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かぞくにっき

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「わたしだ」「おまえだったのか」



「…ごめん、驚かせた……よね」
「う、ううん、気にしないで」

静葉は首を振った。彼女の後ろにいた“幻”と呼ばれた男も、静葉の隣に立つ。陸から触手を離したアノニマスは、またも紅の背中にぴたりとくっついて。その行動に眉をひそめる紅を見て、静葉は口を開く。

「…アノくんのこと、知ってるの?」
「………まあ「カルロと僕はナカヨシだよォ、ネーv」
「…そんなことはない」

紅はあからさま不機嫌そうな顔をしたが、どうにか溢れそうな不快感は腹の中に仕舞った。今度は紅から、彼女に質問を投げ掛ける。

「…静葉さんは、どうしてここ…に?」
「えっと……アノ君を追いかけてたらいつの間にか…ここに。
あんまり気づかなかったけど、もしかしてここ…その、家の近く?」
「……そう。あと少し歩けば、…おうち。でも、探しものをしてるんだったら…多分、この先には、何もないと思う」

何かは知らないけど、紅はぽつりと付け足した。そして、視線の先に立つ二人を改めてざっと眺めてみる。
ここに来る前に何かあったのだろうか、幻の方はずっと押し黙っている。それが彼の性格上ということなら別だが、どこか寂しそうな表情に見えないことも、ない。

「………何か、あったの?」
「おにーさんのだぁい好きな人がいなくなっちゃったの、ちょっと甘そうダッタのにぃ」
「…ッアノニマス!」

流されるような小さな声に、背中のアノニマスは応える。
幻がアノニマスを止める声が、何故か嫌な予感を感じさせた。
聞いちゃ駄目だ、絶対に後悔する、でも。
紅の震える唇が紡いだ禁忌。


「…名前、は?」
「ふゆーv」



――『だいじょうぶ。お前はひとりぼっちじゃない。
みんなこんなに、お前を見ててくれてるじゃないか』


ぺたり。全身から急に力が抜けた。ああこの手に触れるものは、かわいた土。だめだどうしよう、力が入らない。
一度会っただけだ、長い会話も一切していない。あの人は突然現れてそしてすぐ居なくなって、でも、彼は。紅は震える声で、呟く。

「ふゆさん、が…?」
「…知ってるのかい?」
「知ってる、だって、あの、あの人は、」

あの人は。近づいてきた幻の服にすがり付いた。思わず手に力がこもり、その腕までもが小刻みに震える。紅は、初めて、他人に向けて声を荒げた。


「だって!だって、あの人が、あの人だけが、鉄を、鉄を助けられる人だったのに!!なんで、だれが、どうしてッ!!!」


彼と居たときの鉄の笑顔が、記憶を掠める。少しでも、出会ったあの頃を思い出させてくれた笑顔。
もう、鉄の綺麗な笑顔は、見ることは出来ない。







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