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美しき貴方に捧ぐ

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nightmareofmio

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狂想曲




莉はゆっくり立ち上がった。ゆっくりとは言っても、彼にとっては十分に素早い速度で。
ぴんと尻尾を張り巡らせて、鈍い金に輝く瞳は虚空を睨む。
その様子を見つめていた冬は、にっこり笑う。
「行きなさい、莉」
「………冬、」
躊躇う莉の指先を取る。鱗に覆われて、ぬくもりは僅かも感じられない。
「これでいいんだ、お前は、お前のしたいようにすればいい」
「…ごめ、んなさい」
「何を謝る、わたしは、お前がしたいようにしてくれるのが一番なんだ」


「行きなさい、お前を待っているモノのところへ」
「…冬」
莉はそっと、壊れ物でも扱うように冬に触れた。
「……あなたが、すきでした」






眼前には、甘い香りを漂わせる赤い花、薔薇の花畑。
こんな場所があったなんて知らなかった。夢は常に変容しているのだろうか。
その花畑に踏み入って、抱いていた幻、今ではただのたんぱく質の人形を、横たえる。
「…莉は行った。お前は居ない」
わたしはついに、誰にも必要とされなくなった。
花弁がふわ、と風に浮かんで、赤にぽっかりと空いた黒い穴を、幻を埋めようと降り注ぐ。
土中に葬られるが如く、その姿は赤にかき消されて行く。
それをじっと見つめて、立っていた。いつまでも、いつまでも。
時間は戻らない。幻は初めから、こうなるはずだった。
ただその時を、わたしが止めていただけのこと。本来はとっくに、灰と消えていたはずなのだ。
「さようなら、幻。」
天国の花に抱かれておやすみ。わたしはここで待っていてあげるから。
わたしはまだ、そうなれない。天国を蹴散らしてしまうしか、できないんだ。
ふいに涙が零れた。花に落ちたそれは、世界を反射して、赤い。

「…ああ、そうか…。」
笑っている。吹き過ぎる風が、いや、葬られた男が。
間抜けな男のことを。立ち尽くして、涙まで零した男のことを。
はなびらが、ちった。

「貴方はどうしてこう屁理屈ばっかりつけるんですかね、いいかげん腹立たしいですよ?」
浪々と戦慄でも紡ぐように。赤い霞の向こうに、彼は居た。
「どうして何の理屈も無しに、ストレートに言えないかなあ?」
「さあなあ…そういう性格なんだろ」
「ほら、まただ。そうじゃない。そういうこと考えてばっかり。」
目を閉じる。伸ばされた指先に抱かれて。
「…おいでよ。」
ずっと待っていたのは、これだった。
熱。体温。表現は何でもいい。触れ合う肌。撫でられる悦び。
それから一呼吸で、拳と拳が交錯する。お互い笑うしかない。
「言ってみてよ、アイシテルって。」

ほんとはそんな言葉で言い尽くせないくらい愛してるよ。
もう自分でもどうしていいかわからないんだ。わからないんだ。
どこまで行けば愛なんだ。セックス? キス? それとも目が合えばもう終わり?
もっとわたしを見て。わたしには見えたんだ。わたし自身の正体が。
「幻、お前は綺麗だよ、初めて会ったときからかわらない。」
「……僕にもわかったよ。やっと。貴方が望んでたこと。」
「そうだ、わかったらそんな綺麗な呼び方はやめてくれ。お前が好きだ、ずっと好きだ。愛してる。」
「でもねぇ、僕もそんな貴方を好きになっちゃったんだ。」
キスをした。何度も。何度も。このまま溶けてしまえばいいのに。そうすれば終わらせられるのに。
かみさま、ごめんなさい。わたしはまた、かみさまを裏切る。

優しい嘘はやめて。わたしはちっとも綺麗じゃない。
お前を手に入れるためのことを全部した。お前がわたしを欲しがるよりずっと欲しかった。
ねえ、わかっただろ、もう。それじゃあせぇので言ってご覧。わたしは誰?
「化け物…。」
「ありがとう。」
食い尽くしてやる。骨のひとかけらも残すものか。お前を愛してる。
わたしを愛してるお前が欲しい。なんとでも呼べばいいんだ。わたしは最低の男だ。
「でも、愛してるんだ。」
「…ありがとう。」
「…だから、僕の手で終わらせる。貴方を、化け物を。」
最上級のアイシテルを捧げてくれた男。こんなに、愛しい。でも、こんな形でしか応えられない。
「逃げてよ。逃げて、逃げて…それから僕に殺されて。」
「うん…きっと。」


お前の人生からわたしが消える。そうすればお前は幸せになれるのかな。
きっとなれない。わかってる。どうすればいいのか、わかってる。
でもそれができないから、わたしはバカで、怪物になるまで身を堕としたんだ。
こんなこと全く無意味だ。でも、でも。

もうこれしか、わたしには残ってないの。






「……私は、負けな、い。」
莉は、目の前の獣を睨みつけた。ぴんと立った二本の、角のような青い耳。
随分と様相は変わっている。けれど、彼と出会うのは二度目だ。
そうして今度も、きっと負けることはない。
「私、には、…。」
冬が居る。いや、居てくれた。だからこそ、負けない。
負けるわけにはいかない。だってきっと冬は、私のことなど見えていないから。
そう。だから、この"ルカリオ"には負けられない。
「あなた、…を助け出、すのは、」






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