできる。恐らくリュカは魂を高速で発射することによる、衝撃の力で破壊力を増しているのだろう。逆に言えば、燃費が悪いとも言える。
 人間の魂を使うことは良心が許さず、ロランは弾丸全てにゴブリンの魂を込めた。そして相変わらず片手で払い続けているリュカの足元へ、弾丸を投げつける。
「・・・これでいいのか?」
 弾丸を拾って、リュカが一つ一つ確認する。そして確認し終えて、にやりと笑った。
「上ぉ等ぉ」
全ての弾丸を弾倉に込めて。
「じゃあ、記念だ」
 確実な死を与えるソレをロランへと向けて。
「最初にお前を殺してやるよ」
 引き金を、引いた。

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