ある女の受難 ◆YwLV7iJ2fw
「はっ……はっ……はっ……はっ……!」
インテグラ達を探すべく戦場を離脱したセラスは、舗装された車道を西へ西へと走っていた。
その方向を選んだ事に深い理由は無い。と言うか、先刻までの状況が状況だったので、いちいち地図を確認して行く先を決める余裕などあった筈も無い。
故に彼女は何も考えずに、人間だった頃の常識で、舗装されていて走りやすい道を、適当な方向に走ったというだけにすぎない。
その方向を選んだ事に深い理由は無い。と言うか、先刻までの状況が状況だったので、いちいち地図を確認して行く先を決める余裕などあった筈も無い。
故に彼女は何も考えずに、人間だった頃の常識で、舗装されていて走りやすい道を、適当な方向に走ったというだけにすぎない。
だがそれでも、彼女はそれ故に幸運だった。
もし道路を南に走っていたらその先で、仕える者の為に狂った堕天使や、凶刃を振るう化物(おなかま)と見えていたかも知れないのだから。
もし道路を南に走っていたらその先で、仕える者の為に狂った堕天使や、凶刃を振るう化物(おなかま)と見えていたかも知れないのだから。
だがそれでも、彼女はそれ故に不運でもあった。
この方向を選んでしまったせいで、あんな事になってしまったのだから。
この方向を選んでしまったせいで、あんな事になってしまったのだから。
◇◇◇
「あー……そういやそうだったっけ……」
走り始めてしばらくした頃、彼女は呆然と目の前に存在する物を眺めてがくりとアスファルトに膝を突いていた。
彼女の視線の先にあるのは、無骨で大きな、今時珍しい石造りの頑強そうな橋。
しかし、彼女を落胆さしめている物はその橋ではなく、その下にあった。
そこにあったのはもちろん川。深さはさほどでもなく、澄んだ水が緩やかに流れる、どうという事はないごく普通の川である。
ただし、「どうという事はない」というのは、人間にとっては、である。
吸血鬼にとって流水は数多い弱点の内の一つ。それに触れたりその上を渡る事は、まだまだ未熟な新米吸血鬼であるセラスには不可能なのだ。
彼女の視線の先にあるのは、無骨で大きな、今時珍しい石造りの頑強そうな橋。
しかし、彼女を落胆さしめている物はその橋ではなく、その下にあった。
そこにあったのはもちろん川。深さはさほどでもなく、澄んだ水が緩やかに流れる、どうという事はないごく普通の川である。
ただし、「どうという事はない」というのは、人間にとっては、である。
吸血鬼にとって流水は数多い弱点の内の一つ。それに触れたりその上を渡る事は、まだまだ未熟な新米吸血鬼であるセラスには不可能なのだ。
「うーん、やっぱりどの方向に行っても川がある…。どーしろっていうのよー…」
他のルートは無いかと背負い袋から地図を取り出してみるも、水域はセラスの行動を阻むかのように周囲に広がっており、
まるで八雲紫が意図的にあの位置に自分達を飛ばしたのではないかと思える程の手詰まりっぷりだった。
まるで八雲紫が意図的にあの位置に自分達を飛ばしたのではないかと思える程の手詰まりっぷりだった。
「このまますごすごとマスターの所に帰る訳にもいかないし…ん? これを使えば…ひょっとしたら!」
どうしたものかと悩みながら地図を背負い袋に仕舞い込もうとした時、ふと、ある支給品がセラスの視界に入り、そして閃いた。
最初に支給品を確認した時に、アーカードが選んで取った品はあの刀一振りのみ。それ以外の支給品は現在全て彼女の手元にある。
その中で唯一この状況を打開できるかもしれない“ソレ”を、セラスはゆっくりと取り出す。
“ソレ”は、鉄とも銀とも判らない素材で作られた、不思議な力を感じる長身の赤い戦槌だった。
一見するとゲートボールのクラブにも見えるその戦槌の名は、グラーフアイゼン。とあるベルカの守護騎士が愛用している、一級品のアームドデバイスだ。
ご丁寧にカートリッジも装填されている――といってもセラスにはその意味もそれの使い方も知る由も無いが――それを握る手に力を込め、ゆっくりと振り上げる。
そして橋の中心よりやや手前、川岸からグラーフアイゼンでギリギリ叩けるポイントに狙いを定め、思い切り振り下ろした。
