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第3話

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第3話

ティンカーベルが「ミラさんを殴る!」と意気込んで外へと走り出し、それを歌妃が追いかける。そのため自然にその場には葉奏とトシヤだけが残ることになった。
「で、どうするんだ?」
トシヤが溜息を吐いて言う。
「ミラさんからの手紙で随分なえたと思うが、仕事自体はかなり良物だ。強制はしないが、どうする?」
「勿論、受けるわ」
葉奏がきっぱりと告げた。
「ティンも歌ちゃんも乗り気だったしね」
「そうか、なら助かる。仲介料はいつも通り、依頼料の一割だ。構わないな?」
「ええ。詳しい資料と、何か情報があったら頂ける?」
「情報ねぇ・・・」
にや、と意味深にトシヤが微笑んだ。
「必要ないと思うがな。とっくにもう尚が調べてんだろ?」
「あら、ばれてた?」
バツが悪そうに、葉奏が舌を出す。同時にパチン、と指を鳴らした。
さっ、と葉奏の斜め後ろに人影が現れる。短めの茶髪と細い体をした男。鋭い眼差しにはどこか生気がなく、まるで機械のような印象を持たされた。
「報告します」
極めて事務的に男――『愛染』の情報収集係及び表沙汰に出来ない仕事全てを担当する男、尚徳(なおよし)が言った。
「ガラナ遺跡は街道沿いにある遺跡であり、元は地上二階、地下四階の神殿だったそうです。建造されたのは今より約1200年前。当時その地に住んでいたといわれる『腐蝕(ふしょく)の龍ファフニール』をまつるための神殿だったとのことです。一年前の調査においては地下二階までの探索で終了しています」
「『腐蝕の龍ファフニール』ね・・・。詳しい情報を」
「は」短く答えて、尚徳が続けた。
「過去にガラナ遺跡に住んでいたという龍です。この龍に関しては、過去の文献(ぶんけん)を探っても詳しい情報は存在しませんでした。現在もガラナ遺跡にいるかどうかは不明です」
「ふむ・・・」
葉奏が顎に手をやって黙考した。
「他に分かったことは?」
「はい、調査中に分かったのですが、今回調査した箇所全てが、一度調査を受けた形跡がありました」
そこで一旦言葉を区切る。
「それについても並行して調査を実施した結果、全て『 七魔団 (しちまだん)』のコンジが調査をした模様です」
「・・・『七魔団』が?」
「理由については未だ不明です。ご注意を」
眉根を寄せて、葉奏が沈黙する。トシヤの顔を見やると、知らない、という意味で、トシヤが首を振った。
「ご苦労様、尚君。明朝に出発するから、今夜中に『七魔団』の動向、目的、あと『腐蝕の龍ファフニール』について可能な限り探っておいて。あと四日分の食料を調達しておくこと。お金は後で支払うわ」
「承知しました」
短く答えて、深く頭を下げる。そして次瞬には、もう消えていた。
「・・・相変わらず、恐ろしい腕前だな」
トシヤが苦笑した。
「たった三十分程度であれだけの調査が出来る奴なんて、世界中探しても何人もいないぞ。現役なら『七魔団』コンジくらいじゃないのか? どこのギルドに行っても歓迎される筈なのに、何で愛染なんかに入ったんだか・・・」
「ひどい言い様ね。当たってるから反論できないけど」
「だろうな」
トシヤがにやにやと笑った。
「あ、言い忘れてたな。今回のガラナ遺跡調査の件、『愛染』だけじゃ苦しいと思って、『 月河 (げっか)』に協力依頼をしてる。そのうち話があるかもしれないから、歓迎してやってくれ」
「うん。ありがと」
「それじゃ、オレはこれで失礼するよ。まだ仕事が残ってるんでな」
トシヤが立ち上がり、葉奏に背を向ける。そして肩越しに振り返り。
「死ぬなよ」一言、そう言った。

「ティンちゃん落ち着いて!」
酒場から少し離れた広場で、歌妃は必死にティンカーベルを止めていた。
「離せぇーっ! ミラさんに居合い二段かますーっ!」
「んなことしたら王に対する謀反(むほん)で殺されるよー!」
「殺される前に殺すーっ!」
「無茶言ってるよティンちゃんー!」
 歌妃は片腕でティンカーベルの動きを止めながら、もう片手で懐に手を突っ込んだ。そして、小さな熊のぬいぐるみを取り出す。
「ほ、ほら、黒熊ぬいぐるみあげるからやめなさいっ!」
「やだぁーっ!」
ぱん、と黒熊ぬいぐるみを叩き落す。まるで子供だった。
「ならこれだっ!」
歌妃はさらに、懐に手を突っ込んだ。
「ほら、だるまっ!」
ぴた、とティンカーベルの動きが止まった。首だけで後ろを見、歌妃が手に持っているソレを見る。
美しい 楕円 (だえん)、鮮やかな赤、力強い顔立ちと、完璧なバランス。黒い目は片方が空白で、それが未完成ゆえの完成を物語っている。それこそまさに、ティンカーベルのこよなく愛するだるまだった。
「わーい、だるまだぁ〜。かわゆい〜♪」
「だるまさんも『行っちゃだめ』って行ってるよぉ」
「だるまさんの言うこと聞く〜。だるまんせー♪ かわゆいー♪」
「いつものごとく恐ろしいセンスだ・・・」
歌妃が冷や汗を拭って安堵(あんど)する。まるで子供――いや、まさに子供だった。
「あはは」声は、頭上からした。
「あんたら面白いなぁ」
木の上に、誰かが座っていた。浅黒い肌と鮮やかな長い金髪が印象的な男。端正な顔立ちは笑顔で、おそらく今までの会話を聞いていたのだと思える。
ひょい、とごく軽い動作で、男が木の上から飛び降りた。
「『愛染』のティンカーベルさんと歌妃さんだよね?」
にっ、と男が微笑みながら言う。
「君らんとこのギルドマスターん所に、案内してくれないかな?」
「・・・」
歌妃が沈黙した。ティンカーベルは何が楽しいのか、だるまと共にどこか違う世界へ逝っている。
「・・・理由を教えてくれないと案内できないです」
極めて丁寧に、歌妃が答えた。
「ありゃ、としさんから情報回ってないのかな」
ぽりぽりと男が後ろ頭を掻く。
「ガラナ遺跡の手伝いに、うちの『月河』から二人出すって話、聞いてない?」
「・・・全然」
歌妃の目は、まだ疑いの心を捨てていなかったが。
「ってことは、『月河』の人ですか?」
「ああ。一応、うちから出す二人をギルドマスターに了承得ておこうと思ってねえ。丁度いいから案内してくんないかな?」
「まあ、そういう事なら・・・」
歌妃が了承し、だるまごとティンカーベルを持ち上げる。やっぱりティンカーベルは違う世界に逝ったままだった。
「さんきゅー♪」
「案内しますよ。えーっと・・・」
「ああ、名乗ってなかったねえ」男が苦笑した。「『月河』のギルドマスターをやっているディスレイファン。よろしく」
ただの変人に見えたその男は――伝説の龍殺しが一人だった。

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