おおざらにわいん
<クレセリア>は三人と一人が立ち去ったその場所を見下ろし、ようやく安心したように息をついた。
<ダークライ>への対抗勢力は一人でも失う訳にはいかない。そう思ってこの現場を見張っていたのだが、予想以上に展開は好転しているようだ。世界は確実に壊れ始めている。緩やかに、静かに、しかし確実に。
ダークライ側の布陣がまだはっきりと分かっていない以上確信はできないが、戦争に負ける気はあまりしていない。ダークライが空の神<レックウザ>を味方につけたように、こちらにも地の神<グラードン>という味方がついた。戦力的には申し分ない状態だ。
<ダークライ>への対抗勢力は一人でも失う訳にはいかない。そう思ってこの現場を見張っていたのだが、予想以上に展開は好転しているようだ。世界は確実に壊れ始めている。緩やかに、静かに、しかし確実に。
ダークライ側の布陣がまだはっきりと分かっていない以上確信はできないが、戦争に負ける気はあまりしていない。ダークライが空の神<レックウザ>を味方につけたように、こちらにも地の神<グラードン>という味方がついた。戦力的には申し分ない状態だ。
今まで折っていた膝を伸ばしていると、クレセリアの脳裏をふと何か違和感が横切る。ん、と回りを見回しながら、しばし彼女は思考した。風景に違和感がある訳ではない、時折上がる笑いも絶叫もそれ以外の時が怖いほどに静かなのも、全て今更ではない。だとしたら、何。
やがてクレセリアはふと気がつく。気がつき、やがて、ぞっと悪寒を感じた。なによこれ、消えそうな声を吐き出す。
“それ”が怖いのでは無い、ただそれは群を抜いた異様であるだけだ。どうして今の今まで気づかなかったのだろう。
“それ”が怖いのでは無い、ただそれは群を抜いた異様であるだけだ。どうして今の今まで気づかなかったのだろう。
夢見る人の願いと苦痛によって成り立つこの世界。
何でこんなにも願いと苦痛だけが、残って
何でこんなにも願いと苦痛だけが、残って
「クレセリア、ですね」
背後から聞こえた声が思考を遮った。聞き慣れた声が冷たさを含んで続きを紡ぐ。
「『宴の用意は整った、君を末席に招待しよう』…と、御神が貴女をお呼びです。ついて来なさい、クレセリア」
命令には答えず、無言でクレセリアは振り返った。案の定そこにいたのは薄い笑みを浮かべたダークライ側の<レックウザ>、翠。心中の不安を察せられないよう、クレセリアは口の端に笑みを浮かべて言った。
「嫌…って言ってもいい?」
「貴女に拒否権はありません。…私も、主の客に手荒な真似をするつもりはないので、どうか大人しくついて来て下さい」
「貴女に拒否権はありません。…私も、主の客に手荒な真似をするつもりはないので、どうか大人しくついて来て下さい」
意図せずに、ため息が出た。傲慢なのは創造神一人で充分だと言うのに、彼にこんなに不愉快な気分にさせられるとは思わなかった。彼女はその不快感を一切抑えることなく、今度はにっこりと微笑む。
「お断りよ、この生臭神父」
“サイコカッター”と“エアスラッシュ”が交錯した。押し負けたサイコカッターが消え去る寸前に、クレセリアは地面に降り立つ。痛みを叫ぶ足には悪いが、しばらくがんばってもらうしかない。だが、後ろから追いかけてくるはずの足音は耳に届かない。不信に思いながらも“かげぶんしん”を発動させようとした直後、背後からようやく砂を蹴る音が一瞬だけ聞こえた。そこでようやく彼が“しんそく”を使ったのだと気づき、同時にその長い指がクレセリアの着物に微かに触れかける。だがその間に割り込むように貼られた“リフレクター”は、翠の指をしっかり弾いた。
翠はリフレクターの向こうで、クレセリアが路地裏に入っていったのを確認した。薄い透明なの横を壁を歩きながら、翠はしかしにやりと笑う。
後ろから聞こえた誰かの声と、共に。
翠はリフレクターの向こうで、クレセリアが路地裏に入っていったのを確認した。薄い透明なの横を壁を歩きながら、翠はしかしにやりと笑う。
後ろから聞こえた誰かの声と、共に。
◆
クレセリアはとある廃屋の中に逃げ込み、息をついた。僅かに肩を上下させながら、ちらりと外を確認する。翠はいない。
…少しだけ、休もう。そう思いながら壁にもたれ掛かり、深く息を吐いた。
迂闊だった。気を抜きすぎた。誰かが近くにいることくらいもう少し早く気づけたはずだ。自分の迂闊さにだんだん苛立ちを感じてきたが、どうにか気持ちを押さえつける。
にしても、これからどうしようか。やがてクレセリアはそんな方向に思考回路を動かし始めた。
クレセリアはとある廃屋の中に逃げ込み、息をついた。僅かに肩を上下させながら、ちらりと外を確認する。翠はいない。
…少しだけ、休もう。そう思いながら壁にもたれ掛かり、深く息を吐いた。
迂闊だった。気を抜きすぎた。誰かが近くにいることくらいもう少し早く気づけたはずだ。自分の迂闊さにだんだん苛立ちを感じてきたが、どうにか気持ちを押さえつける。
にしても、これからどうしようか。やがてクレセリアはそんな方向に思考回路を動かし始めた。
しかし世界は、それすら許さない。突然破壊音が耳元で聞こえたかと思えば、がらがらがら、続いて瓦礫の崩れる音。それはあまりにも急なことで、足が鈍痛を訴えるのをやめ、ただ硬直だけをするほど。そしてそのぽっかりと空いた空間から、声が聞こえた。
「あ、みーつけた。
…ねぇ。世界を壊そうとしてるのって、君?」
…ねぇ。世界を壊そうとしてるのって、君?」
こちらを少しだけ見下ろす瞳。にやりと笑んだ口許で、牙が鈍く光る。
「せっかく僕が頑張ってたのに、ひどいことするんだね」
「…あなたは…“青”?」
「そうだよ、よく知ってるね」
「…あなたは…“青”?」
「そうだよ、よく知ってるね」
そこにいたのは<ルカリオ>。平和な世界を願い、強さを手に入れ、パートナーに殺されて、世界から追放されたはず、の。
しかし彼は笑っていた。乾いた土を踏みしめ、クレセリアの顔に影を生み、感情を、少なくとも笑みを浮かべる程のものを、抱いて。
しかし彼は笑っていた。乾いた土を踏みしめ、クレセリアの顔に影を生み、感情を、少なくとも笑みを浮かべる程のものを、抱いて。
「もう見つけてくれましたか、流石ですね」
声と同時に、青の笑みがふっと消える。もはや崩れかけている廃屋に、もうひとつ影が増えた。たなびく長髪。
「……そんなに不思議ですか?」
ただただ不快な声が響く。
「もう一度だけ言います。私達について来なさい。何も知らないまま、死にたくなければ」