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壊れてしまった愛に捧ぐ

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nightmareofmio

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愛悼曲




「…かはッ…!」

目の前の獣の攻撃力は、前回の交戦とは段違いに上がっている。
素早さで劣っている莉は手数でも劣り、圧倒的な力量差を見せ付けられていた。
"インファイト"を使っても、隙ひとつ見せないとは。
一旦距離をとるために退いた。しかし青は一瞬で距離を詰めてくる。
何度も振りぬかれた拳は、莉の血で赤く染まりつつある。
「(負けるわけにはいかない)」
冬を諦めることになる。
思考が短絡していることにも気付かない。莉は精一杯に"てっぺき"を張った。
しかしその障壁さえ"かわらわり"でブチ抜いて、青は素早さで莉を翻弄した。
前回の"アイアンヘッド"――怯まされた青は、"ふくつのこころ"を発動させている。
最も、莉にはそれを考慮する余裕もなかった。
青の"メタルクロー"が莉の両腕を捕えた。もがく莉に、"きあいパンチ"。
「――――――ッあ!」
的確に急所を捉えてくる。莉はふらつきながらも爪を振り払う。
まずい。非常に、まずい。

こんなとき、冬なら。
莉は固く目を閉じた。冬なら、何と指示するだろう。
眼前に迫る爪――莉は、それを回避することを諦めた。





「どうしたらお前はわたしを忘れてくれるかな?」

呟くようにか細い声で、冬は空を見上げながら、幻に問いかけた。
幻はその隣で腰掛けたまま、言葉を黙殺する。
何を聞いたって、無駄だ。何も聞こえない振りをしろ。そう自分に言い聞かせて。
「わたしが死ねば、わたしという人間はいなかったと、お前が思ってくれたら」
あるいはそんなにんげんさいしょからいなかったんだとか。
冬が微かに笑いながら紡ぐ言葉には、憂鬱、それ以外の感覚を見出せない。
「黙って、冬。鬱陶しい」
「…、じゃあ早く首を刎ねればいいと思うんだけど」
「そういうことじゃないの、いい加減わかれよ」
冬は声を立てて笑った。けれどそれは、笑い声というより泣声で。
また、冬が一歩ずつ歩き出す。幻はその背中を見ていた。

冬を殺して何か変わるのか。
この手にかけて、この手を彼の血で染めて。
"冬"――トウガンなんて人間は初めから世界に存在しなかったんだ。
そう思い込んで血を洗い流して、綺麗な振りをして生きて行くんだろうか。
そうすれば何か変わるのか。
あるいは何かが終わるのか。
冬の背中が遠ざかって行く。無意味ないたちごっこを繰り返すだけ。
ここには居なかったんだよ、そんな人間。
立ち去れば、ここに残っていた冬の痕跡はどこにもなくなって。
今まで彼が立っていた場所にも、今は温もりさえ、

「まってよ、冬」
「…追ってきて、どこまでも。」
小走りに彼を追いかける。
手を伸ばしても届かない距離。そこが今の自分の居場所だ。
届く距離に入ってしまえば、答えを出さないことは赦されないから。
重い回転鋸を引きずりながら、手は届かないまま、言葉だけが届く距離で。
「どこまでもって…世界の果てでも、僕らはこのまま追いかけっこしてるわけ」
「お前がそれまでに答えを出すなら、結果は変わるだろうね」
触れようと、手を伸ばして、途中でやめた。
ここで冬を殺して、ほんとうにいいのかわからない。
何が正しく何が悪で何が愛で何が彼なのだろう。

「冬…それでも僕は、あなたを愛してるんだよ」


冬が立ち止まった。
振り向きはしない。また、空を見上げる。
「わたしもお前を愛してる。でももうお終いだ。そうだろう?」
「お終いなんかじゃない、僕は――」
振り返った琥珀の瞳は、ただ静かに幻を見つめる。
かつ、と靴底を鳴らして、冬は幻に近づいた。
「お前はわたしの男だ。だからわたしを終わらせる義務がある」
こんなに堕ちても、キスはまだ甘いままだ。
わかっていた筈なのに。最初から全て。退廃しか待っていない道なのは、わかっていただろう。
それなのに、涙は勝手に頬を伝う。キスの、肌の、指先の温もりを忘れないように。
「それでも…愛してるんだ。何を捨てても惜しくない。あなたのためなら何だって、」
半ば悲鳴のように叫んだ幻の頬を優しく撫でて、冬は彼の涙を拭ってやった。
唇を噛み締める幻に笑いかけ、琥珀の瞳を細める。
そして、最も残酷な言葉で彼の喉を絞めるために、赤い唇をそっと開いた。

「じゃあ、その想いを捨てなさい。」






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