夢見るバンシー
赤い空は決して移ろわない。
冥は廃墟の屋上に腰かけて、空をぼんやりと見上げていた。空はいつでも変わらないが、鉄達が寝静まった今は夜と呼べるのかもしれない。
ずっと変わらない空。最初から『ない』ものは『終わる』ことがない。
冥はそう、信じていた。信じていた空を見上げ、そっと息を吐き、俯いた。
(裏を返せば、)
心臓が鳴る。
(変わり始めると、)
…唇が震えた。
その先は頭の中ですら呟きたくない。それでも意識は廃墟の中へと沈んだ。
どれだけ見ない振りをしても、今の鉄は以前の鉄と『変わって』しまった。
家の柱に亀裂が入ったような恐怖感が、じわじわと皆を蝕むのがわかる。もう、昨日と変わらない明日を笑顔で信じることはできない。
懐かしい感覚、でもあった。冥はわざと自嘲の笑みを作る。けれどその笑みがうまく作れない自分に気づいて、冥は膝に目を埋めた。どうして、神様。こんなにも自分を弱くしてから、今になって。
こんなはずじゃなかったのに。
消えたくない。終わりたくない。そのための死なない身体じゃなかったか。
願いが叶うのでしょう?夢が見れるのでしょう?だったらお願い神様、もっともっと此処に居させて。
いつまでもいつまでもいつまでも、終わりのない夢に。
だってひとたび目覚めてしまえばもう、私は。
冥は廃墟の屋上に腰かけて、空をぼんやりと見上げていた。空はいつでも変わらないが、鉄達が寝静まった今は夜と呼べるのかもしれない。
ずっと変わらない空。最初から『ない』ものは『終わる』ことがない。
冥はそう、信じていた。信じていた空を見上げ、そっと息を吐き、俯いた。
(裏を返せば、)
心臓が鳴る。
(変わり始めると、)
…唇が震えた。
その先は頭の中ですら呟きたくない。それでも意識は廃墟の中へと沈んだ。
どれだけ見ない振りをしても、今の鉄は以前の鉄と『変わって』しまった。
家の柱に亀裂が入ったような恐怖感が、じわじわと皆を蝕むのがわかる。もう、昨日と変わらない明日を笑顔で信じることはできない。
懐かしい感覚、でもあった。冥はわざと自嘲の笑みを作る。けれどその笑みがうまく作れない自分に気づいて、冥は膝に目を埋めた。どうして、神様。こんなにも自分を弱くしてから、今になって。
こんなはずじゃなかったのに。
消えたくない。終わりたくない。そのための死なない身体じゃなかったか。
願いが叶うのでしょう?夢が見れるのでしょう?だったらお願い神様、もっともっと此処に居させて。
いつまでもいつまでもいつまでも、終わりのない夢に。
だってひとたび目覚めてしまえばもう、私は。
「そうね。存在ごと消えちゃったら眠ることもできないわ。」
声に、冥は驚いて振り向いた。
突然の来訪者・桃はまったく構わず悪戯に笑んでいる。以前の襲撃を思い出して、冥は身構えた。
「…何の用です?」
「そんな歓迎しないで、ただの様子見なんだから。でも、意外に面白いものが見れたわね。」
すっと冥の目を撫ぜた桃の指が、雫に濡れる。今更気付かされた冥はぎりっと歯噛みした。低い声で言う。
「触れるな、重罪人《セレビィ》。首を刎ねられたくないのなら。」
「御付き《ヤミラミ》も腕もないあんたに言われたって、ぞくりともしないわね。」
それに、いいの?睨する冥をものともせず桃は笑う。
「あんたは『冥』。『ルワーレ』の真似事なんかしちゃ、夢が覚めちゃうかもよ?」
「…!」
夢が覚める。その言葉だけでびしりと全身が強張った。桃にはもう、冥が何に怯えているか全て見抜かれている。
冥の反応に満足した桃はころころ笑った。
「うふふ!そうそう良い子ね。来てあげた甲斐があるわ。」
「だから、何の用だと…!」
「お誘いよ、お誘い。」
ねぇ冥。桃は喫茶店でも誘うように軽く言った。
突然の来訪者・桃はまったく構わず悪戯に笑んでいる。以前の襲撃を思い出して、冥は身構えた。
