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りせっとたいむ

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りせっとたいむ


ダークライ、冬、幻、桃、冥、白」
守るべき人々。

「…、静葉、陸、アノニマス、…栞」
倒すべき輩。


そこまで数えて、翠は少しだけ渋い顔をした。もう一度指折り数えてみる。やはり、さっきと同じところで指は止まった。翠はついにため息をつき、座っていた長椅子に深く沈みこんだ。

「…何なんでしょうね」

しんと静まり返った教会は答えを返さない。翠は目を閉じて、何度目かの回想にふける。

記憶の底に、他の記憶に埋もれるように在った記憶。
黒い髪と赤い瞳、大きな耳と丸い眼鏡、怯える声。思い出してみると、割と明確にイメージは掴めた。名前も分かる。
だが、掴めたは良いが、自分にとってのなんなのかが翠には全く把握できなかった。思い出そうとしても、その部分だけはまっさらのまま。色も輪郭線も何もない。

翠はしばらく考えた。
記憶に残っていないということは、気にしなくて良いということなのかもしれない。
ただそれでも、万が一ということもある。主の創った世界を壊されてしまうような要素は、潰しておかなければ。早急に、出来れば、静かに。

金色の瞳は、ゆっくり開かれた。



とりあえず、足を進めてみた。足が進む方角に彼が住んでいた家のある確証はなかったが、思い出せるだけの記憶を絞り出して、道を行く。途中、同じ道を何度か通った。どうやら昔の自分はよほどの方向音痴だったらしい。三回同じ場所にたどり着いた時には、さすがにため息が出た。

それでもようやく、それらしき建物にありつくことが出来た。外にかかった物干し竿には、白いシーツが干されている。赤い空にはこの白はいささか眩しいかもしれない。横目に流しつつ、遂に翠は玄関の前にたどり着いた。
ふと、ドアをノックしようとした右手が震えていることに気付く。それでも緊張した筋肉を持ち上げて、ドアを数回ノックした。

…現れたのは記憶に残るあの姿でなく、長い黒髪の美人。ぱちぱちとまばたきしたあと、彼はえっと、と口を開いた。翠はやんわりとした笑顔で、その言葉を遮る。

「すいません、今此方に…“紅”、さん、…いらっしゃいますか?」
「えっと…紅のお友だち?ちょっと待ってくださいネー」

紅、と黒髪美人は振り返って呼びかけた。呼び掛けた先には、皿を並べる緑のポニーテールと、記憶の中のあの姿。

「………え?」

黒い髪と赤い瞳。
やはり、この姿だ。



二人で話がしたい、という翠の要望は通され、翠と紅はベッドのある小さな部屋に入った。紅はドアに背を向け、ややうつむき加減に立っている。そんな紅の姿を、翠は記憶と照らし合わせた。この姿に、間違いない。けれどやはり、彼が“紅”であること以外は何も思い出せなかった。
やがて口を開いたのは、紅。

「…空瑚、…何しに、来たの?」
「…くうこ?」

聞き覚えのない言葉のおうむ返しに、紅はかなり驚いたようだった。瞳をやや見開いて、もう一度、言葉を発する。

「…“空瑚”…じゃないの?」
「私は…空瑚ではありません…が、」

くうこ、なんてことばは、しらない。
そう言う前に、正面に立つ紅は、ふるふると震えながらへたり込む。翠は慌てて、紅の近くへ寄ってしゃがみこんだ。紅はすがり付くようにして、翠の胸元へ頭を埋める。どうしてこうなったのかわからないまま、翠は震える言葉に耳を傾けた。

「待ってて、って、空瑚、言ったじゃない…」
「……あの、紅さん、誰かと私を間違えてはいませんか」
「…そんなこと、ない」
「ですが、」

そんな言葉は、本当に知らないのだ。神より授かった名前は“翠”。私は翠であって、それ以外の何者でもないというのに。彼は翠の姿を、誰に重ねているのだろう。軽い混乱が翠を襲うが、紅は更に質問を重ねる。


「…じゃあ…名前は、何ていうの?」
「……翠、です」
「すい」

翠、ともう一度、紅は名前を口にした。そうしてじっと、翠の瞳を覗き込む。

「翠は、どうしてここに来たの?」
「…貴方の事を、思い出したくたくて」
「……翠は、僕のことを忘れたの?」
「忘れた…のかもしれません。私は、貴方の事は名前も、住んでいる場所も覚えていた。でも、…思い出せない」

この、目の前にいる黒い青年。
貴方は一体誰なんだ、何で私は貴方に会わないといけないんだ、
なんで、こんなに、気になって、なんで、こんなに、
こんなに。

「……ごめんなさい」
「…だいじょうぶ、だよ。気にしないで。僕も、あなたが待ってくれたみたいに、待ってるから」


紅が緩く翠の身体を抱きしめる。
翠は一瞬だけ、使命を忘れかけた。それほどまでこの空間と、この体温は暖かい。
でもやはり、守らなければならないと思った。戦わなければならないと思った。

素晴らしい世界と共に守らなければ、と。








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