誰が為
稲妻の群が追い立てるように翼に迫る。翼は同じ過ちを繰り返すほど馬鹿でもない。
今回はしっかり幻との距離を取り、不用意に近づくようなマネはしなかった。
"でんじほう"は威力は確かに高いうえ、当たれば痺れが残るほどの電圧もある。
しかし、このように距離を取りさえすれば、見切ることは容易く、翼の素早さなら当たらない。
だが、離れてばかりでは翼の攻撃も幻には当たらない。
翼は電撃の隙間を縫って走る。隙は必ず現れる。
幻は足を一歩引き、直撃を避け腕で身体を庇う。その腕を狙った。
「…おや」
"ドラゴンクロー"は幻の腕を的確に捕えたが、ダメージは微細。
慌てて爪を引き、一気に飛び退る。長く留まると、何時"でんじほう"にやられるかわからない。
それにしても、"ドラゴンクロー"の効果はあまり無いようだ。
ドラゴンのダメージを抑えるタイプといえば、一つしかない。
なるほど――翼は唇を吊り上げた。
「……前もこうして腕をやられたかな」
「そうだな、その時は気付かなかった、けど」
血糊を払って、狙いをつける。それならば。強靭でもあり、脆くもある。
「お前ももう、おしまいだ、な!」
翼はひといきに加速して、幻に飛び掛った。幻ははっとして身を翻そうとしたが、遅い。
翼の爪の腕が幻の肩を捉える。その掌から、炎が噴出した。
「―――!」
"かえんほうしゃ"は綺麗に幻を飲み、その黒衣の下の肉も焦がす。
多少皮が駄目になろうが、翼にとってはどうでもいい。この男を殺さなければ、と思うだけだ。
炎に舐められて、幻の目元を覆っていた布が焼き切れた。
その下の瞳は、『まるで空のような』美しい青。
翼は息を呑んで、その青に魅入る。
今回はしっかり幻との距離を取り、不用意に近づくようなマネはしなかった。
"でんじほう"は威力は確かに高いうえ、当たれば痺れが残るほどの電圧もある。
しかし、このように距離を取りさえすれば、見切ることは容易く、翼の素早さなら当たらない。
だが、離れてばかりでは翼の攻撃も幻には当たらない。
翼は電撃の隙間を縫って走る。隙は必ず現れる。
幻は足を一歩引き、直撃を避け腕で身体を庇う。その腕を狙った。
「…おや」
"ドラゴンクロー"は幻の腕を的確に捕えたが、ダメージは微細。
慌てて爪を引き、一気に飛び退る。長く留まると、何時"でんじほう"にやられるかわからない。
それにしても、"ドラゴンクロー"の効果はあまり無いようだ。
ドラゴンのダメージを抑えるタイプといえば、一つしかない。
なるほど――翼は唇を吊り上げた。
「……前もこうして腕をやられたかな」
「そうだな、その時は気付かなかった、けど」
血糊を払って、狙いをつける。それならば。強靭でもあり、脆くもある。
「お前ももう、おしまいだ、な!」
翼はひといきに加速して、幻に飛び掛った。幻ははっとして身を翻そうとしたが、遅い。
翼の爪の腕が幻の肩を捉える。その掌から、炎が噴出した。
「―――!」
"かえんほうしゃ"は綺麗に幻を飲み、その黒衣の下の肉も焦がす。
多少皮が駄目になろうが、翼にとってはどうでもいい。この男を殺さなければ、と思うだけだ。
炎に舐められて、幻の目元を覆っていた布が焼き切れた。
その下の瞳は、『まるで空のような』美しい青。
翼は息を呑んで、その青に魅入る。
ツバサが。
無いはずの場所で。
ぎし、と軋んで。
羽ばたく。
のためじゃない、 のためのツバサ。
鋭い痛み。
それは錯覚ではなく。
無いはずの場所で。
ぎし、と軋んで。
羽ばたく。
のためじゃない、 のためのツバサ。
鋭い痛み。
それは錯覚ではなく。
「――あああああああああああああああああああああああッ!!!」
絶叫は、翼。片方のツバサが冴え返る白銀に凍り付いていた。
「どいて、誰か知らないけれど、邪魔なの」
翼が傾いで倒れた背後に、幽鬼のように佇む影。
楽しそうに唇を舐め、にこりと笑った。角のように垂直に立った二本の、青い耳。
「まほろ、って、貴方?」
「…幻は急いでいるんだ、相手が誰だろうと、構っているヒマはない」
「急ぐことないよ、どうせ貴方が探してる相手はもう、居ないから」
弾む声で。指の間に弄んでいるのは、