最初に支給品を確認した時に、アーカードが選んで取った品はあの刀一振りのみ。それ以外の支給品は現在全て彼女の手元にある。
その中で唯一この状況を打開できるかもしれない“ソレ”を、セラスはゆっくりと取り出す。
“ソレ”は、鉄とも銀とも判らない素材で作られた、不思議な力を感じる長身の赤い戦槌だった。
一見するとゲートボールのクラブにも見えるその戦槌の名は、グラーフアイゼン。とあるベルカの守護騎士が愛用している、一級品のアームドデバイスだ。
ご丁寧にカートリッジも装填されている――といってもセラスにはその意味もそれの使い方も知る由も無いが――それを握る手に力を込め、ゆっくりと振り上げる。
そして橋の中心よりやや手前、川岸からグラーフアイゼンでギリギリ叩けるポイントに狙いを定め、思い切り振り下ろした。
「やった!」
結果、彼女の目論見は見事に成功した。
吸血鬼の怪力が上乗せされたグラーフアイゼンの一撃に、如何に頑強な石橋といえど耐えれる訳が無く、
鈍い音を立てながら無数の破片へと砕かれて無残に川に落ちていき、綺麗さっぱり跡形も無くなった。
そしてそれによる変化はすぐに表れ、橋だった瓦礫によって堰き止められた川の流れは瞬く間に細く小さくなっていき、逆に瓦礫より上流の水位は次第に上昇していった。
この川と海との標高差が大きかったのも、セラスにとっては幸運だった。
吸血鬼の怪力が上乗せされたグラーフアイゼンの一撃に、如何に頑強な石橋といえど耐えれる訳が無く、
鈍い音を立てながら無数の破片へと砕かれて無残に川に落ちていき、綺麗さっぱり跡形も無くなった。
そしてそれによる変化はすぐに表れ、橋だった瓦礫によって堰き止められた川の流れは瞬く間に細く小さくなっていき、逆に瓦礫より上流の水位は次第に上昇していった。
この川と海との標高差が大きかったのも、セラスにとっては幸運だった。
「後は“これ”で隙間をっ……と―――あ……」
が、ここで初めてセラスは気が付いた。
橋を巧く壊す事だけに神経も視線も集中させていた為に気付かなかった、その直前から対岸側の遠くに立ってこちらを見ていた、二つの人影に。
明らかにこちらを警戒した様子で細身の剣と拳銃を構える、長髪の少女と執事服の少年、涼月奏と近衛スバルの存在に。
意図せずパフォーマンスとなった橋破壊のインパクトが強烈だったせいか、二人の表情にはいくらかの怯えや焦りが見えていたが、
奏の手にしていた剣の正体に気付いた時、セラスもまた同じように、その表情にありありと怯えと焦りの色を浮かべる事となり、
橋を巧く壊す事だけに神経も視線も集中させていた為に気付かなかった、その直前から対岸側の遠くに立ってこちらを見ていた、二つの人影に。
明らかにこちらを警戒した様子で細身の剣と拳銃を構える、長髪の少女と執事服の少年、涼月奏と近衛スバルの存在に。
意図せずパフォーマンスとなった橋破壊のインパクトが強烈だったせいか、二人の表情にはいくらかの怯えや焦りが見えていたが、
奏の手にしていた剣の正体に気付いた時、セラスもまた同じように、その表情にありありと怯えと焦りの色を浮かべる事となり、
――そして、非常時とは言えそれを見逃す程、涼月奏という少女は甘くなかった。
◇◇◇
取り敢えずの行動方針を定めたボク達が最初に向かったのは、5-Cにあるらしいホテルだった。
地図を見ると近くには花畑や映画館もあったけど、それ等とホテルを比べてどっちに人が集まるだろうって考えたら、当然ホテルの方だからだ。
道路にはいくつも街灯があったから、方向が判らなくなるなんて事も無かった。
……途中、花畑の方から銃声が聞こえてきた時は本当にビックリした。
それは間違いなく人のいる事の証明だったけれど、だからと言ってそんな音が聞こえてくる物騒な場所に行くなんてのは願い下げだったから、
慌ててカナちゃんの手を取って市外を離れ、海岸沿いを走って南下して行った。
海岸線には街灯は無かったけれど、海を左手に進んでいけば方向を間違える道理も無いし、地図にある川に当たれば、それを目印にしてホテルに行けると思ってた。
