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nightmareofmio

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火葬




そっと目を開けた。
夜はとうに更けて、今ではほとんど音のない世界。耳に届くのは寝息くらい。
音を立てて気付かれてしまわないように、"でんじふゆう"で足音を消す。
気付かせてはいけない。ドアを閉め、空に輝く歪な月を見上げてほっとため息を吐いた。
後は早急に立ち去るだけだ。足を踏み出そうとしたその時。
「おい」
力強く腕を引かれて、思わず後ろにのめった。
「なっ…何だ……ソラか…」
「ソラか、じゃない。何をしていた? 逃げるようなマネをして」
振り返った背後には、射抜くような視線で睨むソラが居た。
星は叱られた子供のように脹れて、腕を振り解く。
「別に。星はいつまでもあそこで寝ているわけにはいかない。それだけだ」
「それで何で夜中に黙って出て行く必要がある。戻って大人しく寝てろ」
「断る。星はもう健康だ。ベッドならあの腕のない男にでも譲ってやればいい」
「そうじゃない。お前が居ないと………、」
星は怪訝そうにソラが逸らした瞳を覗きこんだ。
「星が居ないと何だ、何か不都合でもあるのか」
「俺は……いや別に鉄が心配するだろうとかじゃ」
「ははぁ、成る程。ソラは恋人思いだな」
急に世話焼きボスゴドラの名前を出されて、星は悪戯っぽく切り返す。
ソラの頬が紅潮するのも構わず、その隙をついて逃げ出そうと試みた、が。
星に半ば引きずられるような恰好になりながら、ソラはどこまでもついてくる。
「……何でついてくるんだこのツンデレエアームドッッ!!」
「"じりょく"の効果だからしょうがないだろ」
「ちくしょおおお星から離れろおおおおおおおおおおお!!!」
「参ったな…これだと俺とお前が駆け落ちしたみたいじゃないか」
「全力で断るッッッッッ!!!!!」


*



ぐしゃ、とガラスの瓶を握りつぶした。
破片が食い込んで掌を裂いたけれど、そんなことは気に留めない。
瓶にいっぱいに詰まっていた薬は全部胃の中だ。おかげで壊した右腕も随分楽に動く。
「ふ…ッはは」
青は粉々になった瓶を捨てて、悠々と路地を歩き出した。
世界が帰ってくる。極彩色に美しく。待っていた世界が。この腕で作り出した世界が。
美しい世界。噴きあがる絶叫は鳥の声に塗り替えられる。零れた血は華と咲いた。
道端に蹲る化物の首を刎ねるだけで、世界は一歩また一歩、桃源郷へと変わりゆく。

せかいがうつくしくなればいいんだ。
全ての穢れを灰に還し、美へと昇華させて。
そうして作り上げた世界ではきっと誰も彼も傷つくことはない。きっと。
「…かえってきてくれるよね、みんな」
ファースト、セカンド、サード、フォース…ゼータ。
きっとかえってきてくれる。その日を信じて、爪を振るう。
しかし――極彩色の世界、の先。青は、それ、を見た。
「………!」
ごぼりと跳ねる世界。陽炎のように揺らめき、ぼたぼたと崩れていく。
比べ物にならない――傍らに蹲る化物たちなんて雛鳥もいいところだ。
鳥が鳴いた。屠られる瞬間は見えなかった。一応ポケモンのようだ、が。
青は直ぐに思考を切り替えた。あんなもの、を放っておいては。

せかいが、こわれる。
地面を蹴った。しかし薬でなんとか持たせている躯だ。
思っていた以上にスピードが落ちている。"でんこうせっか"でもこの程度の速度しか出ないとは。
それ、は青を見た。青を、というよりは、自分の邪魔になりそうな、何か。
緩慢なスピードは回避するまでもない。爪を振れば次の瞬間には飛び散っているはずだ。
実際そんなことを考えはしなかったが、それは無雑作に爪を振った。
しかし青は咄嗟に攻撃を読み取り、"しんそく"で身を躱す。
じわっと汗が噴出した。こいつは、何だ。まるで焦点の合わない瞳を睨む。
何かおぞましいものがその背から這い出している、けれどそれが何かはわからない。
一度距離を取った。近づくのは危険だ、爪に捕えられかねない。
漆黒の刃が青の体から飛び出し、それ、に飛び掛る。
しかしそれ、は"あくのはどう"に切り裂かれても、全く怯む気配も見せない。
「……せかいが、こわれるんだ」
自分に言い聞かせるように、恐怖を押し隠すように、青は呟く。
目の前の怪物をどうにかしなくては。こいつは世界に害を及ぼす。
一か八か――青は速度を上げ、怪物の懐に飛び込んだ。
拳を握り締め、力を込めた渾身の"きあいパンチ"はそれ、を的確に捉えたが、相手はびくともしなかった。
「………!」
即座にそこを飛び退いたが、地面を抉った爪は青をかすめて。
青は路地の壁に叩きつけられた。鈍い音が響く。右腕が完全に逝ったらしい。
背中を打ちつけ、呼吸困難で喘ぐ青の前には、ゆらりと立ちはだかる怪物。
炎の揺らめきが見えた。あれに捕えられたら、もうお仕舞いだ。

怪物が僅かに怯んだ。
小さな音が立て続けに響き、怪物はその度に震える。
"スピードスター"、でも、誰が?


「星、今だ!」
"スピードスター"を装填した銃の引き金を引くのを一瞬やめて、ソラは星に呼びかけた。
いまいち何がおこっているのかはよくわからないが、青が危ないのはわかる。
星は呼びかけに応えるように、"チャージビーム"で蓄えていた電力をすべて解放した。
雷の球が怪物に打ち込まれた。
見たところ相手はひこうタイプ、ただでさえ大きい"でんじほう"の威力はますます大きくなる。
その電力で相手が痺れたところへ、集中的に攻撃すれば――。
「よし、」
攻勢に出るため飛び出そうとしたソラと、怪物の目が合う。
虚ろだった瞳に、燃えているのは怒りのような、
「  、危な――」
言葉は最後まで続かない。それすら消し去った猛火の"オーバーヒート"。
最後に立っていたのは、怪物だけ。

怪物は何事もなかったかのように、路地を後にした。






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