MOON☆RIVER Wiki

第1話

最終更新:

moonriver

- view
だれでも歓迎! 編集

第1話

『覇王の階位』というものがある。これはアグス王国創設時に国王ミラクルの定めた、冒険者に対して与えられる称号である。
 世の中に存在する『二つ名持ち』がその対象であり、この称号を与えられることは、冒険者にとって最大級の名誉でもある。

『流星矢』ディスレイファンもその一人であり、この『覇王の階位』を持つ者は大陸全土でも三十人足らずしかいない。それを総称して、『覇位冒険者』と呼ぶ。

 ディスは軽く嘆息した。稀少な『覇位』は、大手ギルド『月河』の中でも四人しかいない。そしてその一人は、目の前で気だるそうに新聞を読んでいる。
「・・・どした? ジロジロ見て」
 長身痩躯の赤髪の男――『覇位』が一人にして、燃えるような赤髪と血のような深紅の瞳から『朱(あけ)の魔道師』と呼ばれる男、エースが問いかけた。
「いや」
かぶりを振る。
「さっきから何読んでんだ?」
「あー」
煙草を口にくわえて、エースが目を泳がせる。
「お前にゃ読めねーだろうけど、古代ルーン言語で書かれた新聞だよ。最近の魔法情勢について書いてあんだ」
 指を軽くこすり合わせて、何も無い空間へと火を起こす。ごく自然な動きではあるが、他の魔術師から言わせれば『一瞬で魔術を展開して、瞬間的な絶対領域を作り出す人並み外れた行為』らしい。
「・・・んなもん読んで面白いのか?」
「ゼンゼン」
煙草の先端に火を点けると共に、大きく息を吐く。
「でも文法や単語の間違いを発見したら、一箇所につき5000Gくれるんだよ。いい小遣い稼ぎになるぜ」
「へぇー」
エースは冒険者のみならず、どこかの魔法学校に講師として招かれることもある。それを考えると、こういった文法・単語の間違いを発見することなど容易いのだろう。
「つっても」
はぁ、と白煙混じりの溜息を吐いてエースがぼやく。
「もうすぐ廃刊らしいんだよなぁ。まだ創刊して二ヶ月しか経ってないってのによ」
「・・・・」

ディスは一瞬考え込んで。
「参考までに聞くが、今までいくら稼いだ?」
「360万かな」
「九割方お前のせいだ」
 エースがけらけらと笑う。
「間違える奴が悪いんだろー」
 はぁ、と溜息をついてディスが立ち上がる。
「なんか腹減ったな。もう飯は用意してるっぽ?」
「あー、そうだ。思い出した」
ちょいちょい、と赤ペンで新聞に印を入れながら。
「リオがお前に飯作ってやるとか言ってたよ。大事になる前に止めとけ」
「・・・めっさ不安なんだが・・・」
「まぁ、大丈夫だろ。リオだって少しはまともな・・・」
ちゅどーん
「・・・スマン」
 遠くで聞こえた爆音に、ディスは頭を抱えたくなった。

 厨房(ちゅうぼう)へとたどり着く。黒い煙と辺りに飛び散ったススが、どうしようもなくディスの不安をかきたてた。
「・・・残念」
すぐ隣からの声に、びくっ、と全身を震わせる。
「・・・厨房が壊れちゃってる・・・これから作ろうと思ってたのに・・・」
「・・・リオ」
隣に立っている、その女の名前を呼ぶ。ディスの妹、リオ。細い目が残念そうにじっと厨房を見ていた。
「お前じゃないのか? 壊したの」
「エー、うちが壊すのは月曜日だけだお」
何故か決まっているらしい。
「今日は金曜日」
「・・・なら、バールゼフォンか・・・」
「せっかく、材料調達してきたのに・・・」
残念そうに右手を上げて、その『材料』を見やる。『材料』は寂しげに「クルッポー」と鳴いた。
「ってアキちんを食う気だったのかよ!」
『月河』で飼っているペットその2、トリのアキちん。恐らく無邪気な瞳は、自分が何をされそうになったのかは分かっていないだろう。
「ううん」
首を振る。一瞬、ほっと胸を撫で下ろしかけて。

ディスに食わせる気だった」
「なおさらやめろ」
はぁ、と頭を抱えて。
「もっとまともなもん食わせろよ・・・いや、つーかむしろ専門職のピノモカに任せて何もしなくてもいいぞ。てかそっちのが歓迎」
「・・・」
リオはわずかに沈黙して、ぽん、と手を叩いた。
「確か東の国に、ネコの丸焼きってあったよね」
「何気にクリさん食おうとすんな」
「エー」
「エー、じゃないっての」
 そこで言葉を打ち切って、リオの手からアキちんを救い出す。そして胸に抱え、半壊している厨房の中へと足を踏み入れた。
 中央で、ひざをついている一人の女。青みがかった髪を三つ編みにした、そばかす混じりの少女である。『月河』での家事全般を行っている女、ピノモカ。
「毎度毎度、苦労をかけてすまんな・・・」
ススで汚れている厨房内を、一人で掃除している姿に目頭が熱くなる。

ディスさ〜ん・・・」
だーっ、と滝のような涙を流してはいたが。
「バールゼフォンさんにいい加減にしてくれって言ってくださいよぉぉ!」
「・・・・いや、ある意味名物だし・・・」
「毎回毎回(中略)毎回毎回掃除してるこっちの身にもなってくださいよぉ!」
「すげえなー、ワンブレスで言うなんて」
 論点はズレていた。
 ぽん、とピノモカの頭に、一回り大きな手が置かれる。
「・・・泣くな」
低い声音の、大柄な男がそこに立っていた。 「ジェスさん〜・・・」
だーっ、とまた涙が大量に溢れる。大柄な男――ジェスタルは、小さくうなずきだけ返して掃除に加わった。
「ジェスさんだけ毎回手伝ってくれる・・・」
「気にするな」
 二人だけに掃除を任せて、ディスは早々にそこから立ち去った。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー