揺れる視界とマチガイ探し
「……おい。」
揺すぶられて目を覚ますと、目の前に赤い仮面をつけた陸の顔があった。
眠い目を擦りながら、静葉はゆっくり体を起こす。
「交代?」
いつ、ダークライの手の者に襲われても不思議でない状況。見張りは必要だろうと、毎晩交代で不寝番をすることになっている。幻は、静葉は女性だから無理しなくてもいい、と言ったが、この世界で眠っているほうが、静葉には気持ち悪い。
陸は首を横に振った。
「ちゃう…帰って、こんのや。幻…言うたか? …が。」
「え?」
「ちょっと出てくる、いうて…もう1時間は、前になる。」
「…何かあったんだわ、」
静葉は慌ててコートを羽織る。いくら危機察知に特化しているとはいえ、幻は生身の人間だ。襲われたら危ない。陸はここにいて、と言いかけて、足音に気付く。
陸の背後の、建物の陰になったところに、見慣れた人影があった。
「幻さん!」
幻は顔を上げた。静葉ににこやかに笑みを送る。
「どうしたの、慌てて。」
「幻さんがなかなか帰ってこないから…心配で…。」
語尾が消えていったのは、陸のうなり声にかき消されたからだ。
陸は低くうなりながら、金の目でぎろりと幻を睨んでいた。
「陸くん…?」
一方の幻は呵々と笑うと、不敵に陸を見返した。
「…さすがに、獣の嗅覚まで誤魔化せるはずがないか、まあ当然といえば当然だ…」
夜が、ゆるりと明け始めた。
まるで芝居の幕が変わるかのような、あまりにも杜撰に隔てられたこの世界の昼夜。昼間の仄明るい世界が訪れ、陰に紛れていた幻の姿を炙り出す。
「気ぃつけ…あいつ」
眠い目を擦りながら、静葉はゆっくり体を起こす。
「交代?」
いつ、ダークライの手の者に襲われても不思議でない状況。見張りは必要だろうと、毎晩交代で不寝番をすることになっている。幻は、静葉は女性だから無理しなくてもいい、と言ったが、この世界で眠っているほうが、静葉には気持ち悪い。
陸は首を横に振った。
「ちゃう…帰って、こんのや。幻…言うたか? …が。」
「え?」
「ちょっと出てくる、いうて…もう1時間は、前になる。」
「…何かあったんだわ、」
静葉は慌ててコートを羽織る。いくら危機察知に特化しているとはいえ、幻は生身の人間だ。襲われたら危ない。陸はここにいて、と言いかけて、足音に気付く。
陸の背後の、建物の陰になったところに、見慣れた人影があった。
「幻さん!」
幻は顔を上げた。静葉ににこやかに笑みを送る。
「どうしたの、慌てて。」
「幻さんがなかなか帰ってこないから…心配で…。」
語尾が消えていったのは、陸のうなり声にかき消されたからだ。
陸は低くうなりながら、金の目でぎろりと幻を睨んでいた。
「陸くん…?」
一方の幻は呵々と笑うと、不敵に陸を見返した。
「…さすがに、獣の嗅覚まで誤魔化せるはずがないか、まあ当然といえば当然だ…」
夜が、ゆるりと明け始めた。
まるで芝居の幕が変わるかのような、あまりにも杜撰に隔てられたこの世界の昼夜。昼間の仄明るい世界が訪れ、陰に紛れていた幻の姿を炙り出す。
「気ぃつけ…あいつ」
幻は、にや、と唇を歪めた。
その右の頬に転がる、赤い涙。
冬と重なるその姿に、静葉は思わず絶句した。
その右の頬に転がる、赤い涙。
冬と重なるその姿に、静葉は思わず絶句した。
「あいつ…ヤバい、匂いがする…!」
言うが早いか、陸は地面を蹴った。重い爪を振りかぶって、幻の居た場所へ全力でたたきつける。地面を抉った"きりさく"など意にも介さず、幻は易々と陸の肩を蹴って跳躍する。
