同音異義の茨道
「…仕方ないさ」
歩調をすこし緩めて、幻は微かに笑った。
あれじゃあ、僕が食われちゃうから。頭の中で描いたおぞましい光景は消去しておこう。
"冬"を一人残してきたことをすこし後悔する。
でもまあ今の"冬"はいろんな意味で尋常じゃないから大丈夫だろうけれど。
いや、そうではなくて、一番問題なのは自分が丸腰になることではないか。
"チェーンソー"もない今、この世界の狂える住人たちに対抗できる手段が思いつかない。
大丈夫さ、生命力だけは折り紙付きのイニシャルGだもの。幻は楽しげに笑う。
あれじゃあ、僕が食われちゃうから。頭の中で描いたおぞましい光景は消去しておこう。
"冬"を一人残してきたことをすこし後悔する。
でもまあ今の"冬"はいろんな意味で尋常じゃないから大丈夫だろうけれど。
いや、そうではなくて、一番問題なのは自分が丸腰になることではないか。
"チェーンソー"もない今、この世界の狂える住人たちに対抗できる手段が思いつかない。
大丈夫さ、生命力だけは折り紙付きのイニシャルGだもの。幻は楽しげに笑う。
静葉は足をとめなかった。そうしているうちにも、犠牲者は増える一方だ。
その前に一刻も早く彼を止めなくてはならない。
身体が重くなる。これが翠の言う"御神"、ダークライの力だろうか。
じわじわと体力を削られていく、骨の内側から喰われていくような…得体の知れない。
「…悪趣味だわ」
何度目かの台詞は誰にも届かない。と、思ったのに。
「そうさ、でもここじゃあ、それが普通なんだ」
声は背後から。静葉は長髪を靡かせて振り向く。視線がぶつかった。
「誰…?」
「誰だと思う?」
性別は男。端正に整った容貌は、利口で怜悧な刃物のような印象。
青い瞳が悪戯っぽく笑った。狂気は感じられない、真っ直ぐな、否、真っ直ぐすぎる視線。
直線であるが故に歪んでいる、奇妙な感覚に襲われた。
「……じゃあ、何?」
「君を探しにきたパシリ」
男は靴底を鳴らしながら静葉に近づく。なぜ今まで、その音は聞こえなかったのだろう。
近くで見ると、微かにその容姿に、見覚えがあった。
その前に一刻も早く彼を止めなくてはならない。
身体が重くなる。これが翠の言う"御神"、ダークライの力だろうか。
じわじわと体力を削られていく、骨の内側から喰われていくような…得体の知れない。
「…悪趣味だわ」
何度目かの台詞は誰にも届かない。と、思ったのに。
「そうさ、でもここじゃあ、それが普通なんだ」
声は背後から。静葉は長髪を靡かせて振り向く。視線がぶつかった。
「誰…?」
「誰だと思う?」
性別は男。端正に整った容貌は、利口で怜悧な刃物のような印象。
青い瞳が悪戯っぽく笑った。狂気は感じられない、真っ直ぐな、否、真っ直ぐすぎる視線。
直線であるが故に歪んでいる、奇妙な感覚に襲われた。
「……じゃあ、何?」
「君を探しにきたパシリ」
男は靴底を鳴らしながら静葉に近づく。なぜ今まで、その音は聞こえなかったのだろう。
近くで見ると、微かにその容姿に、見覚えがあった。
「あ、」
静葉は思わず後ずさる。血まみれの人間が転がっている図が再生された。
歳月分積もった埃のように、ひどくノイズのかかった記憶。
その人間に容赦なく、赤い爪を閃かせる"ルカリオ"。
『セカイのために死んでくれる気――あるよね?』
歳月分積もった埃のように、ひどくノイズのかかった記憶。
その人間に容赦なく、赤い爪を閃かせる"ルカリオ"。
『セカイのために死んでくれる気――あるよね?』
こいつは敵だ。
瞬間に放たれた"みずのはどう"を、幻が躱しえたのはほとんど奇跡に近かっただろう。
そういえば、"彼"は彼女が味方だとは言わなかった。幻は納得する。
そういえば、"彼"は彼女が味方だとは言わなかった。幻は納得する。
彼女は敵なのだ。
しかし、今のところ幻が使える戦法は『逃げるが勝ち』のみ。
立て続けに襲った"れいとうビーム"をなんとか避ける。自分は人間だ、当たったら死ぬ。
「…やっぱり、早いのね」
やっぱりって何だ。こっちはただの人間である。もしかして、バカにされているのだろうか。