地図を見ると近くには花畑や映画館もあったけど、それ等とホテルを比べてどっちに人が集まるだろうって考えたら、当然ホテルの方だからだ。
道路にはいくつも街灯があったから、方向が判らなくなるなんて事も無かった。
……途中、花畑の方から銃声が聞こえてきた時は本当にビックリした。
それは間違いなく人のいる事の証明だったけれど、だからと言ってそんな音が聞こえてくる物騒な場所に行くなんてのは願い下げだったから、
慌ててカナちゃんの手を取って市外を離れ、海岸沿いを走って南下して行った。
海岸線には街灯は無かったけれど、海を左手に進んでいけば方向を間違える道理も無いし、地図にある川に当たれば、それを目印にしてホテルに行けると思ってた。
だけどその川に着いて、橋の近くまで上って行った時、ボク達は見てしまった。
ボク達の存在には気付かずに、背負い袋から長いハンマーを取り出して、それを振り下ろして頑丈そうな石橋を木っ端微塵に破壊する女の人を。
遠目だから判りにくいけど、ボク達より少し年上ぐらいだろうか。街灯に照らされて輝く綺麗な金髪と――橋を破壊したパワーそのものよりも、
破壊した時に垣間見えた、どこかゾッとする人間離れした笑みが、あまりにも印象的だった。
ボク達の存在には気付かずに、背負い袋から長いハンマーを取り出して、それを振り下ろして頑丈そうな石橋を木っ端微塵に破壊する女の人を。
遠目だから判りにくいけど、ボク達より少し年上ぐらいだろうか。街灯に照らされて輝く綺麗な金髪と――橋を破壊したパワーそのものよりも、
破壊した時に垣間見えた、どこかゾッとする人間離れした笑みが、あまりにも印象的だった。
「…お嬢様。念の為これを持っていてください」
「ええ…」
「ええ…」
金髪の女性がこちらに気付かないように静かに、ゆっくりと、背負い袋から奇妙な形の剣を取り出してカナちゃんに手渡した。
それを渡すボクの手も、それを受け取るカナちゃんの手も、冷や汗でかすかに湿っていた。
最初に二人で荷物をチェックした時は、今ボクが持っている拳銃以外はあまり役に立たない物ばかりだなと思った。この剣もそうだ。
柄と刀身が一直線でなく、刀身の根元が短く直角に曲がっている、鍔の無い細身の片刃剣。パッと見た感じに連想する物は、
『上手に焼けましたー』で有名な、肉を回しながら焼く為のあの鉄串だろうか。
日本では見た事も無いその剣は、とうていボク達に巧く扱えるようには思えなかったし、
拳銃と違って持ってるだけで走るのには邪魔そうだったからしまっておいたのだけど、今はそうも言ってられなさそうだ。
あの女性が危険人物であれそうでなかれ、ほんのちょっとでも威嚇や牽制になる事をしておくに越した事は無い。
危険人物なら言うまでもないし、橋を破壊した理由はどうあれ危険人物でないようなら、ちょっと悪いがこのまま脅かして話を聞けばいい。
それを渡すボクの手も、それを受け取るカナちゃんの手も、冷や汗でかすかに湿っていた。
最初に二人で荷物をチェックした時は、今ボクが持っている拳銃以外はあまり役に立たない物ばかりだなと思った。この剣もそうだ。
柄と刀身が一直線でなく、刀身の根元が短く直角に曲がっている、鍔の無い細身の片刃剣。パッと見た感じに連想する物は、
『上手に焼けましたー』で有名な、肉を回しながら焼く為のあの鉄串だろうか。
日本では見た事も無いその剣は、とうていボク達に巧く扱えるようには思えなかったし、
拳銃と違って持ってるだけで走るのには邪魔そうだったからしまっておいたのだけど、今はそうも言ってられなさそうだ。
あの女性が危険人物であれそうでなかれ、ほんのちょっとでも威嚇や牽制になる事をしておくに越した事は無い。
危険人物なら言うまでもないし、橋を破壊した理由はどうあれ危険人物でないようなら、ちょっと悪いがこのまま脅かして話を聞けばいい。
二人で銃口と剣先を金髪の女性に向ける。と同時に、あちらもボク達に気が付いた。
お互いの視線がかち合う。正直言って凄く怖い。でも逃げ出す訳にはいかない。ボクはお嬢様の――カナちゃんの執事なんだから。
お互いの視線がかち合う。正直言って凄く怖い。でも逃げ出す訳にはいかない。ボクはお嬢様の――カナちゃんの執事なんだから。
(……あれ?)