「ねえ……冬は今頃どうしてるかな…?」
「………ふゆ、を知って」
ぽと。と可愛らしい音を立てて、彼はそれを落として見せた。
薄い赤の世界に照らされる、琥珀色の――
「知ってるも何も。」
そして、素足でそれを踏みつけた。
絶叫は、翼。片方のツバサが冴え返る白銀に凍り付いていた。
「どいて、誰か知らないけれど、邪魔なの」
翼が傾いで倒れた背後に、幽鬼のように佇む影。
楽しそうに唇を舐め、にこりと笑った。角のように垂直に立った二本の、青い耳。
「まほろ、って、貴方?」
「…幻は急いでいるんだ、相手が誰だろうと、構っているヒマはない」
「急ぐことないよ、どうせ貴方が探してる相手はもう、居ないから」
弾む声で。指の間に弄んでいるのは、
「ねえ……冬は今頃どうしてるかな…?」
「………ふゆ、を知って」
ぽと。と可愛らしい音を立てて、彼はそれを落として見せた。
薄い赤の世界に照らされる、琥珀色の――
「知ってるも何も。」
そして、素足でそれを踏みつけた。
「面白いひと、だ っ た」
幻がその意味に気付いた頃には、彼の拳が目と鼻の先まで迫っていた。
幻がその意味に気付いた頃には、彼の拳が目と鼻の先まで迫っていた。
幻ははっとして相手を捉えなおそうとしたが、もう遅い。
青い獣は猛烈なスピードで彼に迫り、あっという間に数発の拳を懐に叩き込んでいた。
血反吐を吐いているようなヒマもない。幻は地面に叩きつけられた。
獣は幻の黒髪を掴んで、投げ捨てるように放り出す。
「大したことないなあ、人間ってやっぱりこんな程度だよねぇ」
「……ふゆを…どうし、た…」
高らかに笑って、幻の背中を踏みつける。幻は声もなく呻いた。
「どうしたと思う?」
「………、まさか」
獣は心底楽しそうに、大きく振り上げた拳を彼に振り下ろそうとして。
幻の青い瞳に一瞬心を揺らす。ひどく懐かしいものを見たような。
纏わりつく感情を振り払って、止まった拳に力を込めたとき。
空気を振るわせるおぞましい絶叫が響き渡った。
青い獣は猛烈なスピードで彼に迫り、あっという間に数発の拳を懐に叩き込んでいた。
血反吐を吐いているようなヒマもない。幻は地面に叩きつけられた。
獣は幻の黒髪を掴んで、投げ捨てるように放り出す。
「大したことないなあ、人間ってやっぱりこんな程度だよねぇ」
「……ふゆを…どうし、た…」
高らかに笑って、幻の背中を踏みつける。幻は声もなく呻いた。
「どうしたと思う?」
「………、まさか」
獣は心底楽しそうに、大きく振り上げた拳を彼に振り下ろそうとして。
幻の青い瞳に一瞬心を揺らす。ひどく懐かしいものを見たような。
纏わりつく感情を振り払って、止まった拳に力を込めたとき。
空気を振るわせるおぞましい絶叫が響き渡った。
飴は身震いして、外の赤い世界を見つめた。
慌てて立ち上がろうとしては、動かない脚に踊らされる。
「飴? どうしたんだ?」
鉄に支えられるのも拒み、唯一自由になる右腕で窓を目指して行く。
「……いかなくちゃ」
「行くって何処にだよ!?」
「…だめ…翼…が」
青い頭を必死に振って、身体を引きずりながら這う。
飴は窓の傍らまで這い出して、遠い空を見上げて、酸欠の魚のように喘いだ。
「また俺のせいで… が…!」
響いた言葉に、ざわめいた世界は冴えて静まりかえる。
一部始終を黙って見つめていた冥は、カウントダウンを聞くような心持ちでその言葉を聞いた。
慌てて立ち上がろうとしては、動かない脚に踊らされる。
「飴? どうしたんだ?」
鉄に支えられるのも拒み、唯一自由になる右腕で窓を目指して行く。
「……いかなくちゃ」
「行くって何処にだよ!?」
「…だめ…翼…が」
青い頭を必死に振って、身体を引きずりながら這う。
飴は窓の傍らまで這い出して、遠い空を見上げて、酸欠の魚のように喘いだ。
「また俺のせいで… が…!」
響いた言葉に、ざわめいた世界は冴えて静まりかえる。
一部始終を黙って見つめていた冥は、カウントダウンを聞くような心持ちでその言葉を聞いた。
獣は衝撃に耐え切れずに体制を崩し、幻を狙っていた拳は逸れて地面にめり込んだ。
「何…これ」
倒れていたはずの翼が、先ほどは感じられなかった程の重圧を持って立っている。
