新月の夜
はっと、我に返るように目が覚めた。
見慣れない場所が目に飛び込む。
それを何処かなかなか認識できず、ただただ眼球を撫ぜる風を呆然と感じていた。
頭がどくどく脈打つ。物わかりが悪い。それでも部屋を囲む岩壁とか、大きな窓から見える夜の海とか、そんなものをぽつぽつと理解した。
そして遅まきながら理解した。
「……僕、の家…。」
そうだ。僕の家だ。廃墟でも教会でもないサメハダ岩。
窓から染み込む夜の空。赤ではない、青みがかった黒。
そのひとつひとつから強烈に感じる違和感。
ここは何処?あそこは何処?僕は今まで何処にいたの?
根拠もわからない不安と恐怖が心ごと凍らせる。
さながら悪い夢に飛び起きた子どものように。
ぼろぼろと涙をこぼす両目に気づかないまま、縋るように小さく叫んだ。
「ミズハ…っ」
それを何処かなかなか認識できず、ただただ眼球を撫ぜる風を呆然と感じていた。
頭がどくどく脈打つ。物わかりが悪い。それでも部屋を囲む岩壁とか、大きな窓から見える夜の海とか、そんなものをぽつぽつと理解した。
そして遅まきながら理解した。
「……僕、の家…。」
そうだ。僕の家だ。廃墟でも教会でもないサメハダ岩。
窓から染み込む夜の空。赤ではない、青みがかった黒。
そのひとつひとつから強烈に感じる違和感。
ここは何処?あそこは何処?僕は今まで何処にいたの?
根拠もわからない不安と恐怖が心ごと凍らせる。
さながら悪い夢に飛び起きた子どものように。
ぼろぼろと涙をこぼす両目に気づかないまま、縋るように小さく叫んだ。
「ミズハ…っ」
視界を、白い手が埋めた。
それが誰の手か認識する暇もなく、ヒカトの意識はフェードアウトした。
瞼が落ち、半身が落ち、暖かい藁の寝具へと崩れ落ちていく。
「ひっひ、安心おし。そいつは僕お手製の安全な"夢"だ。」
それを見届けた白い手は優雅に降りた。
「今、坊やをあっちにやる訳にはいかないのさ。」
手の主…クライアはそう言って老獪に笑った。よく出来た美少女の容姿にその笑みは相変わらず似合わない。
ゴシック調の黒いワンピースが闇の中に浮かんでいた。それは闇と隣り合うというより、闇に呑まれかけたという表現が似合う。
あのダークライの闇が、ここまで浸透してきている。
状況は刻一刻と悪くなっていた。だが、まずは一人"確保"だ。
「ちゃんとお嬢さんも連れてきてやるさ…ひっひ。大人しくしてるんだね。」
珍しくクライアは嘘を吐かなかった。
"すぐに連れてくる"、とは言わなかった。
「…やぁアノニマス、調子はどうだい。」
水色の瞳がぼう、と光った。その目には赤い夢の世界が映る。
『あ、クライアだぁ。もしもーしクライアー、ボクだよぉv』
「ひっひ、ちゃんと蜥蜴坊やに会えたようだね。」
『会えたよぉvけたた、遊んでもらえて楽シカッターv』
アノニマスはしばらくけたけた笑っていたが、やがて少し静かになる。
『…ネーェ、ヒカトは帰ってキタ?』
「……。」
『だってもーっと遊びたいヨ?イツモのヒカトと遊びたいヨ?』
クライアはちらっとヒカトを見遣り、口端を歪めた。
「…残念、まだ帰ってきてないのさ。」
だからね、アノニマス。子どもを騙す大人は歌うように語る。
さぁ、二つ目の駒が動き出す。
瞼が落ち、半身が落ち、暖かい藁の寝具へと崩れ落ちていく。
「ひっひ、安心おし。そいつは僕お手製の安全な"夢"だ。」
それを見届けた白い手は優雅に降りた。
「今、坊やをあっちにやる訳にはいかないのさ。」
手の主…クライアはそう言って老獪に笑った。よく出来た美少女の容姿にその笑みは相変わらず似合わない。
ゴシック調の黒いワンピースが闇の中に浮かんでいた。それは闇と隣り合うというより、闇に呑まれかけたという表現が似合う。
あのダークライの闇が、ここまで浸透してきている。
状況は刻一刻と悪くなっていた。だが、まずは一人"確保"だ。
「ちゃんとお嬢さんも連れてきてやるさ…ひっひ。大人しくしてるんだね。」
珍しくクライアは嘘を吐かなかった。
"すぐに連れてくる"、とは言わなかった。
「…やぁアノニマス、調子はどうだい。」
水色の瞳がぼう、と光った。その目には赤い夢の世界が映る。
『あ、クライアだぁ。もしもーしクライアー、ボクだよぉv』
「ひっひ、ちゃんと蜥蜴坊やに会えたようだね。」
『会えたよぉvけたた、遊んでもらえて楽シカッターv』
アノニマスはしばらくけたけた笑っていたが、やがて少し静かになる。
『…ネーェ、ヒカトは帰ってキタ?』
「……。」
『だってもーっと遊びたいヨ?イツモのヒカトと遊びたいヨ?』
クライアはちらっとヒカトを見遣り、口端を歪めた。
「…残念、まだ帰ってきてないのさ。」
だからね、アノニマス。子どもを騙す大人は歌うように語る。
さぁ、二つ目の駒が動き出す。
「坊やをそこから出してやりたいなら…お嬢と一緒に、そこを壊しておやり。」
会話を終えたアノニマスは、けたたと一つ笑った。
「ホントかなぁ?」
ヒカトが帰ってないって。
「ウソかも。」
クライアはウソツキだもんね。
「デモデモ。」
くるっと後ろを振り向いた。
「ホントかなぁ?」
ヒカトが帰ってないって。
「ウソかも。」
クライアはウソツキだもんね。
「デモデモ。」
くるっと後ろを振り向いた。
「マチガッテたことは、あんまりナイかも?」
そこには血塗れで崩れ伏す冥がいた。
ぐったりと死人のようで、けれど死んでいない冥がいた。
突き刺したあのコはとってもおいしそうだったから
それを追いかける手伝いも、悪い話じゃあない。
ヤクソクだよ、クライア。ちゃーんとおつかいしてあげるから。
帰ったらヒカト、返してね?
「バイバイ。」
包帯包みの黒髪に、子どものようなキスをした。
ぐったりと死人のようで、けれど死んでいない冥がいた。
突き刺したあのコはとってもおいしそうだったから
それを追いかける手伝いも、悪い話じゃあない。
ヤクソクだよ、クライア。ちゃーんとおつかいしてあげるから。
帰ったらヒカト、返してね?
「バイバイ。」
包帯包みの黒髪に、子どものようなキスをした。
「楽しかったよぉ、"ルワーレ"。」