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はかい

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nightmareofmio

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破壞




爆音と業火、そしてそれを放った怪物が立ち去った後。
瓦礫の中から、ゆっくりと起き上がる影がふたつ。
「……っ…スリー、大丈夫か」
「俺はいい、お前こそ」
星は左腕を押さえて、首を横に振った。肯定か否定かはわからない。
左腕は先の炎に焼かれ、溶けた服は皮のように垂れ下がっていた。
「まさか"ひかりのかべ"ごとぶち抜かれるとは、思わなかった…」
"オーバーヒート"が放たれた直後、星は咄嗟に"ひかりのかべ"を張った。
一応被害を最小限に抑えることはできた。しかし二人とも炎には脆い。
スリーは比較的軽症ですんでいたが、壁を支えていた星はかなり深く火傷を負っていた。
「…すまない」

『以前の』、組織に所属していたころなら、こんなミスは絶対に犯さなかった。
それは仕事であり、失敗は死に直結したからだ。
微温湯の、平和な世界で生きてきたことがこんなところで裏目に出るなど――。
スリーは星の腕をみた。ここではまともな治療もできない。
立ち上がって周囲を見渡した。それは、彼にとっては懐かしい光景でもあり。
瓦礫、立ち上る黒煙、燻された肉の焦げる臭気。
かつての自分の、たった一つの居場所。ずっと忘れていた、『この感じ』。
累々と転がる人だったモノたち。焼かれてしまえば、みんな同じ肉(モノ)だ。
一歩踏み出した。赤く染まった空。ここには、自分の居場所が在る……

「…っぐ」
星の咽ぶ声ではっと我に帰る。咳き込む星の背中を撫でた。
よくもこんな芸当ができるようになったものだ。誰かを、『この場所』で気遣うなど。
認めたくはない。認めたくはないが、自分は、……。
「……星」
「…星はいい…青は、…」
辺りに動くものの気配はない。瓦礫の中、立っているのは自分たちだけだ。
首を横に振るより他は無かった。この瓦礫の山だ。下敷きになれば。
それでなくても、青も同じはがねタイプのポケモンだ。炎に焼かれればひとたまりもない。
蹲っている星に手を差し伸べる。
「星、一度戻ろう。腕を…」
「でも、青が…! 誰も…欠けちゃだめだッ!!」
星は手を払いのけた。それから申し訳無さそうにスリーを見る。
「何か…あったのか」
「お前たちが眠りから醒めなくなって、冬がどれだけ心配していたと思う…?」
「………」
ゆっくり立ち上がって、スリーを真っ直ぐに見つめて。
「誰か一人でも! あのひとを悲しませるようなことがあったら、ダメだ! 星は…っ」
「それなら尚更治療が先だ! お前が冬を悲しませたら元も子もない!」
星は黙って項垂れる。左腕は所在なさそうに揺れた。

彼を、冬を悲しませたくないのは、スリーだって同じだ。
『 かぞく になるんだ。』
今でもはっきり蘇る、手を差し伸べながら、笑いながら。
あの時は何故か手を取ってはいけないような気がして、触れてはいけないような気がして。
頭を撫でる優しい手。抱きしめる力強い腕。ずっと欲しかったものを全部与えてくれたひと。
得てしまったらもう戻れない。それを知ってか知らずか、失っていた記憶。
目を閉じた。柔らかい温もりの記憶。その温もりを引き裂く血塗れた記憶。
戦場で生きてきたという過去は、身体に染み付いた殺戮の匂いは消せるはずもない。
忘れていたほうが、どんなに幸せだっただろう。
星に手を伸ばした。それでも今は、為さなければならないことがある。
「星、」
上げられた星の顔が凍りつく。
「す、――」


がしゃんと派手な音が響いた。
何事かと冥が様子を見に行くと、鉄はぼうっと床を見つめている。
視線の先には、砕け散った皿が散らばっていた。
「鉄?」
鉄は急にわっ、と声をあげて、それからあたふたと皿の破片を拾いはじめる。
紅は遠くから心配そうにその様子を見ていた。
「危ないですよ、素手で拾ったら…」
「痛って!」
言わんこっちゃない。鉄の指先から、ぽたぽたと血の玉が零れ落ちた。
「私がやりますから、手当てしててください」
「…う、ごめんな、冥……」
鉄はほぅとため息を吐いた。朝からこんな調子だ。
起きたらベッドの客人とだーりんが居なくなっていたのが理由なのは、訊かなくてもわかる。
冥は"ねんりき"で破片をあつめて、風が持ってきてくれた屑入れに入れた。
「ありがとうございます」
(いや、)
風も紅も鉄を心配しているようで、鉄が消えた隣室を見つめている。
「………鉄…」
鉄はすぐに戻ってきて、照れくさそうに、あるいは悲しみを殺したように笑って見せた。
「ごめん、心配かけて。すぐゴハンつくるから、なっ」
「無理しなくてもいいんですよ、何も…」
「いやいや! 無理なんかしてないって!」
飛行機はそのままだし、そう遠くへは行っていないだろうと結論付けてからも、鉄はずっと不安そうだ。
「大丈夫なんですか?」
「うん、ちょっと…手が滑っただけだから! 何にも、大したことなんかないしっ」
そう言う鉄の声はすこし潤んでいる。
冥は窓の向こうをちらっと見遣った。どうして。
(……悲しませるような真似をするんですか、)


「…ぇ」
何か言おうとしたが、それは言葉にならず、ごぼっと血が溢れただけだった。
見下ろすと、背中から何かが腹を突き破って、身体に大穴を空けている。
鋭い爪の切っ先が見えた。
ずるっ、とそれが引き抜かれて、スリーは声もなく崩れ落ちる。
虚ろな瞳に一瞬映ったのは、よく見覚えのある顔。
「……しょ、にげ、」
星は何が起こったのかわからない顔をしていたが、はっと我に帰る。
にげろ。半ば悲鳴のように叫ばれたその言葉にはじかれて、星は走り出した。
スリーは薄れ行く視界の端で、駆けて行く星を見送る。
ふ、と冬の顔が浮かび、それから鉄の顔が浮かぶ。
強引に腕を掴んで、自分を引き入れてくれた、あのときの顔そのままに。
ツンデレはどっちだ。思わず笑いが零れる。
「………てつ、クロ」
伸ばした手を掴んだのは、あのとき背中を押してくれたはずの手。
表情は見えない。牙がぎらっと光った。
その牙が穴の空いた腹へ降りて行くのを何も出来ないまま見送った。
「――クロ……俺」






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