ぴり、と空気が張り詰める。翼の瞳孔は真っ直ぐ縦に裂け、金色に輝いていた。
「…馬鹿な、」
動揺した彼に高速で詰め寄り、体ごとぶつかって行く。
獣の絶叫が響いた。翼の力は格段に上昇している。だが。
動作はすべて大振りで、狙いをつけているとも思いがたい。
普段の獣――青なら、易々かわして高笑いを上げている頃だろうに。
それなのに、青は防戦一方、翼の猛攻を防ぎきれて居ない。
圧倒的な手数の差だ。下手な鉄砲数撃ちゃ当たる。
その爪は、蹲っていた幻にも向けられた。
強烈な打撃に弾き飛ばされ、幻も青も、廃屋の壁に叩きつけられる。
その攻撃を最後に翼は嘘のように静かになって、空を見上げたままぼうっと立っていた。
青は不恰好に壁から滑り落ちながら、"げきりん"を使い果たした翼を見つめる。
翼はそのまま崩れ落ちるように、ぺたんと地面に座り込んだ。
今なら、容易に止めを刺せる。相手は壊れたドラゴン一匹。
それに残りは。
青は同じく壁から滑り落ちた幻を見た。ふらつきながら立ち上がろうとする。
その目はあくまで前を見ていた。
「……逃げられないよ?」
幻は無言で二、三歩進んだ後、糸が切れたように倒れこんだ。
「何…これ」
倒れていたはずの翼が、先ほどは感じられなかった程の重圧を持って立っている。
ぴり、と空気が張り詰める。翼の瞳孔は真っ直ぐ縦に裂け、金色に輝いていた。
「…馬鹿な、」
動揺した彼に高速で詰め寄り、体ごとぶつかって行く。
獣の絶叫が響いた。翼の力は格段に上昇している。だが。
動作はすべて大振りで、狙いをつけているとも思いがたい。
普段の獣――青なら、易々かわして高笑いを上げている頃だろうに。
それなのに、青は防戦一方、翼の猛攻を防ぎきれて居ない。
圧倒的な手数の差だ。下手な鉄砲数撃ちゃ当たる。
その爪は、蹲っていた幻にも向けられた。
強烈な打撃に弾き飛ばされ、幻も青も、廃屋の壁に叩きつけられる。
その攻撃を最後に翼は嘘のように静かになって、空を見上げたままぼうっと立っていた。
青は不恰好に壁から滑り落ちながら、"げきりん"を使い果たした翼を見つめる。
翼はそのまま崩れ落ちるように、ぺたんと地面に座り込んだ。
今なら、容易に止めを刺せる。相手は壊れたドラゴン一匹。
それに残りは。
青は同じく壁から滑り落ちた幻を見た。ふらつきながら立ち上がろうとする。
その目はあくまで前を見ていた。
「……逃げられないよ?」
幻は無言で二、三歩進んだ後、糸が切れたように倒れこんだ。
その姿が、二つに割れた。
「…どういうこと?」
今まで戦っていた相手は、まほろ、という一人の男だった。
幻、が倒れたところには、二人の男。
真っ黒と、真っ白。夜に映える金、夜に融ける黒。
「………ねえ、」
立ち上がろうとすれば、激痛が襲う。それでも強引に立ち上がって、二人のほうへ。
「…誰なの?」
きぃん、と耳鳴りがして、見上げた先には一機の飛行機。
するりと身軽に飛び降りてきたのは、軽装備の飛行士のようだ。
青を見て、何事か呟いたが、放心状態の翼を見て、徐に銃を抜く。
「…お前がやったのか…?」
声が震えている。懐かしい声のような気がした。
「……そうかもね」
「…うごくな、」
「撃てないくせに……じゃあね」
飛行士は泣き出しそうな声でうごくな、と叫んだが、青は悠々と闇の向こうへ消えていった。
今まで戦っていた相手は、まほろ、という一人の男だった。
幻、が倒れたところには、二人の男。
真っ黒と、真っ白。夜に映える金、夜に融ける黒。
「………ねえ、」
立ち上がろうとすれば、激痛が襲う。それでも強引に立ち上がって、二人のほうへ。
「…誰なの?」
きぃん、と耳鳴りがして、見上げた先には一機の飛行機。
するりと身軽に飛び降りてきたのは、軽装備の飛行士のようだ。
青を見て、何事か呟いたが、放心状態の翼を見て、徐に銃を抜く。
「…お前がやったのか…?」
声が震えている。懐かしい声のような気がした。
「……そうかもね」
「…うごくな、」
「撃てないくせに……じゃあね」
飛行士は泣き出しそうな声でうごくな、と叫んだが、青は悠々と闇の向こうへ消えていった。