酷愛スプリッティング
「そう、ありがと。」
澪は足を組んで椅子に腰かけている。彼女がかけると凡庸な椅子も玉座のよう。
その前に跪く男、恭しく捧げた宝飾品。彼女はにっこり微笑んで受け取った。
傍らには彼女の靴を磨く男、彼女の髪を整える男、彼女に飲み物を用意する男。いずれもそれは牢ではない。
そしていずれも、揃いの黒い手袋を身に着けていた。
「ふぅん、こんなのつけてる雌がいた訳…で?駆除しておいた?」
「勿論です。あの区域には雌猫一匹おりません。」
「そ、ごくろうさま。やっぱり汚い道なんて歩きたくないものねぇ。」
目をゆったり細める嗜虐的な微笑み。それだけでも男の体温が跳ねあがったことはすぐ見てとれる。
彼女に仕える男達はどれも端正に整っており、おそらく道を歩けば女性が振り返る類の容姿だろう。
そんな彼らからの熱っぽい視線を一身に浴びる女王・澪。
髪先から爪の先まで澪に服従している。眼球から心臓まで澪に奪われている。この世で貴女より尊い女など居りませぬ。唇はそろって心底そう讃える。
くすぐられるプライド。甘く酔いしれる自尊心。
彼らはそれだけのために、澪が拾い集めた収集品<コレクション>だった。
「…もういいわ。」
4人の男の手が止まる。澪は笑んで言った。
「今日はおしまい。また用事があったら呼ぶわ。部屋に戻って頂戴。」
4人は揃って頷き持ち場を離れた。機械のように揃った動きだ。その動きで彼らは鉄製のドアを開ける。
その先は地下室だ。
そこが彼らの住まう場所。冷たくても不衛生でも彼らは不服になど思わないのだろう。ひととき得られる女王の笑顔、ただそれだけが理由で幸福。
澪はふぅと息を吐く。さぁこれで部屋はすっかり片付いた。
ただ一人、収集品とは異なる男を残して。
「…牢。」
手袋のないその男を呼んで、澪は持っていた宝飾品を投げつけた。
勢いがよかったので端が欠けてしまった。受け止めたそれを牢は眺める。金色のネックレスにはめ込まれたルビーが美しい。
「澪、欠けたけど。」
「いいの。赤い宝石なんて見飽きちゃった!その金色もよ。けばけばしい金色なんてもうナンセンスよ。あの男、雌の駆除以外は全然センスがないのね。」
一時期は自分と色の似た金や赤の宝飾品をとても喜んだものだが、飽きてしまったのならしょうがない。
その後も続く澪の文句を牢は黙って聞いていた、が。
澪は足を組んで椅子に腰かけている。彼女がかけると凡庸な椅子も玉座のよう。
その前に跪く男、恭しく捧げた宝飾品。彼女はにっこり微笑んで受け取った。
傍らには彼女の靴を磨く男、彼女の髪を整える男、彼女に飲み物を用意する男。いずれもそれは牢ではない。
そしていずれも、揃いの黒い手袋を身に着けていた。
「ふぅん、こんなのつけてる雌がいた訳…で?駆除しておいた?」
「勿論です。あの区域には雌猫一匹おりません。」
「そ、ごくろうさま。やっぱり汚い道なんて歩きたくないものねぇ。」
目をゆったり細める嗜虐的な微笑み。それだけでも男の体温が跳ねあがったことはすぐ見てとれる。
彼女に仕える男達はどれも端正に整っており、おそらく道を歩けば女性が振り返る類の容姿だろう。
そんな彼らからの熱っぽい視線を一身に浴びる女王・澪。
髪先から爪の先まで澪に服従している。眼球から心臓まで澪に奪われている。この世で貴女より尊い女など居りませぬ。唇はそろって心底そう讃える。
くすぐられるプライド。甘く酔いしれる自尊心。
彼らはそれだけのために、澪が拾い集めた収集品<コレクション>だった。
「…もういいわ。」
4人の男の手が止まる。澪は笑んで言った。
「今日はおしまい。また用事があったら呼ぶわ。部屋に戻って頂戴。」
4人は揃って頷き持ち場を離れた。機械のように揃った動きだ。その動きで彼らは鉄製のドアを開ける。
その先は地下室だ。
そこが彼らの住まう場所。冷たくても不衛生でも彼らは不服になど思わないのだろう。ひととき得られる女王の笑顔、ただそれだけが理由で幸福。
澪はふぅと息を吐く。さぁこれで部屋はすっかり片付いた。
