Split from You
幻が静葉の手を引いて小走りに駆けてきたとき、冬は退屈そうに瓦礫に腰掛けていた。
脚をぶらぶらさせて何かするでもなく、ただぼんやりと遠景を見つめている。
足音に気付いたのか、冬は澄んだ琥珀色を幻に向けた。
脚をぶらぶらさせて何かするでもなく、ただぼんやりと遠景を見つめている。
足音に気付いたのか、冬は澄んだ琥珀色を幻に向けた。
「冬!」
呼びかけに応える様に瓦礫をひょいと飛び降りて、幻に向かって一直線。
ぎゅっと身体を捕まえて、そのまま人目も憚らぬキス。
静葉が目を見開くのもお構いなし。幻も彼女を放して、冬を抱きしめる。
やがて冬が、閉じていた目をゆっくりと開いた。琥珀の瞳は寝起きのようにぼんやりしている。
けれど靄が晴れるように瞳が色を取り戻し、そこからは目にも留まらぬ電光石化の足技。
「痛った! なんですかなにするんですかあああ!」
「何だはこっちの台詞だこの腐れ外道がッ人の寝込み襲ってんじゃねぇブッ飛ばすぞ!!」
幻は綺麗に爪先を受け止めた腰をさすりながら、冬の背後に目を遣る。
そこにはどろりと地面に広がった、<アノニマス>の姿があった。
「…タチ悪すぎんだよこのコンニャク畑」
『けたたっ! ゴメンねぇ、ひとりでつまんなカったのぉv』
「冬、大丈夫だった? 何にも変なことされてない?」
「さっきお前と言う名の変質者に唇を奪われたくらいだよ」
<アノニマス>が高音で笑った。青い目がぎろりとそれを睨む。
すると紫色の粘液は音を立てて変形する。次の瞬間には、紫色の"焔"がそこに居た。
『ナんにせよよカっタね、冬がナおってv』
「そこだけは感謝しておくよ。ほら、取引。連れてきたよ」
3人分の視線を浴びて、静葉はぱちくりと目を瞬く。
『ね、ボクのことはワカるよね?』
「え…あ、うん」
姿に戸惑いこそしているものの、状況は飲み込んでいるらしい。静葉はこくこく頷いた。
『色々あっテ、キミとイッショにいくことになっテるのー』
「ダークライ討伐の同志は多いほうがいいからね。君の都合が悪くなければ、だけど」
静葉は少し考えてから、ため息混じりに言う。
「…悪くはない、んだけど…ひとつ問題が」
呼びかけに応える様に瓦礫をひょいと飛び降りて、幻に向かって一直線。
ぎゅっと身体を捕まえて、そのまま人目も憚らぬキス。
静葉が目を見開くのもお構いなし。幻も彼女を放して、冬を抱きしめる。
やがて冬が、閉じていた目をゆっくりと開いた。琥珀の瞳は寝起きのようにぼんやりしている。
けれど靄が晴れるように瞳が色を取り戻し、そこからは目にも留まらぬ電光石化の足技。
「痛った! なんですかなにするんですかあああ!」
「何だはこっちの台詞だこの腐れ外道がッ人の寝込み襲ってんじゃねぇブッ飛ばすぞ!!」
幻は綺麗に爪先を受け止めた腰をさすりながら、冬の背後に目を遣る。
そこにはどろりと地面に広がった、<アノニマス>の姿があった。
「…タチ悪すぎんだよこのコンニャク畑」
『けたたっ! ゴメンねぇ、ひとりでつまんなカったのぉv』
「冬、大丈夫だった? 何にも変なことされてない?」
「さっきお前と言う名の変質者に唇を奪われたくらいだよ」
<アノニマス>が高音で笑った。青い目がぎろりとそれを睨む。
すると紫色の粘液は音を立てて変形する。次の瞬間には、紫色の"焔"がそこに居た。
『ナんにせよよカっタね、冬がナおってv』
「そこだけは感謝しておくよ。ほら、取引。連れてきたよ」
3人分の視線を浴びて、静葉はぱちくりと目を瞬く。
『ね、ボクのことはワカるよね?』
「え…あ、うん」
姿に戸惑いこそしているものの、状況は飲み込んでいるらしい。静葉はこくこく頷いた。
『色々あっテ、キミとイッショにいくことになっテるのー』
「ダークライ討伐の同志は多いほうがいいからね。君の都合が悪くなければ、だけど」
静葉は少し考えてから、ため息混じりに言う。
「…悪くはない、んだけど…ひとつ問題が」
*
「…樹くんが?」
今まで黙って会話を聞いているだけだった冬が、ぽつりと呟いた。