何分、いや何十秒ぐらいか、そうして睨み合ってただろうか。不意に相手の表情が一変した。よく判らないが、何か驚いてるような感じだ。
ボク達が特別何かをした訳じゃない。となると、彼女の体に急になんらかの変化があったのか、何かに気が付いたという所だろうか?
ボク達が特別何かをした訳じゃない。となると、彼女の体に急になんらかの変化があったのか、何かに気が付いたという所だろうか?
「…ねえ、そこの貴女」
ふと、ボクのすぐ隣からそんな声が聞こえてきた。誰の声かなんて考えるまでもない。カナちゃんだ。
穏やかな声で話しかけながらも、剣を持つ手は下げていない。
そして、カナちゃんに呼びかけられた金髪の女性がビクリと肩を震わせたのがボクにも解り、続けざまにカナちゃんはこう言った。
穏やかな声で話しかけながらも、剣を持つ手は下げていない。
そして、カナちゃんに呼びかけられた金髪の女性がビクリと肩を震わせたのがボクにも解り、続けざまにカナちゃんはこう言った。
「ひょっとして……“コレ”が怖いの?」
ああ、カナちゃんがすごくいい目をしてる。あれはボクやジローをからかったりする時の目だ…。
◇◇◇
「それにしても、最初はまさかと思ったけど、吸血鬼って実在したのねぇ…これはびっくりだわ。ねえスバル」
「まったくです、お嬢様」
「とほほ…どうしてこうなっちゃったのかなぁ…」
「まったくです、お嬢様」
「とほほ…どうしてこうなっちゃったのかなぁ…」
どこかしら楽しげにすら見える雰囲気でそう言葉を交わす奏とスバルとは対照的に、セラスは一人落ち込みながら、ハンドルを握っていた。
ちなみに、右のわき腹には先程の剣――セラスにとってはつい先日、自分をズタズタに貫いたアンデルセン神父の銃剣――の先端が、
助手席に座るスバルの手によって突き付けられている。あからさまな脅迫だ。
ちなみに、右のわき腹には先程の剣――セラスにとってはつい先日、自分をズタズタに貫いたアンデルセン神父の銃剣――の先端が、
助手席に座るスバルの手によって突き付けられている。あからさまな脅迫だ。
奏に核心を突かれた直後、それでも最初に歩み寄りの姿勢を見せたのはセラスの方だった。
もとよりセラスには人間を害する気は無いのだし、橋を破壊した理由も(本当の理由は誤魔化しつつ)ちゃんと弁解しておきたいと思ったからだ。
だから、相手を刺激しないようにすぐには武装解除は求めず、背負い袋から文々。新聞と書かれた新聞紙をありったけ取り出して瓦礫の隙間を埋めるようにバラ撒き、
水流が完全に堰き止められたのを確認してから、ぬかるんだ土の上を渡って渡河したのだが、その行動が奏にセラスの正体を――すなわち、
吸血鬼である事を気付かせるきっかけとなってしまったのだ。
もとよりセラスには人間を害する気は無いのだし、橋を破壊した理由も(本当の理由は誤魔化しつつ)ちゃんと弁解しておきたいと思ったからだ。
だから、相手を刺激しないようにすぐには武装解除は求めず、背負い袋から文々。新聞と書かれた新聞紙をありったけ取り出して瓦礫の隙間を埋めるようにバラ撒き、
水流が完全に堰き止められたのを確認してから、ぬかるんだ土の上を渡って渡河したのだが、その行動が奏にセラスの正体を――すなわち、
吸血鬼である事を気付かせるきっかけとなってしまったのだ。
そうして渡河した直後にセラスを待ち受けていたものは、背負い袋から新たにニンニクの首飾りを取り出してにっこりと微笑む奏の姿であり、
「…じゃっ! そーゆー事で!」と言いながら回れ右しようとしたが時既に遅く、スバルのトンプソン・コンデンターの銃口に補足され、
「これの弾丸もこの剣と同じ性質の物ですわよ?」と奏からトドメの一言をにこやかにかけられ、ここに僅か数分で絶対的な上下関係が形成された。
勿論、最後の一言は奏のハッタリに過ぎなかったのだが、それを看過できる要素は残念ながら“今の”セラスは有していなかった。
「…じゃっ! そーゆー事で!」と言いながら回れ右しようとしたが時既に遅く、スバルのトンプソン・コンデンターの銃口に補足され、