「…何の用です?」
「そんな歓迎しないで、ただの様子見なんだから。でも、意外に面白いものが見れたわね。」
すっと冥の目を撫ぜた桃の指が、雫に濡れる。今更気付かされた冥はぎりっと歯噛みした。低い声で言う。
「触れるな、重罪人《セレビィ》。首を刎ねられたくないのなら。」
「御付き《ヤミラミ》も腕もないあんたに言われたって、ぞくりともしないわね。」
それに、いいの?睨する冥をものともせず桃は笑う。
「あんたは『冥』。『ルワーレ』の真似事なんかしちゃ、夢が覚めちゃうかもよ?」
「…!」
夢が覚める。その言葉だけでびしりと全身が強張った。桃にはもう、冥が何に怯えているか全て見抜かれている。
冥の反応に満足した桃はころころ笑った。
「うふふ!そうそう良い子ね。来てあげた甲斐があるわ。」
「だから、何の用だと…!」
「お誘いよ、お誘い。」
ねぇ冥。桃は喫茶店でも誘うように軽く言った。
「夢を、護りたいと思わない?」
にっこり、桃は笑っている。冥はよく意味がわからずぽかんとしていた。
「夢を、護る?」
「そう。つまり夢を壊そうとする奴を排除する。簡単でしょ?」
もっとわかりやすく見せましょうか。
言い終えた唇が緩やかに釣り上がる。華奢な白い手を無造作に振った。すると桃の足元が黒く染まり、ごぼごぼと泡立った。
吹きあがる、黒。
一瞬で黒い人影が立ち並んだ。その『影』達を従えて、青白い少女が艶然と笑った。
「こーいう、こと。」
影達からにじむ昏い気配は、アノニマスがいなくともわかった。一度だけ会った『神』とよく似た気配だ。
冥は驚愕に目を見開き、同時にいくつかの疑問が解けていた。それは以前の襲撃のこと。あの時アノニマスが感知したのはダークライだったのに、現われたのは桃だった。
羽根もないのに広範囲に出没できたことも。片足がパイプなのに音もなく現われたことも。
一つの解で繋がっていた。
彼女は、ダークライに付き従う者。
「やっと気付いたの?なんだかんだで頭悪いのね。まぁいいけど。」
桃が両手を出した。すると影の輪郭が急に溶解した。吸い寄せられるように桃の手へと集い、ボール大の球体と成る。
「それじゃ、考えておいて。わたしはコレを渡しにいかなくっちゃ。」
「待ちなさい、考えるって何を…。」
「だから言ったでしょ?夢を護りたくないかって。」
「夢を、護る?」
「そう。つまり夢を壊そうとする奴を排除する。簡単でしょ?」
もっとわかりやすく見せましょうか。
言い終えた唇が緩やかに釣り上がる。華奢な白い手を無造作に振った。すると桃の足元が黒く染まり、ごぼごぼと泡立った。
吹きあがる、黒。
一瞬で黒い人影が立ち並んだ。その『影』達を従えて、青白い少女が艶然と笑った。
「こーいう、こと。」
影達からにじむ昏い気配は、アノニマスがいなくともわかった。一度だけ会った『神』とよく似た気配だ。
冥は驚愕に目を見開き、同時にいくつかの疑問が解けていた。それは以前の襲撃のこと。あの時アノニマスが感知したのはダークライだったのに、現われたのは桃だった。
羽根もないのに広範囲に出没できたことも。片足がパイプなのに音もなく現われたことも。
一つの解で繋がっていた。
彼女は、ダークライに付き従う者。
「やっと気付いたの?なんだかんだで頭悪いのね。まぁいいけど。」
桃が両手を出した。すると影の輪郭が急に溶解した。吸い寄せられるように桃の手へと集い、ボール大の球体と成る。
「それじゃ、考えておいて。わたしはコレを渡しにいかなくっちゃ。」
「待ちなさい、考えるって何を…。」
「だから言ったでしょ?夢を護りたくないかって。」
夢を見続けていたいでしょう?
その言葉は病的に甘く、染み込んだ。
「夢を永遠にするために。ね。」
その言葉は病的に甘く、染み込んだ。
「夢を永遠にするために。ね。」