守護者
それは、いつも通りにゴミを捨てに出たときのこと。
遠くに歩いてくる人影が見えて、なんだか胸の奥が痛んだ。
思わず立ち止まって、もっとその人をよく見ようとする。
足音が近づいてくるたび、きし、と軋む心。
向こうも此方に気付いたようで、足を止めて顔を上げた。
太陽が焦げたような美しい、あるいは血肉のようなグロテスクな色の髪が揺れる。
左目を怪我しているようで、右目だけがきらりと輝く。深い琥珀色の瞳。
血に濡れているのがなんとなく悔しい。
鉄は駆け寄って、頭に巻いた白いバンダナを外し、それで血と汚れを拭う。
「大丈夫か、ひどい怪我だ…」
「…ありがとう」
嬉しそうに鉄を見つめる。また、胸が痛む。苦笑した。
「恋かしら、胸が痛いぜ…いやん俺には心に決めた人がッ」
彼は鉄の黒髪をくしゃ、と撫でる。暖かい指だった。
そうして触れられていると、何故かわからないけれど気持ちいい。
「変わらないな」
「…え?」
「こっちの話だよ」
もう一度、彼の傷に手を伸ばす。乾いた血が剥がれ落ちる。
白いバンダナはすっかり血で汚れてしまっていた。
「名前は?」
それは訊く前から答えを知っているような口ぶりだった。
「…てつ」
「成る程、らしいな」
はっとした。
誰かわからない。けれど確かに、この人は、記憶の中に在る。
遠くに歩いてくる人影が見えて、なんだか胸の奥が痛んだ。
思わず立ち止まって、もっとその人をよく見ようとする。
足音が近づいてくるたび、きし、と軋む心。
向こうも此方に気付いたようで、足を止めて顔を上げた。
太陽が焦げたような美しい、あるいは血肉のようなグロテスクな色の髪が揺れる。
左目を怪我しているようで、右目だけがきらりと輝く。深い琥珀色の瞳。
血に濡れているのがなんとなく悔しい。
鉄は駆け寄って、頭に巻いた白いバンダナを外し、それで血と汚れを拭う。
「大丈夫か、ひどい怪我だ…」
「…ありがとう」
嬉しそうに鉄を見つめる。また、胸が痛む。苦笑した。
「恋かしら、胸が痛いぜ…いやん俺には心に決めた人がッ」
彼は鉄の黒髪をくしゃ、と撫でる。暖かい指だった。
そうして触れられていると、何故かわからないけれど気持ちいい。
「変わらないな」
「…え?」
「こっちの話だよ」
もう一度、彼の傷に手を伸ばす。乾いた血が剥がれ落ちる。
白いバンダナはすっかり血で汚れてしまっていた。
「名前は?」
それは訊く前から答えを知っているような口ぶりだった。
「…てつ」
「成る程、らしいな」
はっとした。
誰かわからない。けれど確かに、この人は、記憶の中に在る。
あの時もそうだ。
名前を預けた。この人こそ、自分が自分を賭けることのできる相手だけと思ったから。
じゃあ、と断って、彼は背を向ける。連れが来たから。
言葉通り、彼の肩の向こうにもう一つ人影が見える。
去って行く彼の背中に向かって手を伸ばす。
「待ってくれよ!」
「…守るのだろ、そこを?」
「……あ…」
彼は笑って手を振って、あの時とは違う名前を。
「わたしは"冬"。また、来る」
二人が見えなくなるまで、暫く鉄はそこに立っていた。
名前を預けた。この人こそ、自分が自分を賭けることのできる相手だけと思ったから。
じゃあ、と断って、彼は背を向ける。連れが来たから。
言葉通り、彼の肩の向こうにもう一つ人影が見える。
去って行く彼の背中に向かって手を伸ばす。
「待ってくれよ!」
「…守るのだろ、そこを?」
「……あ…」
彼は笑って手を振って、あの時とは違う名前を。
「わたしは"冬"。また、来る」
二人が見えなくなるまで、暫く鉄はそこに立っていた。
"俺"と彼が出会ったのは、風が冷たくなり始めたころのことだった。
先に声をかけたのは"俺"だ。真っ青な海と空の境界を見つめていた彼に。
『そんなところで何してんだよ?』
『綺麗な景色だろう? つい』
『そうだな、俺、この鋼山の景色は大好きだ』
『気が合いそうだな』
そう言って彼はにっこり笑った。その時にもう、心は決まっていたように思う。
複雑な経緯はさておき、何度も出会い会話するうちに、ますますそれを確信するようになった。
『ばあちゃんが言ってた』
『うん?』
『きっと俺にも、"パートナー"ができるって…俺、あんたじゃないかと思うんだ』
それを聞いた彼は首を横に振って、立ち去ろうとしたのだ。
連れが来たから、と断って。背を向けて、振り返りもしない。
"俺"はその背中に手を伸ばして、思えば彼の名も知らなかったことに漸く気付いた。
『待ってくれよ!』
『…守るのだろ、鋼鉄島(そこ)を?』
『……あ…』
振り返った彼は笑っていた。今まで見た中で、一番心に響いた笑顔だった。
『わたしはトウガン。ほんとを言うとな、何時声をかけようか迷っていたんだ』
"俺"は"トウガン"に飛びついた。名前を預けるべき相手を、やっと見つけた。
『名前は?』
先に声をかけたのは"俺"だ。真っ青な海と空の境界を見つめていた彼に。
『そんなところで何してんだよ?』
『綺麗な景色だろう? つい』
『そうだな、俺、この鋼山の景色は大好きだ』
『気が合いそうだな』
そう言って彼はにっこり笑った。その時にもう、心は決まっていたように思う。
複雑な経緯はさておき、何度も出会い会話するうちに、ますますそれを確信するようになった。
『ばあちゃんが言ってた』
『うん?』
『きっと俺にも、"パートナー"ができるって…俺、あんたじゃないかと思うんだ』
それを聞いた彼は首を横に振って、立ち去ろうとしたのだ。
連れが来たから、と断って。背を向けて、振り返りもしない。
"俺"はその背中に手を伸ばして、思えば彼の名も知らなかったことに漸く気付いた。
『待ってくれよ!』
『…守るのだろ、鋼鉄島(そこ)を?』
『……あ…』
振り返った彼は笑っていた。今まで見た中で、一番心に響いた笑顔だった。
『わたしはトウガン。ほんとを言うとな、何時声をかけようか迷っていたんだ』
"俺"は"トウガン"に飛びついた。名前を預けるべき相手を、やっと見つけた。
『名前は?』
「そうだよな」
忘れるなんて、我ながら笑えないぜ。
「…クロ」
それが、あんたに預けた名前だった。
忘れるなんて、我ながら笑えないぜ。
「…クロ」
それが、あんたに預けた名前だった。