「これの弾丸もこの剣と同じ性質の物ですわよ?」と奏からトドメの一言をにこやかにかけられ、ここに僅か数分で絶対的な上下関係が形成された。
勿論、最後の一言は奏のハッタリに過ぎなかったのだが、それを看過できる要素は残念ながら“今の”セラスは有していなかった。
結局、セラスは奏の尋問に自分及びの関係者の素性、残りの支給品(この際没収された)や単独行動している理由などを洗いざらい白状させられ、
それならば双方の目的がある程度一致するという事で、現在はインテグラ達を探すべく一緒に行動しているという次第だ。
とは言え、共に行動する以上不都合が無いように、奏達からもセラスに最低限の情報は開示している。
ちなみに、彼女等が乗っている車――それも高級そうな外車だった――は奏達に支給されていた物だったが、これが「あまり役に立たない物」に分類されていたのは、
単に二人とも車の運転ができなかった為である。こうして運転手を得た今では、大変に有用な物へと変わった訳だが。
それならば双方の目的がある程度一致するという事で、現在はインテグラ達を探すべく一緒に行動しているという次第だ。
とは言え、共に行動する以上不都合が無いように、奏達からもセラスに最低限の情報は開示している。
ちなみに、彼女等が乗っている車――それも高級そうな外車だった――は奏達に支給されていた物だったが、これが「あまり役に立たない物」に分類されていたのは、
単に二人とも車の運転ができなかった為である。こうして運転手を得た今では、大変に有用な物へと変わった訳だが。
「じゃ、改めて当面の目的を整理するわね」
後部座席でニンニクの首飾りと、セラスの最後の支給品である拡声器を弄びながら、奏が切り出した。
「まずはこの車で西側の都市部へ移動しながら、インテグラさんを始めとする協力してくれそうな人を探す。
途中で誰かに襲われたら即離脱。万一逃げ切れないようだったら、セラスさんを中心に撃退もしくは拘束を狙って、それも無理そうだったらこれで助けを呼ぶ」
途中で誰かに襲われたら即離脱。万一逃げ切れないようだったら、セラスさんを中心に撃退もしくは拘束を狙って、それも無理そうだったらこれで助けを呼ぶ」
あくまで殺害は無しよと付け加えられた奏の言葉には、二人とも深く頷いた。
もとより平和な世界に生きてきた奏とスバルは勿論、夜族たるセラスとて、つい最近までは人間だったので、人を殺めるという行為には大いに抵抗があるのだ。
尤も、このバトルロワイアルの参加者にはセラスとアーカード以外にも結構な数の人外がいるのだが、それは三人の知る所ではなかった。
もとより平和な世界に生きてきた奏とスバルは勿論、夜族たるセラスとて、つい最近までは人間だったので、人を殺めるという行為には大いに抵抗があるのだ。
尤も、このバトルロワイアルの参加者にはセラスとアーカード以外にも結構な数の人外がいるのだが、それは三人の知る所ではなかった。
ちなみに、一度セラスが「もし私があなた達を襲うと言ったら…どうするつもり?」と逆に脅しをかけてみたものの、
「その時はこの拡声器で『吸血鬼に殺されるー』って叫ぶだけね。貴女達の他に吸血鬼がいる訳も無いのだし」と奏に返され、ぐうの音も出なかった。
「その時はこの拡声器で『吸血鬼に殺されるー』って叫ぶだけね。貴女達の他に吸血鬼がいる訳も無いのだし」と奏に返され、ぐうの音も出なかった。
「セラスさんが川を渡れない以上、行動範囲は島の北側に限定。さっきも言ったように北は危なそうだから進行方向は時計回りで。
立ち寄るランドマークは、人の集まり難そうな天文台と、そもそも行きようが無い難破船を除く、キャンプ場から病院まで。依存は無い?」
「「はい。お嬢様」」
立ち寄るランドマークは、人の集まり難そうな天文台と、そもそも行きようが無い難破船を除く、キャンプ場から病院まで。依存は無い?」
「「はい。お嬢様」」
きわめて自然なスバルの声と、複雑そうな心境がありありと伝わるセラスの声が重なった。
◇◇◇
