飴玉の唄
僕のお姫様は とても 泣き虫な人だった。
僕は彼女を「静葉」と呼んだ。本当は別の名前で呼ぼうとした。けれど口から出てきたのはそれだった。なんて呼ぼうとしたのか、思い出そうとするたびその名前は頭の中で溶けてしまう。だからという訳ではないけれど、彼女は「静葉」だった。
僕が名乗る名前も、同様に。少し違和感はあるが「焔」だと名乗った。
もっとも、彼女が違和感を感じてくれたかは知らない。
僕が名乗る名前も、同様に。少し違和感はあるが「焔」だと名乗った。
もっとも、彼女が違和感を感じてくれたかは知らない。
彼女はとても泣き虫だったからだ。
今のように普通に話して共に歩くには、実はとても時間がかかった。
見つけたばかりの彼女の痛ましさといったら。虚ろな目で虚空を見つめているかと思うと、辛そうに両手で耳を塞ぐ。そしてはっと我に返ると、決まってぼろぼろと泣くのだった。
どうしたの?どこか痛いの?苦しいの?
言葉はひとつも彼女に届いていなかった。彼女はいつもその小さな頭に、破裂寸前まで詰まった何かに怯えていたんだ。
抱きしめる、なんてできるほど僕は勇敢じゃなく。
きつく耳を塞いでいるその手に、そっと自分の手を重ねていた。
今のように普通に話して共に歩くには、実はとても時間がかかった。
見つけたばかりの彼女の痛ましさといったら。虚ろな目で虚空を見つめているかと思うと、辛そうに両手で耳を塞ぐ。そしてはっと我に返ると、決まってぼろぼろと泣くのだった。
どうしたの?どこか痛いの?苦しいの?
言葉はひとつも彼女に届いていなかった。彼女はいつもその小さな頭に、破裂寸前まで詰まった何かに怯えていたんだ。
抱きしめる、なんてできるほど僕は勇敢じゃなく。
きつく耳を塞いでいるその手に、そっと自分の手を重ねていた。
だってこの手は静葉のためだけにあるのだから。
突き刺し切り裂き焼き尽くす。早く、一瞬でも早く彼女の視界から全て消すために。
僕は静葉の矛であり盾。力のない静葉が生き伸びるためのモノ。
弱くて泣き虫な彼女を見る度にその想いは強まった。
僕が、守る。僕が君の代わりに刺し、君の代わりに傷を負う。君のためならなんでもできる。
わかりやすくそこに在る"需要"に、心のどこかで安心しながら。
突き刺し切り裂き焼き尽くす。早く、一瞬でも早く彼女の視界から全て消すために。
僕は静葉の矛であり盾。力のない静葉が生き伸びるためのモノ。
弱くて泣き虫な彼女を見る度にその想いは強まった。
僕が、守る。僕が君の代わりに刺し、君の代わりに傷を負う。君のためならなんでもできる。
わかりやすくそこに在る"需要"に、心のどこかで安心しながら。
ある時、初めて彼女が僕に話しかけた。
「ほむらは…。」
か細い声だったけど、今でも忘れない。
「どうして、わたしといるの?」
「静葉が好きだからだよ。」
即答した。ありのままに。
そうしたら彼女は泣きだしてしまった。けれどいつもと様子が違う。
僕を見て、泣いてた。夢ではなく、僕を。
溢れ返る言葉は嗚咽で濡れながらも耳に届く。
"ごめんなさい。"
「ほむらは…。」
か細い声だったけど、今でも忘れない。
「どうして、わたしといるの?」
「静葉が好きだからだよ。」
即答した。ありのままに。
そうしたら彼女は泣きだしてしまった。けれどいつもと様子が違う。
僕を見て、泣いてた。夢ではなく、僕を。
溢れ返る言葉は嗚咽で濡れながらも耳に届く。
"ごめんなさい。"
"あなたじゃ ないひとに あいたくて ごめんなさい。"
…そう、泣いて謝るのだった。なんども、なんども。
その時僕の胸に渦巻いたのはなんだったろう。絶望もあった。悔しさもあった。でも。
それ以上に、静葉がかわいそうだった。
静葉はわるいこと、してないのに。ただ、誰かに会いたいだけなのに。それだけなのに、僕にまで負い目を感じて。
泣いて壊れて狂うほどに会いたい気持ち。
僕も痛い程、知ってた。知ってたから、胸が、苦しくなった。
その時僕の胸に渦巻いたのはなんだったろう。絶望もあった。悔しさもあった。でも。
それ以上に、静葉がかわいそうだった。
静葉はわるいこと、してないのに。ただ、誰かに会いたいだけなのに。それだけなのに、僕にまで負い目を感じて。
泣いて壊れて狂うほどに会いたい気持ち。
僕も痛い程、知ってた。知ってたから、胸が、苦しくなった。
「…ねぇ、 。」
その時、僕はなんて呼んだか覚えてない。
「こんな話、知ってる?」
その時、僕はなんて呼んだか覚えてない。
「こんな話、知ってる?」
飴玉のような。
一瞬だけ子どもをあやす、飴玉のようなお話を。
それから僕は静葉が泣く度に話して聞かせた。滝の向こうの秘境、空にある湖、美しい水晶の洞窟。
僕と、 の思い出を。
静葉は初めて聞いたように聞き入って。いつしか涙も止まってる。
その間だけは確かに、怖い夢も、あの男も、君は忘れてくれたんだ。
一瞬だけ子どもをあやす、飴玉のようなお話を。
それから僕は静葉が泣く度に話して聞かせた。滝の向こうの秘境、空にある湖、美しい水晶の洞窟。
僕と、 の思い出を。
静葉は初めて聞いたように聞き入って。いつしか涙も止まってる。
その間だけは確かに、怖い夢も、あの男も、君は忘れてくれたんだ。
ごめんなさいは、僕の方。
僕は君のいちばん大事なものを、ぶち壊してしまうだろう。
矛と盾。矛盾。気付いてる。見えない振り。なんでもできるなんて嘘。それはいちごのないショートケーキ。
そんな不格好な願いでも、神様は叶えてくれたから。
ごまかしながら、繕いながら、見ない振りしながら、気付かない振りしながら。
その時が来るまで、二人で。
僕は君のいちばん大事なものを、ぶち壊してしまうだろう。
矛と盾。矛盾。気付いてる。見えない振り。なんでもできるなんて嘘。それはいちごのないショートケーキ。
そんな不格好な願いでも、神様は叶えてくれたから。
ごまかしながら、繕いながら、見ない振りしながら、気付かない振りしながら。
その時が来るまで、二人で。
「すてきな、おはなしだね。」
飴玉舐めた、君が笑う。
飴玉舐めた、君が笑う。