Sweet Little White
ゆっくり、目を開ける。
柔らかい白が視界を染め上げ、青はため息を吐いた。
背中では銀の翼が寂しそうに揺れている。
柔らかい白が視界を染め上げ、青はため息を吐いた。
背中では銀の翼が寂しそうに揺れている。
「……ごめんなさい」
誰に向けるでもなく、ぽつり呟いた。勝手に涙が頬を伝う。
いろんなことがまぜこぜに脳裏に描き出され、また、消えていった。
誰かの手が触れた。優しく、青の紺碧の髪を撫でる。
「わかって、いたんです。全て、無意味なことくらい」
「…ああ」
涙を拭うこともできない。息をするのもひどく困難で、喉の奥から全て吐き出してしまいそうだ。
「でも、やめるなんてできなかったんです。
ぼくがやめたら、忘れてしまったら、みんなはほんとうに終わってしまう。
みんなが生きていたことも、みんな、笑ってたのに、
全部なかったことになってしまうから、だから…」
「そう、だな…」
「でも、もうおしまいになりました。
いいえ、ずっとおしまいだったんです。ぼくが見ないふりをしていただけなんです。
どんなに人を殺しても、世界を変えても、死んでしまった以上、みんなは…帰ってはこない、んです。
ぼくは…ありもしないものを、夢、みてただけ」
いろんなことがまぜこぜに脳裏に描き出され、また、消えていった。
誰かの手が触れた。優しく、青の紺碧の髪を撫でる。
「わかって、いたんです。全て、無意味なことくらい」
「…ああ」
涙を拭うこともできない。息をするのもひどく困難で、喉の奥から全て吐き出してしまいそうだ。
「でも、やめるなんてできなかったんです。
ぼくがやめたら、忘れてしまったら、みんなはほんとうに終わってしまう。
みんなが生きていたことも、みんな、笑ってたのに、
全部なかったことになってしまうから、だから…」
「そう、だな…」
「でも、もうおしまいになりました。
いいえ、ずっとおしまいだったんです。ぼくが見ないふりをしていただけなんです。
どんなに人を殺しても、世界を変えても、死んでしまった以上、みんなは…帰ってはこない、んです。
ぼくは…ありもしないものを、夢、みてただけ」
翼が、萎びるように折れた。
白い世界でもはっきりとわかるほどの暖かい光を帯び、それは消え失せる。
白い世界でもはっきりとわかるほどの暖かい光を帯び、それは消え失せる。
「ぼく…ほんとうは、あなたが羨ましかったんです。あなたはずるい。
生まれた時から誰かの暖かい腕の中で生きることを許されて、しあわせで…羨ましい。
どうして…不公平じゃ、ないですか。」
青は、爪を見つめた。獣のように曲がった鉤爪は、ひっこめることも無くすこともできない。
唇からは鋭い、八重歯には長すぎる牙が覗く。
そして頭の先へ、直線に伸びているのは耳。
彼の彼たる理由でもあり、彼をひどくいじめた元凶でもある。
「ごめんなさい。仕方ないことなのに、あなたは悪くないのに…ぼく…」
「…私は」
彼は、青の隣にそっと腰を下ろした。白髪がふわり、揺れる。
「私は、…嫌だった。昔のことは覚えてなどいなかったけれど…
…あのまま、柔らかな土の中で眠っていたかったから」
幼くしてジムリーダーという将来を約束された少年に、与えられ復元された太古のポケモン。
土の中に埋もれ、暖かい眠りを許されていたのに、世界は進歩した。
目が覚めた莉の金の双眸に映った全てが、暗い地面の底とはなにもかも違っていた。
生まれた時から誰かの暖かい腕の中で生きることを許されて、しあわせで…羨ましい。
どうして…不公平じゃ、ないですか。」
青は、爪を見つめた。獣のように曲がった鉤爪は、ひっこめることも無くすこともできない。