カナちゃんの機転でセラスさんと一緒に行動できる事になったのは、ボク達にとって大きな収穫だった。
さっきの笑みの怖さはまだあるけれど、カナちゃんがうまく手綱を握っている以上、ボク達に危害を加える事はないだろう。
なにより、これでボク達の…いや、カナちゃんの安全度は飛躍的に上がったと言える。
それになにより、もしセラスさんがカナちゃんの従者になってくれたら、カナちゃんが無事ジローのもとへ帰れる目算はかなり高くなる。
もし……もし、彼女の主であるアーカードさんとやらが死んだなら(セラスさんより強い吸血鬼らしいからまず無いだろうケド)、即座にボクが自殺するか、
単身で危険人物に特攻して死んでしまえば、カナちゃんとセラスさんは主従関係を築かざるを得なくなる。
さっきの笑みの怖さはまだあるけれど、カナちゃんがうまく手綱を握っている以上、ボク達に危害を加える事はないだろう。
なにより、これでボク達の…いや、カナちゃんの安全度は飛躍的に上がったと言える。
それになにより、もしセラスさんがカナちゃんの従者になってくれたら、カナちゃんが無事ジローのもとへ帰れる目算はかなり高くなる。
もし……もし、彼女の主であるアーカードさんとやらが死んだなら(セラスさんより強い吸血鬼らしいからまず無いだろうケド)、即座にボクが自殺するか、
単身で危険人物に特攻して死んでしまえば、カナちゃんとセラスさんは主従関係を築かざるを得なくなる。
「……我ながら、酷い事考えてるな……」
前の座席の二人にも聞こえないぐらいの小さな呟きが、口から自然に漏れていた。
誰かが死ぬ事に期待を寄せるとか、自分の死を材料に人に行動を強いるなんて、人として最低の考えだとは思う。
だけど、それでもやっぱり、カナちゃんには無事でいてほしいから。
生きてあの日常へ帰って、ジローと一緒に幸せになってほしいから―――
誰かが死ぬ事に期待を寄せるとか、自分の死を材料に人に行動を強いるなんて、人として最低の考えだとは思う。
だけど、それでもやっぱり、カナちゃんには無事でいてほしいから。
生きてあの日常へ帰って、ジローと一緒に幸せになってほしいから―――
◇◇◇
正直、自分でも綱渡りな駆け引きだとは思ったけど、やるしかなかった。
セラスさんが吸血鬼だという中(あた)りは川を完全に堰き止めた時点でついていたけど、私達の支給品に彼女の弱点が入っていなければどうなっていたか。
いや、仮にそれ等への恐怖を乗り越えて私達に危害を加えに来ていたら、きっとどうしようも無かったに違いない。
途中で脅はk……交渉の匙加減を誤っても、逆ギレされて襲われていた可能性はあったかも知れない。
今回の交渉がうまくいったのは、彼女がまだ荒事の経験が少ない(生前は警官だったそうだけど)新米の吸血鬼で、
人間には手を出したくないという彼女自身の意思と、本来の性格があったからに過ぎない。
でも、それは今回この上無く私達に優位に作用してくれた。
セラスさんと手を取り合えた事は、本当に私達にとって僥倖だった。これでしばらくはいくらか安全に行動できるし、それはスバルの身の安全にも繋がる。
それになにより、もしアーカードさんって親吸血鬼と無事合流できて、その上でセラスさんが死んでしまうような事があれば、
後は私が自殺する事で、スバルとアーカードさんは主従関係を築かざるを得なくなるし、
もうひとつの可能性として、私がアーカードさんに吸血鬼にしてもらえれば、或いはスバルを守って一緒に帰れるかも知れない。
私は死ぬか、二度と日の光を浴びる事も、ジロー君と顔を合わせる事もできなくなるだろうけど、そんなの構わない。
スバルには無事でいてほしいから。
生きてあの日常へ帰って、ジロー君と一緒に幸せになってほしいから―――
セラスさんが吸血鬼だという中(あた)りは川を完全に堰き止めた時点でついていたけど、私達の支給品に彼女の弱点が入っていなければどうなっていたか。
いや、仮にそれ等への恐怖を乗り越えて私達に危害を加えに来ていたら、きっとどうしようも無かったに違いない。
途中で脅はk……交渉の匙加減を誤っても、逆ギレされて襲われていた可能性はあったかも知れない。
