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つかまえた

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捕縛えた




痛む身体を起こしてそっと目を開ける。まだ傷はひとつも癒えていない。
頭上に真っ白で大きな三日月がかかっている。真珠の粒のようにきらきらしていた。
能天気な思考回路はああお迎えか、遅いなぁなんて中途半端なことを考えている。
手を伸ばそうとして、その手が汚れていることに気付く。
何故今まで気がつかなかったのだろう。
獲物の血、泥、土埃、なんだかよくわからない、けれど、とても汚かった。
拭う気力も起こらない。体中の痛みが酷くて、指先さえ動かすのが辛い。
こみ上げる笑いは自嘲。それ以外のなんでもない、そして苦しみでしかない。
――死なせはしないわ
清らかで美しい、月の声が聞こえたような気がした。



*




無我夢中で地面を蹴って走る。あとはソラがうまくやってくれることを祈るのみだ。
自分は自分に与えられた課題をこなす。それに集中する。
一分一秒でも早く、"冬"のもとへ馳せ参じる。そうして、彼を救わなければ。
嫌な予感がする。もしも、あのときのリオの言葉が本当なら、
『どうしたと思う?』
嘲るような笑顔。リオのものだとは思えない。他人を踏み躙って笑う。
信じたくはない、彼がほんとうにリオの望みが具体化したものだという事実だけは。
それとも自分が気付かなかっただけだとでもいうのか。
最愛の、相棒だ。それだというのに。
唇を噛んだ。この上"冬"を守れなければ、自分は存在する意味が無い!
「…"冬"!」
あの人を守ること、あの人が無事で居てくれることが最優先。
彼の笑顔が、何よりのものだから。
「ふゆ…っ」
意地悪く微笑んで、暖かい手で餌付けをされる。
狂おしいくらい恋している。殺されても死なない、なんて言いすぎでもなんでもない。
「…トウガンさん!!」
いつの間にか真上に真っ白で大きな三日月が見えた。
導いてくれるのかい、クレセリア

その、三日月の先。
真っ暗な赤い、モノトーンの闇の奥。
頭上を見上げるようにして座り込んだ影。
とろりと虚ろな琥珀の瞳が泳ぐ。目が、合った。

言葉はいらなかった。
あの時と同じ、彼しか見えなかった。

喧しい蝉の鳴き声とか車のエンジン音とか運河の流れて行く音とか、
人の声もなにもかもが聞こえなかった。
なんと言えばいいのか、ただ――そう、直感、のようなものが働いて、
手を伸ばすしかない、それ以外の選択肢はハナから計算上無視された数値だった。
『…名前は?』
躊躇うような口ぶりでそう問われて、息が詰まるような思いで。
そうだ。それが彼が、初めてこの自分そのものを求めてくれた瞬間だった。

「…名前は?」
あの時彼が問うた言葉を、返す。
彼は少し唇を、意地悪く吊り上げた笑顔で答える。
「……"トウガン"」
「そうだよ、あなただ、ずっと、ずっと会いたかった」
「わたしもだ、」
手を伸ばしているまでの時間が惜しかった。
もう何処にも逃がさないように、その身体を抱き締める。
すこし躊躇ったけれど、トウガンさんも、僕を抱き締めてくれた。
「ありがとう、ゲン」
「何が?」
やっぱり意地悪そうに、怪我した唇で笑って、右目だけの視線を落とした。
「ドログチャんなった」
「…うわ、なんですかトウガンさんってば! 何したんですかこれ!!」
「返り血とか、泥?」
「それで、嫌われるとでも思ったんですか、おめでたい人ですね」

トウガンさんは照れくさそうに笑って、僕の頭を思い切り張り倒した。




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