「、知ってるんですか?」
冬は頷いて、思い返すように空を見上げる。寂しげに。
「…何度か会って、一度は……とてもひどいことをした、本当に…」
「そう、ですか」
「あのときのわたしは、…今でもそうだけれど、まともじゃなかった」
ほぅ、とため息を吐き出して、隣の幻の肩に凭れかかる。
幻は何も言わずに、冬の赤毛を撫でた。
『デモデモ、いまのあのコもフツーじゃナいよ?』
「仕方ないさ、こんなところに居たんじゃだれだっておかしくなる」
幻が切り捨てる。冬は怖がるように、幻の肩口に潜り込んだ。
暫くの沈黙のあと、静葉が立ち上がる。その目は赤い空を睨んでいた。
「こうしてる間にも、彼は人を殺していくの。早く行かなくちゃ、」
『ボクもいくヨぉ、このお兄さんコワぁいもん』
幻は一瞬むっとしたが、直ぐに平静に戻って言う。
「私も行こう。情報収集もしたいところだし…ほら、冬」
今まで黙って会話を聞いているだけだった冬が、ぽつりと呟いた。
「、知ってるんですか?」
冬は頷いて、思い返すように空を見上げる。寂しげに。
「…何度か会って、一度は……とてもひどいことをした、本当に…」
「そう、ですか」
「あのときのわたしは、…今でもそうだけれど、まともじゃなかった」
ほぅ、とため息を吐き出して、隣の幻の肩に凭れかかる。
幻は何も言わずに、冬の赤毛を撫でた。
『デモデモ、いまのあのコもフツーじゃナいよ?』
「仕方ないさ、こんなところに居たんじゃだれだっておかしくなる」
幻が切り捨てる。冬は怖がるように、幻の肩口に潜り込んだ。
暫くの沈黙のあと、静葉が立ち上がる。その目は赤い空を睨んでいた。
「こうしてる間にも、彼は人を殺していくの。早く行かなくちゃ、」
『ボクもいくヨぉ、このお兄さんコワぁいもん』
幻は一瞬むっとしたが、直ぐに平静に戻って言う。
「私も行こう。情報収集もしたいところだし…ほら、冬」
冬は暫く黙っていた。ふいに顔を上げて、首を横に振る。
「…すまないけれど、行けない。確かめたいことがあるんだ」
胸に手を当てて、目を閉じる。傷はすっかり癒えていた。過去の傷であるはずの、左目まで。
「わたしは、リオくんに殺されかけた。それで気になったんだ…皆は今、どうしているんだろうか」
「冬、」
「わたしが行っても、戦力にもなりやしない。気ままに散歩しているさ」
幻は冬の笑顔を撫でる。何故か、目を見られなかった。
「…わかった。でも約束して、危ないことはしないって。絶対、また生きて会おう?」
「うん、大丈夫。」
冬は、その名に相応しくないほどの暖かい笑顔を見せた。
「…すまないけれど、行けない。確かめたいことがあるんだ」
胸に手を当てて、目を閉じる。傷はすっかり癒えていた。過去の傷であるはずの、左目まで。
「わたしは、リオくんに殺されかけた。それで気になったんだ…皆は今、どうしているんだろうか」
「冬、」
「わたしが行っても、戦力にもなりやしない。気ままに散歩しているさ」
幻は冬の笑顔を撫でる。何故か、目を見られなかった。
「…わかった。でも約束して、危ないことはしないって。絶対、また生きて会おう?」
「うん、大丈夫。」
冬は、その名に相応しくないほどの暖かい笑顔を見せた。
去って行く後姿を見送って、幻は静葉と、"焔"と一緒に歩き出した。
『ヨカッタの?』
「あの人を縛り付けておく権利は、私には無い。あの人が私を縛るのは、あの人の自由だけどね」
『お兄さん、やっぱりゼンゼン甘ーくなぁい…』
「まあね、でも君に付け入られるくらいならよっぽどマシだよ」
それで会話は終わってしまった。道はどこまでも真っ直ぐだ。
3人分の足音は、薄暗い路地に響いては消えた。
『ヨカッタの?』
「あの人を縛り付けておく権利は、私には無い。あの人が私を縛るのは、あの人の自由だけどね」
『お兄さん、やっぱりゼンゼン甘ーくなぁい…』
「まあね、でも君に付け入られるくらいならよっぽどマシだよ」
それで会話は終わってしまった。道はどこまでも真っ直ぐだ。
3人分の足音は、薄暗い路地に響いては消えた。