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メタリカ・ブライド

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金属質の花嫁




霧闇で、怪獣が吠えた。






「………静葉さん」
幻の少しひそめた声に、静葉は小さく頷いた。
つけられている。4人の足音が路地に響く、その後ろからぺたぺたと湿っぽい音。
濡れた足でそのまま歩き回っているような。
「アノくん」
「はあい。…『陸、気をつけて』」
陸は"紅"の声で話すアノニマスに目配せする。そして、4人が一斉に振り向いた。
背後の闇から、粘つく足音。やがて薄明かりの世界に、その主が姿を顕した。
「…莉さん?」
鱗の四肢。捻れた角の生えた白髪。
この世界で会ったのは初めてだったが、その顔立ちに幻は彼を見出だす。
莉は油の足りない機械部品のような音を立てながら頷いた。
「幻さん、知り合い?」
「…、冬の、パートナー。」
静葉はそれ以上尋ねなかった。ただ、静葉の隣でアノニマスは訝しがる。
「なんかキモチワルイ…」
「莉さん、どうかしたんですか」
近づいた幻に、超速の鞭が襲いかかった。
強靭な尾に弾かれた幻は、陸に受け止められなければ命に関わった怪我を負うところだった。
莉は"アイアンテール"の行方を見届け、さっと左腕を払う。
石柱が地面から生え、陸と幻めがけて槍のように鋭利な切っ先を見せる。
陸はとっさに"マグニチュード"を放った。地面が振動し、"ストーンエッジ"は根本から砕け散る。
陸の金の目が莉を睨んだが、莉は鈍金に光る目で幻だけを見ていた。
「…君は…私の、命を殺、した。」
「…莉、さん」
爬虫類の瞳。草食恐竜、されど肉食怪獣。
莉はそれ以上の言葉を発さなかった。
ただ無言で両手を振り挙げる。莉の周りを取り囲むように中空に岩がいくつも浮かび、幻にまっすぐ襲いかかった。
けれども岩は静葉の張った"まもる"に弾かれ、がらがら音を立てて地面に落ちる。
静葉はコートを払って、背後に庇った幻に言った。
「…話し合いをしてる場合じゃなさそうね。彼の種族は?」
「"トリデプス"。でも莉さんを…」
「…いうとる、ヒマはない。やらな、やられるだけや」
"ラグラージ"の静葉。"グラードン"の陸。二人が前に立つ。
"トリデプス"の相手をするには十分すぎる布陣。しかし莉は怯む様子もない。
それどころか、悠々と"ちょうはつ"してみせた。
静葉は"ハイドロポンプ"を両手いっぱいに構え、陸は準備はできているとでも言うかの如く喉を鳴らした。
「ごめんなさい、ここで倒れるわけにはいかないの!」
言うなり、白く苛烈な水の奔流が莉に突進する。
莉は両腕を交差させ"てっぺき"で防御力を上げるものの、水の勢いに敵わない。
空に投げ出された莉を、吹き出すマグマが襲った。陸の"だいちのちから"だ。
2つの大技をまともにうけた莉は大きく弾き飛ばされた。
立つのが精一杯な様子で、地面に足の爪を食い込ませる。
「この隙に…っ!?」
駆け出そうとした静葉の足が止まる。一歩も退けない。見えない何かに阻まれているかのように。
「…"とおせんぼう"や、いつのまに、」
莉がにいやり、笑った。大きく広げた両手の先に、鈍い光が凝縮する。
それは一筋の光線となって、静葉と陸に。"メタルバースト"が炸裂した。
自分の放った技の威力を水増しして返されるカウンター技。
冬と莉の、最も得意とする戦法だった。
「静葉さん! 陸!」
「あっちャあ…今の痛ソ…」
莉は、最初から幻しか見ていない。幻は唇を噛んだ。調子に乗るんじゃない。
「…アノニマス!」
「モぉ、人使い荒ぁイ!」
アノニマスは文句をたれながら瓦解して、幻の腕に飛んだ。ぎゅる、と赤い回転鋸に形を変える。
『斬れッこないよォ、あんなカターいの』
「…右肩、動きがおかしい。突破口になるかも」
『ほんっト、あマくないね…』
幻は鋸を引きずるようにして地面を走る。莉も地面を蹴って、尾の鞭をしならせた。
交錯する瞬間、幻は回転鋸の持ち手側で、強かに莉の右肩を打つ。
代わりに莉の"アイアンテール"が鳩尾を捕らえたが、アノニマスが落下の衝撃をカバーした。
「ぅ…げほっ…」
莉は右肩を押さえて地面に降りた。
尚も幻に襲い掛かろうとしたが、押さえたところからじわ、と赤が滲み出す。
右腕を伝う赤が地面に吸い込まれた瞬間、莉の姿が真っ黒に溶けていった。
痛みからなんとか起き上がった静葉の目にも、その変化がはっきり見えた。
「………!」
黒い影が取り払われた向こうには、右肩を真っ赤に染めた冬が立っていた。
美しかった琥珀の瞳はすっかり色褪せ、虚ろに世界を見渡して、止まった。
微かに、瞳に色が燈る。
幻の青い空色の瞳と、一直線。
言葉ひとつ、音ひとつない。
幻は、手を伸ばした。

「……冬!」

叫び声と同時に漆黒の闇が噴き上がる。冬の身体に絡み付いて、飲み込むように引きずり落とす。
冬も、手を伸ばした。
けれど届ききる前に冬の腕は闇に呑まれ、どぷりと消える。
「…ふゆ、」
「……幻さん」
幻はずる、と崩れ落ちた。冬の消えた場所を見つめたまま。
莉の鱗をどこかで見た気がした。思い出すまでもない、"青"の両腕に這った漆黒の鎧。
青は喰った相手を取り込んでいた。つまり、青は莉を喰ったことになって、
それなら莉は死んでいるはずで、冬だってもうここにはいないはずで、

つまり、
どく、と心臓が打った。幻はぐっと、心臓に手を当てた。居るじゃないか、ここに。生き証人が。
「『記憶の積み重ねが人と成るなら、記憶は人に等しい』。」
「幻さん?」
「…きっとみんな、辛い思いをすることになる。犠牲にした、分だけ。
 その前にカミサマを止めなくちゃ」
幻はそれだけ言って、先に歩き始めた。後をアノニマスが追う。
アノニマスに続いて陸が。そして静葉は、じっと言葉の意味を考えていた。
(…犠牲にした分だけ、)
ばさっ、と、羽ばたく音が耳に反響した。




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