驚きに目を見開いたまま、それでもきっちりと"みずのはどう"を構えていた静葉の腕をとって、技を強制的に終わらせる。その手つきには、悪意はない。
「喧嘩しにきたわけじゃない。直ぐに喧嘩ごしになるのは、このチームの悪癖だ。」
「…放して」
「落ち着きなよ。少し話をしにきただけなんだから。」
静葉はきっ、と幻の青い瞳を睨みつけて、強引に腕を振りほどく。
「どうして…!」
言うが早いか、陸は地面を蹴った。重い爪を振りかぶって、幻の居た場所へ全力でたたきつける。地面を抉った"きりさく"など意にも介さず、幻は易々と陸の肩を蹴って跳躍する。
驚きに目を見開いたまま、それでもきっちりと"みずのはどう"を構えていた静葉の腕をとって、技を強制的に終わらせる。その手つきには、悪意はない。
「喧嘩しにきたわけじゃない。直ぐに喧嘩ごしになるのは、このチームの悪癖だ。」
「…放して」
「落ち着きなよ。少し話をしにきただけなんだから。」
静葉はきっ、と幻の青い瞳を睨みつけて、強引に腕を振りほどく。
「どうして…!」
いこう、と手を差し伸べた幻の姿は、今でも鮮明に覚えている。
パートナーを自ら手にかけ、目の前で冬を見送り、それでもなお力強く立ち上がった幻は、静葉の目にはとてもまぶしく映っていた。それが、何故。静葉のことなど知ったことではない様子で、幻は影のある、静かな淵のような笑顔を湛えていた。
「どうして。そうだね…私もまだそれを整理しきれてないんだ、悪いね、答えてあげられなくて。」
「誤魔化さないで!! あなたが、こんなことできるわけないでしょう!?」
パートナーを自ら手にかけ、目の前で冬を見送り、それでもなお力強く立ち上がった幻は、静葉の目にはとてもまぶしく映っていた。それが、何故。静葉のことなど知ったことではない様子で、幻は影のある、静かな淵のような笑顔を湛えていた。
「どうして。そうだね…私もまだそれを整理しきれてないんだ、悪いね、答えてあげられなくて。」
「誤魔化さないで!! あなたが、こんなことできるわけないでしょう!?」
「できるよ。冬の、ためならね。」
そう言った幻の黒衣に、ずるずると影が絡み付く。それは、冬の纏っていたものと同じ。
「冬のためなら、僕は、」
その声はひどく悲しげで冷たく、静葉の全身を凍らせる。
影が凝固して、何者か、得体のしれないものの形を作った。それは両刃の大鎌となって、幻の指に握られる。一閃、地面にそれが突き立つ。
「私が気付かないとでも? "アノニマス"。」
地面からずるりと、紫の粘液が現れた。高音で笑いながら、"焔"の姿をとる。
「いイね! とっテも面白くなってきたカモ?」
幻が引き抜くと、鎌は元通り融解して消えた。衣装を翻して、幻は静葉の隣をすり抜けていく。
「今日は挨拶に来ただけ。でもね、」
追おうとする陸を、静葉が動作で止めた。幻はにこ、と静葉に笑いかけて、闇にとぷりと、融けるように姿を消す。
影が凝固して、何者か、得体のしれないものの形を作った。それは両刃の大鎌となって、幻の指に握られる。一閃、地面にそれが突き立つ。
「私が気付かないとでも? "アノニマス"。」
地面からずるりと、紫の粘液が現れた。高音で笑いながら、"焔"の姿をとる。
「いイね! とっテも面白くなってきたカモ?」
幻が引き抜くと、鎌は元通り融解して消えた。衣装を翻して、幻は静葉の隣をすり抜けていく。
「今日は挨拶に来ただけ。でもね、」
追おうとする陸を、静葉が動作で止めた。幻はにこ、と静葉に笑いかけて、闇にとぷりと、融けるように姿を消す。
「次は、殺すよ。」