唇からは鋭い、八重歯には長すぎる牙が覗く。
そして頭の先へ、直線に伸びているのは耳。
彼の彼たる理由でもあり、彼をひどくいじめた元凶でもある。
「ごめんなさい。仕方ないことなのに、あなたは悪くないのに…ぼく…」
「…私は」
彼は、青の隣にそっと腰を下ろした。白髪がふわり、揺れる。
「私は、…嫌だった。昔のことは覚えてなどいなかったけれど…
…あのまま、柔らかな土の中で眠っていたかったから」
幼くしてジムリーダーという将来を約束された少年に、与えられ復元された太古のポケモン。
土の中に埋もれ、暖かい眠りを許されていたのに、世界は進歩した。
目が覚めた莉の金の双眸に映った全てが、暗い地面の底とはなにもかも違っていた。
「どうして、私を起こしたんだ」
それを聴いた幼い"彼"は一瞬驚いて、それからぽろぽろと涙をこぼした。
「ごめん、そんなつもりじゃ…ともだちになりたかっただけなんだ」
泣かせるつもりも意地悪をしたつもりも全くなく、ただ純粋に聞いてみただけなのに。
目覚めてしまった以上仕方がないのだから。
それは彼のせいではないし、神様の悪戯としか言いようがない。
何を謝ることがあるのだろう? そして彼の希望はとうに叶えられていたのに。
莉は彼に近寄った。琥珀色の瞳は濡れて、寂しそうに俯く。
鮮烈な赤毛に触れる。目を閉じても、色は消えなかった。
「…違う。」
否定の意味は伝わったようだ。温かい腕が触れる。
ぎゅっと服の裾を握り締めていた、泣き虫なちいさな掌は、いつのまにか大人になっていた。
それを聴いた幼い"彼"は一瞬驚いて、それからぽろぽろと涙をこぼした。
「ごめん、そんなつもりじゃ…ともだちになりたかっただけなんだ」
泣かせるつもりも意地悪をしたつもりも全くなく、ただ純粋に聞いてみただけなのに。
目覚めてしまった以上仕方がないのだから。
それは彼のせいではないし、神様の悪戯としか言いようがない。
何を謝ることがあるのだろう? そして彼の希望はとうに叶えられていたのに。
莉は彼に近寄った。琥珀色の瞳は濡れて、寂しそうに俯く。
鮮烈な赤毛に触れる。目を閉じても、色は消えなかった。
「…違う。」
否定の意味は伝わったようだ。温かい腕が触れる。
ぎゅっと服の裾を握り締めていた、泣き虫なちいさな掌は、いつのまにか大人になっていた。
「ぼくは、ひとりじゃないのに。全部みえてなかったんだ…」
「そんなものだろう、二つの目では、世界を見渡すには少なすぎる」
青はゆっくり立ち上がる。その瞳は、真っ直ぐにどこかを見ていた。
莉ににっこりと笑いかけると、背をむけて歩き出す。
「…ありがとう、ラトさん。でも、ぼくは…あなたがたのことが、羨ましい以上に、だいすきなんです」
「私も、きみたちのことが好きだよ」
莉もまた、青とは反対の方向へそっと一歩踏み出した。
「そんなものだろう、二つの目では、世界を見渡すには少なすぎる」
青はゆっくり立ち上がる。その瞳は、真っ直ぐにどこかを見ていた。
莉ににっこりと笑いかけると、背をむけて歩き出す。
「…ありがとう、ラトさん。でも、ぼくは…あなたがたのことが、羨ましい以上に、だいすきなんです」
「私も、きみたちのことが好きだよ」
莉もまた、青とは反対の方向へそっと一歩踏み出した。
「また、会いましょう。夢の外で。ぼくらは…生きています。」
「ああ。」
「ああ。」
後にはただ、何もない真っ白の世界が残る。
それは、眠りから醒める前の一瞬の空白。
死の淵から身体を引きあげるための、ひとかけらの美しい夢だった。
それは、眠りから醒める前の一瞬の空白。
死の淵から身体を引きあげるための、ひとかけらの美しい夢だった。
役目を終えた夢は、やがて静かな眠りについた。