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かわりゆく

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音を立てて、薄紙の如く地面が裂ける。
莉は攻撃を甘んじて受ける代わりに、青に直接その打撃を叩き込んだ。
"じわれ"に捕われれば逃げることはできない。青の素早さを持ってしても。
砂埃をあげて対象を巻き込む、さながら竜の口腔のような暗い裂け目。
やがてそれが静まり、砂埃が収まった頃、地中深く呑まれた青の姿はもうどこにもない。
「……これで」
心置きなく、あの人を迎えに行ける。
背を向けて、ゆっくり立ち去ろうとした莉を、真空の刃が襲った。
虚を突かれたものの、"ひこう"の技はたいしたダメージにならなかったようだが。
「…詰が甘いね」
ばさっ。何かが羽ばたく音。"エアスラッシュ"に怯み攻撃に移れない莉の背後。
それでも精一杯に振り返った金の双眸に映ったのは、美しい銀の翼だった。
「ば、かな…何故…」
"ルカリオ"が、翼を持っているはずがない。
だが、確かに青は一対の翼を静かに羽ばたかせ、中空に居た。
「あの"エアームド"は飛べなかったみたいだけど…僕は神様だもの」
にっこり笑うと、"おいかぜ"で加速し、莉との距離を一気に詰める。
そして"インファイト"。ダメージを庇いきれなかった莉は咆哮して地に伏せた。
起き上がれない莉に圧し掛かり、青は無雑作に爪を振りぬく。
装甲に覆われていない柔らかな肉の部分。筋肉ごと肌を引き剥がすように。
最早吼える気力すら残っていない。抵抗することもできない、生きながらにして喰われるだけだ。
莉の血肉に染まった手。青は牙を覗かせて笑った。
「貰うよ、あなたの盾を。」



*




雲母結がゆっくり目を開けると、丁度闇の奥から何かがやってくるところだった。
「…どうした? 随分久しぶりではないか、銀瑠璃?」
声をかけると、銀の装甲と青い肌の竜は、一瞬で転じて人形と化した。
銀の長髪を靡かせて、赤い瞳を不機嫌そうに歪ませる。
「どうしたもこうしたも無い。あの方はあまりに頑固すぎるんだ」
「愚痴を言うためだけに、わざわざこの地の底まで降りてきたのか?」
鼻で笑うと、銀瑠璃はますます秀麗な顔に皺をつくり、雲母結を睨みつける。
「…で、何だ。あの方は何と言われた?」
「『手を出すな』、と。私があのダークライごときに敗北するとでも――」
険しい語勢でまくし立てようとする銀瑠璃を制して、雲母結はあくまで優しく語りかける。
「いや。そういう話ではないだろう、」
「そういう話だ! それではお前もあの街が地図から消えるのを待てと言うのかッ!!」
「それがあの方の定めた宿命ならば、見守るまでだ」
銀瑠璃の細く白い腕が、雲母結の襟元を捕える。
「そんな宿命は認めん! 私は、」
「……あの男が、居るからか?」
あの男。銀瑠璃の険しい表情は一気に情けなくなった。
整った眉が八の字に垂れ下がり、獰猛に吼えていた唇は躊躇うように開かれたままだ。
「人間など、放っておいても百年も生きぬ。お前は悠久を生きる神だ。わかるだろう、」
「しかしッ……私は、守らなくてはならないんだ…」
「神の愛はあらゆる事象に平等に注がれるべきだ。お前の行動は神を逸脱している」
「一人の人間すら愛せぬ者がどうして神を名乗れる! おかしいのは私じゃない!!」
銀瑠璃は雲母結の襟を放すと、背を向けて立ち去ろうとする。
銀髪が寂しげに揺れた。
「…どこへ行く」
「ミオへ。トウガンを助けに行く。トウガンの愛した街を救う」
「あの方に逆らうつもりか?」
振り返った赤い瞳が雲母結を射抜く。
「それで反逆の烙印を押されるなら、私は本望だ!」
駆け出した白い足を、黒縄が捕えた。雲母結を縛っていた鎖。
青白い炎が真っ直ぐに銀瑠璃に届き、その痩躯を縛る。
"りゅうのいぶき"に打ち抜かれ麻痺した身体では、鎖を破ることはできない。
「雲母結…何を」
「行かせるわけにはいかぬ。そこで暫く、大人しく寝ていろ」
言うが早いか"だいちのちから"で銀瑠璃を気絶させ、雲母結はため息を吐く。
「…我々神々の力がそのままにぶつかれば、あのちゃちな悪夢の世界は保つまい」
そうなれば悪夢は堰をきった水の如く現実に溢れ出し、その境界を亡くしてしまう。
夢は現に、現は夢になる。交じり合った世界で、銀瑠璃のいう『あの男』が果たして、
「無事を願うなら、我々は手を出さぬことだ」
しかしこの無謀さは誰から受け継いだものだろう。
少なくとも、"初代"にもその傾向は見受けられたが。
「まったく…」
ままならぬものよな、銀瑠璃。
こうして地の底から世界を見守るだけの調節役と成り果てた今でも、忘れては居ない。
無茶と無謀にこよなく愛された血気盛んな時の神。
その面影を色濃く受け継いだ当代の神の銀髪を、優しく撫でた。






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