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Arrivée de L'hiver

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Arrivée de L'hiver





じゅう、とかわいらしい鳴き声がして、たまごはフライパンの上で踊る。
皿でふたを閉じると、鉄は目玉焼き待ちの冥に声をかけた。
「すぐできるからな、ちゃんとはじっこかりかりにするし!」
「はい、ありがとうございます」
鼻歌交じりにフライパンと向き合う鉄。
パンにバターをぺたぺたつける風。
対してフレンチトーストを丁寧に切り分ける紅。
それに、目玉焼きを待ちわびる冥。
いつも通りの朝食風景だが、今日はひとつ皿が多い。
「パンとたまごくらいしかないけど…い?」
「いや、いい。気使わんでくれ」
朝日を浴びた白髪交じりのふわふわ赤毛は、硝子細工のごとく澄んだ色を見せる。
琥珀色の視線は慈しむように鉄を見ていた。
やがてパンに目玉焼きが乗せられて、皿が4つ作られる。
冥と客人の前にひとつずつ、鉄の前にひとつ。
最後のひとつは、誰もいない空席の前へ。
いただきますが唱和され、欠けた席を残したままの朝ごはんが始まる。
それが、いつものことだった。






「冬たんどうして急に来たの」
「たん?…いや、お前の顔が見たかっただけだが」
お料理お皿洗いお洗濯とお掃除。パーフェクト。現実でこれならどんなに楽かと冬はため息をついた。目の前に置かれたお茶の角砂糖をくるくる溶かしながら、鉄の相づちを聞く。
「ふーん…そぉ」
「ああ。ちょっと気になっただけなんだ」
(お客さんなんてほとんどないからかな、何かうれしい)
風が走り書きした言葉に、冥は目を細める。
「お客さん、ですか。たまにはいいですよね、こういうの」
「…お茶、おいしい?」
紅ははじめかなり冬を警戒して近寄らなかった。
が、鉄の知り合い、それもかなり親しい間柄であることがわかってからは、少しずつ距離を縮めていた。
「ああ、ありがとう」
ぽふ、と柔らかい音。冬の手のひらが紅の頭に置かれていた。
紅は小さく、きゃ、と悲鳴をあげたけれど、照れくさそうに笑った。
「……鉄といっしょ」
「そりゃ、俺のなでなでは冬からのコピーだもんねぇ」
「冬は…鉄のおとうさんなの?」
「うーん……親父は別にいるけど…まあある意味おとうさん、かなぁ?」
冬は同じように鉄の頭も撫でた。鉄も、困ったような笑顔を見せる。
「鉄、ありがとう。わたしはそろそろ行かないと」
「え、もっとゆっくりしてけばいいのに…」
立ち上がって、椅子の背に引っかけてあったマントを羽織る。その裾を、紅が掴んだ。
「まって、」
「…時間がないんだ」
風が駆け寄る。首を横に振った。音の出ない唇で、必死に訴える。
それは冥には、確かにこう聞こえた。
(鉄を寂しがらせないで)
「私からもお願いします。もう一晩だけでも…」
わかっている。緩やかに崩れていく鉄。風化していく姿を見ないふりできるのには、限界があることくらい。
それでも、鉄と居たかっただけ。みんなで暮らしたいだけだ。
けれども冬は、そんな秋の微睡みを駆逐するために在る。
「"それ"は君たちがなすべきことだ。わたしは他にしなくてはならないことがある。本当に、時間がない」
「冬さん!」
冷たく言い放つ冬に、冥もつい声を大きくする。冬が振り向いた。
琥珀色は、優しく冥をみていた。
「わたしは、そんなに立派なことはできないよ。自分のことで精一杯だ。でも君たちは違う」
紅の指をそっと離して、鉄に笑いかける。鉄は黙って頷いた。
「だいじょうぶ。お前はひとりぼっちじゃない。みんなこんなに、お前を見ててくれてるじゃないか」


そうして冬は、廃墟を後にした。
鉄はしばらくその背中を見守っていたが、ふいにぽろぽろと涙を落とす。
「鉄…」
「鉄、だいじょうぶ」
(だいじょうぶだ)
どこへも行かないから。
だれも欠けやしないから。
3人で、泣きながら一生懸命笑顔をつくろうとする鉄に寄り添う。
「…ありがとう」
鉄は、3人の頭をぎゅっと抱きしめた。




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