ただ一人、収集品とは異なる男を残して。
「…牢。」
手袋のないその男を呼んで、澪は持っていた宝飾品を投げつけた。
勢いがよかったので端が欠けてしまった。受け止めたそれを牢は眺める。金色のネックレスにはめ込まれたルビーが美しい。
「澪、欠けたけど。」
「いいの。赤い宝石なんて見飽きちゃった!その金色もよ。けばけばしい金色なんてもうナンセンスよ。あの男、雌の駆除以外は全然センスがないのね。」
一時期は自分と色の似た金や赤の宝飾品をとても喜んだものだが、飽きてしまったのならしょうがない。
その後も続く澪の文句を牢は黙って聞いていた、が。
「もう、いいわ。いらない。」
かすかに牢が身じろぎした。
「…いらない?」
「いらないわ、ぜーんぶいらない!あれ全部飽きちゃった!」
「わかった。」
眼鏡の奥の瞳が、光った。
「全部、いらないんだね。」
「…いらない?」
「いらないわ、ぜーんぶいらない!あれ全部飽きちゃった!」
「わかった。」
眼鏡の奥の瞳が、光った。
「全部、いらないんだね。」
かつかつと牢は地下への階段を降りた。暗くて冷たくて不衛生な地下室。
鍵もかかってないドアを開けて、牢は一言言った。
「呼び出しだよ。」
それだけで向いた視線は喜色に満ちた。牢の背後に澪の幻を見る視線。
気色悪いなぁ。
心で感じない牢は、代わりに頭で思う。
そんなこと露ほども浮かべない無表情、牢は黙って外への道を開ける。促されるまま彼らは外へと向かう。
壁に背を預けた牢は、無表情でそれを見送った。
騒がしさを嫌う主人に躾けられた4匹の犬。ゆっくりと部屋から階段へ進んでいく。
四つの背中ががら空く瞬間を
捉えるのは容易い。
鍵もかかってないドアを開けて、牢は一言言った。
「呼び出しだよ。」
それだけで向いた視線は喜色に満ちた。牢の背後に澪の幻を見る視線。
気色悪いなぁ。
心で感じない牢は、代わりに頭で思う。
そんなこと露ほども浮かべない無表情、牢は黙って外への道を開ける。促されるまま彼らは外へと向かう。
壁に背を預けた牢は、無表情でそれを見送った。
騒がしさを嫌う主人に躾けられた4匹の犬。ゆっくりと部屋から階段へ進んでいく。
四つの背中ががら空く瞬間を
捉えるのは容易い。
瞳が光った。
ぱぁんと弾け咲く血液の華華華華。
ぜんぶ咲かせて駄犬を黙らせ尚も尚も尚も尚も鉄パイプは振り降ろされた。
滅多打ちという表現が似合っていた。殴り続けることが目的であるかのように。
もう首は折れたのに。もう目は潰れたのに。もう頭は割れたのに。尚。
(この耳は、)
澪の声を聞いていた。
(この口は、)
澪へ言葉を吐いていた。
(この目は、)
澪の姿を映していた。
(この手は、)
澪へ物を渡していた。
無表情は1ミクロンも崩れないまま頬を塗る赤絵具がびたびたと増えていく。
パイプを振るうパイプを振るう殴る殴る殴る殴る殴る
殺すことに動く心もなければ壊すことに動く心もなく、
ただひとつ、ただひとつの蠢く激情<ココロ>。
ぜんぶ咲かせて駄犬を黙らせ尚も尚も尚も尚も鉄パイプは振り降ろされた。
滅多打ちという表現が似合っていた。殴り続けることが目的であるかのように。
もう首は折れたのに。もう目は潰れたのに。もう頭は割れたのに。尚。
(この耳は、)
澪の声を聞いていた。
(この口は、)
澪へ言葉を吐いていた。
(この目は、)
澪の姿を映していた。
(この手は、)
澪へ物を渡していた。
無表情は1ミクロンも崩れないまま頬を塗る赤絵具がびたびたと増えていく。
パイプを振るうパイプを振るう殴る殴る殴る殴る殴る
殺すことに動く心もなければ壊すことに動く心もなく、
ただひとつ、ただひとつの蠢く激情<ココロ>。
汚い汚い汚らわしい穢らわしい生塵のくせに汚物のくせに蛆のくせに糞尿のくせに畜生のくせに反吐のくせに澪に触るな澪に近づくな澪を見るな澪に口をきくな澪の吐く空気を吸うな澪の声を耳に入れるな澪の澪に澪の、
澪に、
「…澪、終わったよ。」
「そ、ごくろうさま。」
「そ、ごくろうさま。」