アットウィキロゴ
澪街悪夢Wiki
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

澪街悪夢Wiki

波紋

最終更新:

mato4869

- view
だれでも歓迎! 編集

波紋


物干し竿の前で、冥はじっと立っていた。
鉄や風には洗濯物を干してくると言ったが、竿にはとうに全部干し終わっている。それでも立っているのは、待っているから。
じりじりと焦れる気持ちを抱えて。
やがて遠くで控え目に聴こえた足音にはっとして、冥は一目散に駆けていった。
「紅!!」
やっと帰ってきた、紅。呼ばれた紅は身体ごとびくんと飛びあがった。
けれどそんなの構っていられない。荒い息を吐き出しながら冥は険しい顔で紅を見下ろしていた。
今は現実で言えば、とうに朝を迎えている。紅が夜な夜などこかへ出かけているのは知っていたけれど、今日はあまりに帰りが遅すぎた。
鉄達には適当に言ってごまかしてある。けれども正直気が気じゃなかった。
もう、帰ってこないのではないかと。
「く、冥…。」
紅は冥の気配を敏感に感じ取った。後ろめたくうろうろ視線を彷徨わせる。ぎゅっと目を瞑って怒られるのを覚悟した。
「ごめんなさい…!」
そんな紅を、冥は黙って見ているしかできなかった。言葉が出てこなくて。紅はぽつぽつと、言葉を重ねて手渡す。
「あのね、冥、ずっと、会いに行ってた…ひとがいるの。」
「でも、ちょっと、いろいろあって、そのひとは旅にでて。」
「さよなら、したんだ。おかえりなさい、するかもだけど。」
「だから…しばらく、もうでかけないよ。」
手渡された言葉は、静かに冥を驚愕させた。
その中身ではなくて、その量に。いつから紅はこんなに話してくれるようになっただろう。
いつからこんなに伝えたいことを持つようになっただろう。いつからこんなに知らないことを教えてくれるようになっただろう。
いつから、こんなに、知らない"紅"が、増えてた?
「だからね、冥…」
それを遮る形で。
冥は、紅に頭の高さを合わせた。その肩に額を乗せる。抱きしめたい、けど叶わない。
紅がほんの少し動けば、額などすぐ振りほどいてしまえるだろう。
それだけが悲しかった。それだけが悲しかった。
「…くろ?」
幸い、紅は動かないでいてくれたけれど。
震える唇で、ひとつだけ言葉を渡した。
「…おかえりなさい。」
この言葉は、いつまで手渡せるのだろう。


二人の頭に、ぽこっ、と殴られた衝撃。
驚いて手の主を見ると、なんとそれは風だった。
「え…風?」
「(…お前ら、特に冥。あんな適当なごまかしが通じるとでも思ったか。)」
頭に乗せられたげんこつは離れず、むしろぐりぐりと押し付けられている。痛い。ジト目で二人を見遣る風は、明らかにご立腹だった。
さらに風は紅をぺちぺち、軽く叩き始めた。
「あいた、いたた、風、いたいいたいよいたた…。」
「(黙れこのボケ。弱いくせにうろつきやがって心配しない訳ないだろう少しは頭を使って省みろこの馬鹿この馬鹿。)」
「って言ってるようです風待って。ストップ。もう勘弁してあげて…。」
通訳担当、冥。通訳しながら風を止めるのは骨が折れた。
紅が涙目になったあたりでようやく風の制裁が終わる。今度は冥に向き直り、その胸を軽く拳で叩いた。
「(最近、変な奴の気配が近い。姿も確認した。出歩くなよ?)」
「…それなら尚更追い払わないと。」
能力を使える冥の役目だ。少なくとも冥はそう思ってる。冥は紅に聞こえない小声で風に答えた。
それは風も知るところではあったし、実力も認めているが…風は、ひどく言いづらそうに視線を迷わせた。
「(冥は、出歩くな。)」
ぶっきらぼうに繰り返した後、絞り出すように付け加える。

「(冥は、あいつに会うな。)」



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
人気記事ランキング
ウィキ募集バナー