今回の交渉がうまくいったのは、彼女がまだ荒事の経験が少ない(生前は警官だったそうだけど)新米の吸血鬼で、
人間には手を出したくないという彼女自身の意思と、本来の性格があったからに過ぎない。
でも、それは今回この上無く私達に優位に作用してくれた。
セラスさんと手を取り合えた事は、本当に私達にとって僥倖だった。これでしばらくはいくらか安全に行動できるし、それはスバルの身の安全にも繋がる。
それになにより、もしアーカードさんって親吸血鬼と無事合流できて、その上でセラスさんが死んでしまうような事があれば、
後は私が自殺する事で、スバルとアーカードさんは主従関係を築かざるを得なくなるし、
もうひとつの可能性として、私がアーカードさんに吸血鬼にしてもらえれば、或いはスバルを守って一緒に帰れるかも知れない。
私は死ぬか、二度と日の光を浴びる事も、ジロー君と顔を合わせる事もできなくなるだろうけど、そんなの構わない。
スバルには無事でいてほしいから。
生きてあの日常へ帰って、ジロー君と一緒に幸せになってほしいから―――
【C-4/T字路/1日目-深夜】
【従:セラス・ヴィクトリア@HELLSING】
[主従]:アーカード@HELLSING
[状態]:健康
[装備]:背負い袋(基本支給品)、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのは(残カートリッジ×6)、
ウィルソン・フィリップス上院議員の車@ジョジョの奇妙な冒険
[方針/行動]
基本方針:マスターに従う…が、当面は奏に従う。
1:奏達と共にキャンプ場から病院までを時計回りに移動しながら、インテグラ&ウォルターを探し出し合流する。
2:危険人物に遭遇した時は、逃走>撃退or捕縛>拡声器で助けを呼ぶ、の優先順位に従って行動する。
[主従]:アーカード@HELLSING
[状態]:健康
[装備]:背負い袋(基本支給品)、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのは(残カートリッジ×6)、
ウィルソン・フィリップス上院議員の車@ジョジョの奇妙な冒険
[方針/行動]
基本方針:マスターに従う…が、当面は奏に従う。
1:奏達と共にキャンプ場から病院までを時計回りに移動しながら、インテグラ&ウォルターを探し出し合流する。
2:危険人物に遭遇した時は、逃走>撃退or捕縛>拡声器で助けを呼ぶ、の優先順位に従って行動する。
[備考]
※奏達からB-5での銃声を始めとするいくらかの情報を得ました。
※グラーフアイゼンをただの丈夫な戦槌だと思っています。
※奏達からB-5での銃声を始めとするいくらかの情報を得ました。
※グラーフアイゼンをただの丈夫な戦槌だと思っています。
【主:涼月奏@まよチキ!】
[主従]:近衛スバル
[状態]:健康
[装備]:拡声器@現実、ニンニクの首飾り@現実
[方針/目的]
基本方針:スバルを生還させて見せる
1:セラス達と共にキャンプ場から病院までを時計回りに移動しながら、インテグラ達を始めとして人を探す。
2:スバルに腕の立つ主人をつける(現在はアーカードが最有力候補)。自分の命は捨てる覚悟。
3:場合によっては自分をアーカードに吸血鬼にしてもらって、スバルと共に生還する。
4:危険人物に遭遇した時は、逃走>撃退or捕縛>拡声器で助けを呼ぶ、の優先順位に従って行動する。
[主従]:近衛スバル
[状態]:健康
[装備]:拡声器@現実、ニンニクの首飾り@現実
[方針/目的]
基本方針:スバルを生還させて見せる
1:セラス達と共にキャンプ場から病院までを時計回りに移動しながら、インテグラ達を始めとして人を探す。
2:スバルに腕の立つ主人をつける(現在はアーカードが最有力候補)。自分の命は捨てる覚悟。
3:場合によっては自分をアーカードに吸血鬼にしてもらって、スバルと共に生還する。
4:危険人物に遭遇した時は、逃走>撃退or捕縛>拡声器で助けを呼ぶ、の優先順位に従って行動する。