こういうときにもいちいち反応を返さなくては気がすまないのは、ひょっとすると律儀なのかもしれない。
「そっちが遅いんだよ」
挑発の効果は薄かったようだ。彼女は無言で"だくりゅう"を叩き込んだ。
溢れる洪水に呑まれて、足がとられる。前言撤回、今の絶対怒ってたな。
「…ちっ」
水が引くのを待っていれば捕られる。かといって、このまま水の中を鈍足で動いても終わる。
ならば、動くな。案の定突っ込んできた彼女の"れいとうパンチ"を、僅かな動きで躱す。
攻撃するなら、今のはかなりのチャンスだった。しかし、幻に攻撃ができるはずもない。
彼女は明らかに、好機を見逃した幻を不審に思ったようだった。
「戦わないつもり?」
「生憎、この通りただの人間なもので」
しかし、今のところ幻が使える戦法は『逃げるが勝ち』のみ。
立て続けに襲った"れいとうビーム"をなんとか避ける。自分は人間だ、当たったら死ぬ。
「…やっぱり、早いのね」
やっぱりって何だ。こっちはただの人間である。もしかして、バカにされているのだろうか。
こういうときにもいちいち反応を返さなくては気がすまないのは、ひょっとすると律儀なのかもしれない。
「そっちが遅いんだよ」
挑発の効果は薄かったようだ。彼女は無言で"だくりゅう"を叩き込んだ。
溢れる洪水に呑まれて、足がとられる。前言撤回、今の絶対怒ってたな。
「…ちっ」
水が引くのを待っていれば捕られる。かといって、このまま水の中を鈍足で動いても終わる。
ならば、動くな。案の定突っ込んできた彼女の"れいとうパンチ"を、僅かな動きで躱す。
攻撃するなら、今のはかなりのチャンスだった。しかし、幻に攻撃ができるはずもない。
彼女は明らかに、好機を見逃した幻を不審に思ったようだった。
「戦わないつもり?」
「生憎、この通りただの人間なもので」
「…"ただの"人間?」
静葉は技を構えたままだが、そのまま"どろばくだん"を放つことはしなかった。
男はその様子を見て、あっさりと武装解除する。
「そうだよ。僕はポケモンじゃない。だからまともに君とやりあうなんて自殺行為だ」
「あのときのルカリオじゃ…なかったの?」
一瞬、男の表情が苦しげに歪む。
すぐにそれは掻き消えて、寂しげな微笑を湛えた美貌を上げた。
「それはきっと…僕のパートナーだ。僕が殺したから、もう、いない」
「…ごめんなさい」
謝罪の意味は二重。誤解と、それから、傷を抉ったこと。
パートナーを、殺した。同じ響きの違う言葉。
それは、静葉の心もきぃんと響かせる。
『絶対に、赦さないよ』。
男の、真っ直ぐな瞳。真っ直ぐすぎて歪んだ視線は、焔のものに似ていた。
「私を探してたって…言ったかしら?」
「うん、少し訳有りで。でもその前に確かめておきたいことがある」
男は幻、と名乗った。
「君は、この世界の神を殺そうとしているのか?」
「…愚かだと思って、私を攻撃したければそうすればいいわ」
「馬鹿な。僕は自殺する気はないってさっきも言ったじゃないか」
静葉は一瞬驚いたが、笑って幻に右手を差し出した。
男はその様子を見て、あっさりと武装解除する。
「そうだよ。僕はポケモンじゃない。だからまともに君とやりあうなんて自殺行為だ」
「あのときのルカリオじゃ…なかったの?」
一瞬、男の表情が苦しげに歪む。
すぐにそれは掻き消えて、寂しげな微笑を湛えた美貌を上げた。
「それはきっと…僕のパートナーだ。僕が殺したから、もう、いない」
「…ごめんなさい」
謝罪の意味は二重。誤解と、それから、傷を抉ったこと。
パートナーを、殺した。同じ響きの違う言葉。
それは、静葉の心もきぃんと響かせる。
『絶対に、赦さないよ』。
男の、真っ直ぐな瞳。真っ直ぐすぎて歪んだ視線は、焔のものに似ていた。
「私を探してたって…言ったかしら?」
「うん、少し訳有りで。でもその前に確かめておきたいことがある」
男は幻、と名乗った。
「君は、この世界の神を殺そうとしているのか?」
「…愚かだと思って、私を攻撃したければそうすればいいわ」
「馬鹿な。僕は自殺する気はないってさっきも言ったじゃないか」
静葉は一瞬驚いたが、笑って幻に右手を差し出した。
「どこへ連れてってくれるの? 時計兎さん」