アットウィキロゴ
澪街悪夢Wiki
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

澪街悪夢Wiki

あいされる

最終更新:

nightmareofmio

- view
だれでも歓迎! 編集

諭される




「…ふゆ、さま」






崩れかけた廃屋のささくれ立った木の床は背中にしかしかと痛い。
でも、そんなことはどうでもいい。満足できればそれでいい。
「…ねぇ」
青は冬に圧し掛かったままで、意地悪く笑った。
「逃がしたでしょ、獲物」
この獣は、突っ込んだままでも全く何も感じていないらしい。
唇はきれいに弧を描いて、冬を詰るように笑っていた。
「だめ、逃がしちゃ」
「……逃がしたんじゃない、逃げられたんだ」
青の爪が、冬の肌に突き立てられた。ぷつっと可愛い音がして、赤い水滴が浮かぶ。
つうっとそのまま爪を引っ張って、顔を顰める冬をまた笑う。
「言い訳はゆるしてあげない」
胸に三本引かれた傷。青は楽しそうに、浮かんだ水滴を指先で弄ぶ。
やがてそれにも飽きて、今度は冬の身体じたいを弄び始める。
冬は一言も何も言わなかった。声も、今夜は上げなかった。



数刻前。

いつものように、青のために、ひいては自分のためにひとごろしをした後。
からからとスコップを引きずりながら帰路についていた冬を、背中から呼ぶ声がした。
「…冬さん、ですよね」
振り返った冬の琥珀の瞳に映った、人懐こそうな笑顔。
記憶を辿れば、以前見たような気がする。
「きみは…」
「樹です、覚えて…」
「…ああ、いつき、くん」
幻を捜し歩いていた時に、一度だけ出合った、おなじ、おもいでをなくしたもの。
けれどあのときからは変わった。冬は当て所の無い旅人、ではなくなっていた。
「探している人は、見つかりましたか」
こうして人を殺し続ける限り、いずれ会える。目的を手に入れていた。
「…いや……まだ」
スコップを引き寄せる。使うことになるかもしれない、から。
樹から顔を背けた。明らかに彼は、その様子を不思議に思ったようだ。
樹は冬に駆け寄った。そして。
「ふゆ…さん?」
「ごめん、な、いつきくん」
返り血に汚れた、冬の狂気じみた琥珀を見た。


前の獲物の血と脳漿でどろどろになったスコップを、正面から振り下ろす。
それは樹に当たることはなく、地面に当たってきぃんと響いた。
樹は凶器が振り下ろされる寸前に、そこを素早く飛びのいている。
「みられたらころさなくちゃ青と約束したもの」
ゆらりと立ちはだかる冬の姿に愕然としながらも、樹はその言葉を聞き漏らしはしなかった。
「……せい?」
「…約束したんだ……まほろの代わりになってくれるって」
その名前が彼にとってどのような意味を持つのか、冬は知らない。
ただ、言いつけられた通りにするため、もういちどスコップを振り上げた。
「…いつきくん」
殺さなくちゃ。
青はきっと怒る。そうしたらまほろがいなくなる。まほろが、いなくなる、のに。
手が、ふるえて動かない。
「い……つきくん、にげ、」
その言葉に、樹ははっとして一目散に駆けて行った。
がらんとスコップが音を立てても、冬はずっとそうして立っていた。
いろんなことが死体のようにぐちゃぐちゃになって、わからない。
次にもし彼と出会うことがあったら――こんな風に、躊躇うことも出来ないのだろうか。

そうしたら、
まほろをまほろと理解ることができるだろうか。
冬はしばらく、落ちたスコップを見つめながら考えていた。
青がやってくるまで、ずうっと、立っていた。



「いい、冬」
「……」
「次逃がしたら、まほろはいなくなっちゃうよ?」
冬の瞳が、明らかな脅えの表情に変わるのを、青は楽しそうに見つめていた。
この奴隷は、ほんとうに面白い。首輪をつけるのは、とても簡単だ。
「だいじょうぶ、冬がちゃぁんと人を殺せばいいんだよ」
青がくすくすと声を立てて笑う。冬は、微かに笑った。唇は震えている。
二人がなごみあっている廃墟の様子を、窓の外から眺めている影があった。
赤い月光を反射して、黒く硬い皮膚がきらりと光る。
尻尾を翻して、隣の屋根からその影はするりと闇に消えた。

「…ふゆ、さま、……やっ、とみつけ、た」




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー