夢の囚人
目を閉じたのに、世界は赤くなかった。
「今晩は、何時振りかな」
「…わたしが幻に会うより前だから、随分昔かな」
「私を覚えているのかい」
「勿論、かみさま」
真っ黒な布を翻して、かみさまは笑い声を零した。
わたしは神様に歩み寄る。訊かなければならないことがあったのだ。
「わたしが嘘をついたこと、気付いていたのか」
「当たり前だろう、私はこの夢(なか)に居る限り"神"なのだから」
わたしはこの神様に嘘をついて、なにもいらない振りをした大逆犯だった。
でも、神様はちゃんと見抜いていた。溺れるように仕組まれていた。
神様が描いた壮大な筋書きを、わたしはちゃあんと演じて見せたはずなのだけれど。
「…わたしが幻に会うより前だから、随分昔かな」
「私を覚えているのかい」
「勿論、かみさま」
真っ黒な布を翻して、かみさまは笑い声を零した。
わたしは神様に歩み寄る。訊かなければならないことがあったのだ。
「わたしが嘘をついたこと、気付いていたのか」
「当たり前だろう、私はこの夢(なか)に居る限り"神"なのだから」
わたしはこの神様に嘘をついて、なにもいらない振りをした大逆犯だった。
でも、神様はちゃんと見抜いていた。溺れるように仕組まれていた。
神様が描いた壮大な筋書きを、わたしはちゃあんと演じて見せたはずなのだけれど。
「どうしてわたしを呼んだの」
「君に返すものがあるんだ」
「何を」
「今にわかるさ…」
老獪に微笑んだ神様は、現れたときと同じようにいつの間にか消え、赤い夢の世界が帰ってくる。
いつでも血の海に溺れて溢れているような色のこの世界は、わたしに煉獄を想起させた。
そこではきっと、わたしは鎖に繋がれるだろう。
逃れられやしない、罪悪。薄汚く色欲に染められたわたしだから。
「君に返すものがあるんだ」
「何を」
「今にわかるさ…」
老獪に微笑んだ神様は、現れたときと同じようにいつの間にか消え、赤い夢の世界が帰ってくる。
いつでも血の海に溺れて溢れているような色のこの世界は、わたしに煉獄を想起させた。
そこではきっと、わたしは鎖に繋がれるだろう。
逃れられやしない、罪悪。薄汚く色欲に染められたわたしだから。
「冬」
甘い声で呼ばれる。振り返ると、共犯者がにっこり笑って立っている。
この夢の煉獄に浸されている限り、わたしは幸せでいられるのだ。
ここではわたしの醜さを直視しなくていい。愚かしさを忘れ去ることが出来る。
「あいしてる」
「何です、急に」
神に背いた身であることを、ここでなら。
後に回した指先には、神様のおくりもの。
ねぇ、わたし、お前と二人きりで居られる世界をまもりたいの。
「だから、わたしを赦してほしいんだ」
ぞくり。思い起こす感触に震える。そうだ。とっくにわたしはコワレている。
「何を、」
脅える顔。今更遅いよ、かわいそうな"幻"。
自ら怪物の巣に脚を踏み入れたのに、まだ気付いていないなんて。
見える? わたしの目が。狂ってると思えるならお前は正気さ。
甘い声で呼ばれる。振り返ると、共犯者がにっこり笑って立っている。
この夢の煉獄に浸されている限り、わたしは幸せでいられるのだ。
ここではわたしの醜さを直視しなくていい。愚かしさを忘れ去ることが出来る。
「あいしてる」
「何です、急に」
神に背いた身であることを、ここでなら。
後に回した指先には、神様のおくりもの。
ねぇ、わたし、お前と二人きりで居られる世界をまもりたいの。
「だから、わたしを赦してほしいんだ」
ぞくり。思い起こす感触に震える。そうだ。とっくにわたしはコワレている。
「何を、」
脅える顔。今更遅いよ、かわいそうな"幻"。
自ら怪物の巣に脚を踏み入れたのに、まだ気付いていないなんて。
見える? わたしの目が。狂ってると思えるならお前は正気さ。
事は一瞬でカタがついた。
力のない無機質な音が小さく響いて、足元に堕ちる。
しゃがみこんで、その顔を見つめる。綺麗な顔。愛しい男。
身体は小刻みに震えて、最後の一息までも生きようともがいている。
切り裂いた白い胸から、とめどなく溢れる世界。
指先を浸せば、暖かい。もっと深く求めようとしたわたしを、無音の悲鳴が止めた。
「……冬、」
どうして? そんなことも訊かなくちゃわからないの?
「あいしてるよ、幻。」
血泡を吐いた唇に自分の唇を重ね、ごぼごぼと零れていく世界を拾う。
あいしてるなんてセリフ、夢の中じゃなきゃわたしはとても言えないんだ。
だから、嫌だよ。壊さないで。
力のない無機質な音が小さく響いて、足元に堕ちる。
しゃがみこんで、その顔を見つめる。綺麗な顔。愛しい男。
身体は小刻みに震えて、最後の一息までも生きようともがいている。
切り裂いた白い胸から、とめどなく溢れる世界。
指先を浸せば、暖かい。もっと深く求めようとしたわたしを、無音の悲鳴が止めた。
「……冬、」
どうして? そんなことも訊かなくちゃわからないの?
「あいしてるよ、幻。」
血泡を吐いた唇に自分の唇を重ね、ごぼごぼと零れていく世界を拾う。
あいしてるなんてセリフ、夢の中じゃなきゃわたしはとても言えないんだ。
だから、嫌だよ。壊さないで。
重い死体を抱きかかえて、わたしは笑う。
凶悪に。嫣然と。美しく。艶やかに。
凶悪に。嫣然と。美しく。艶やかに。
「ありがとう、かみさま。」