[備考]
※セラスから彼女が持つ全ての情報を搾取しました。
※セラスから彼女が持つ全ての情報を搾取しました。
【従:近衛スバル@まよチキ!】
[主従]:涼月奏
[状態]:健康
[装備]:トンプソン・コンテンダー@Fate/Zero、起源弾×10、通常弾×10、銃剣(バヨネット)@HELLSING、背負い袋(基本支給品)
[方針/目的]
基本方針:お嬢様を帰還させる
1:セラス達と共にキャンプ場から病院までを時計回りに移動しながら、インテグラ達を始めとして人を探す。
2:奏に腕の立つ従者をつける(現在はセラスが最有力候補)。自分の命は捨てる覚悟。
3:危険人物に遭遇した時は、逃走>撃退or捕縛>拡声器で助けを呼ぶ、の優先順位に従って行動する。
[主従]:涼月奏
[状態]:健康
[装備]:トンプソン・コンテンダー@Fate/Zero、起源弾×10、通常弾×10、銃剣(バヨネット)@HELLSING、背負い袋(基本支給品)
[方針/目的]
基本方針:お嬢様を帰還させる
1:セラス達と共にキャンプ場から病院までを時計回りに移動しながら、インテグラ達を始めとして人を探す。
2:奏に腕の立つ従者をつける(現在はセラスが最有力候補)。自分の命は捨てる覚悟。
3:危険人物に遭遇した時は、逃走>撃退or捕縛>拡声器で助けを呼ぶ、の優先順位に従って行動する。
[備考]
※セラスから彼女が持つ全ての情報を搾取しました。
※セラスから彼女が持つ全ての情報を搾取しました。
[共通備考]
※C-5の橋が破壊されました。車両の通行は不可能ですが、下流の水が引いている為、よほど身体能力の低い参加者でない限り渡河は可能です。
また、上流の水位が上昇していってます。
※文々。新聞(50部)@東方儚月抄は全て川に破棄されました。
※C-5の橋が破壊されました。車両の通行は不可能ですが、下流の水が引いている為、よほど身体能力の低い参加者でない限り渡河は可能です。
また、上流の水位が上昇していってます。
※文々。新聞(50部)@東方儚月抄は全て川に破棄されました。
【グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのは】
ヴォルケンリッターの一人、鉄槌の騎士ヴィータがデバイスとして使用していた長身の戦槌。
カートリッジを消費して巨大化させたり火力を上げたりする事も可能。
ヴォルケンリッターの一人、鉄槌の騎士ヴィータがデバイスとして使用していた長身の戦槌。
カートリッジを消費して巨大化させたり火力を上げたりする事も可能。
【銃剣@HELLSING】
アンデルセン神父の愛用する、彼のアダ名のひとつにもなっている銃剣。
教会で祝福儀礼を施されており、コレで斬られると吸血鬼でも傷を塞ぐ事ができない。
アンデルセン神父の愛用する、彼のアダ名のひとつにもなっている銃剣。
教会で祝福儀礼を施されており、コレで斬られると吸血鬼でも傷を塞ぐ事ができない。
【文々。新聞(50部)@東方儚月抄】
幻想郷最速のブン屋、射命丸文の発行している新聞。
情報紙としてよりは娯楽紙としてそれなりに親しまれている。
幻想郷最速のブン屋、射命丸文の発行している新聞。
情報紙としてよりは娯楽紙としてそれなりに親しまれている。
【ウィルソン・フィリップス上院議員の車@ジョジョの奇妙な冒険】
エジプトの上院議員、ウィルソン・フィリップス氏の車。左ハンドル。
エジプトの上院議員、ウィルソン・フィリップス氏の車。左ハンドル。
【ニンニクの首飾り@現実】
吸血鬼ものの洋画などで時折見かけるアレ。一部の吸血鬼にはたまらなく効く。
吸血鬼ものの洋画などで時折見かけるアレ。一部の吸血鬼にはたまらなく効く。
【拡声器@現実】
パロロワではおなじみの拡声器。よくあるハンドスピーカータイプ。
パロロワではおなじみの拡声器。よくあるハンドスピーカータイプ。
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