ろーでぃんぐろーど
◆
紅は走って、ようやくいつもの家の前までたどり着いた。ぜえぜえと肩で呼吸をしながら、その小さな家を眺める。辺りはぼんやり暗くなってきた。
鉄に心配させるわけにはいかない、紅はそう思いながら扉を開こうと、手を伸ばした。
鉄に心配させるわけにはいかない、紅はそう思いながら扉を開こうと、手を伸ばした。
『此方のお宅、四人で住んでいらっしゃると聞いたのですが』
伸ばした直後に思い出した翠の声。と同時に、ぴたりと指が止まった。
そうだ、冥は?
紅は玄関の手前で動作をやめ、ぼんやりと思考を巡らせた。
いつも通りのこの家から、冥がいなくなっている。自分はそのことに、ついさっきまで気づかなかった。鉄や風はもしかしたら気づいていたのかもしれない、もしくは自分と同じように気づいていないのかもしれない。どっちだろう。
冥がいない日の始まりを思い出す。あの日は朝からもういなかった。いないことに対する二人の反応はなかったように思える。まるで、前から三人だけで過ごしていたかのように。
いつも通りのこの家から、冥がいなくなっている。自分はそのことに、ついさっきまで気づかなかった。鉄や風はもしかしたら気づいていたのかもしれない、もしくは自分と同じように気づいていないのかもしれない。どっちだろう。
冥がいない日の始まりを思い出す。あの日は朝からもういなかった。いないことに対する二人の反応はなかったように思える。まるで、前から三人だけで過ごしていたかのように。
紅はゆっくり扉を開いた。開いたけど、中には入らない。そこから中を見るだけ。
みんなで食事をする机に向かって座っていたのは、鉄だった。音に反応して、彼の瞳がこちらを向く。綺麗な微笑。彼の手の中には、湯気をたてるマグカップ。机にはもう二人分のカップがあった。
みんなで食事をする机に向かって座っていたのは、鉄だった。音に反応して、彼の瞳がこちらを向く。綺麗な微笑。彼の手の中には、湯気をたてるマグカップ。机にはもう二人分のカップがあった。
「紅、どしたの?外でお話でもしてたの?」
「…うん」
「そか、あ、今風がごみ出してくれてるから、それ終わったら…「鉄、あのね」
「…うん」
「そか、あ、今風がごみ出してくれてるから、それ終わったら…「鉄、あのね」
紅ははっきりした声で言った。家には一歩も足を踏み入れない。この世界は一体何れだけ深く、人々にみせてしまうのだろう。
「僕、探しに行かないといけない」
「…探しに……行く?」
「可哀想だもん、…見つけてあげなきゃ。きっと、待ってる」
「…紅、待って、何の話?」
「…冥の話」
「…探しに……行く?」
「可哀想だもん、…見つけてあげなきゃ。きっと、待ってる」
「…紅、待って、何の話?」
「…冥の話」
鉄ががたんと椅子を鳴らして立ち上がった。小さく、なんで、と洩らした鉄に、紅は重ねるようにして言葉を続ける。
「…鉄のことは風が守ってくれるよ、でも今、冥は、もしかしたら、ひとりぼっちかもしれない。冥はさみしがり屋さんだから、誰かが、助けてあげないと。」
「紅、待っ「大丈夫、すぐ、二人で戻ってくるから」
「紅、待っ「大丈夫、すぐ、二人で戻ってくるから」
暖かさに飲み込まれないうちに、扉を閉める。扉の向こうから聞こえた激しく咳き込む声も、今だけ、聞こえないふり。
そして、紅は、駆け出した。
◆
その頃、ちかちかのがれきの前。翠は崩れたそれらを見つめながら、そこにいた。数歩分後ろに下がって立つ桃は、黙って彼を傍観する。
まるで待ち合わせをしているかのように、翠はただ立っている。けれど翠は誰とも約束をしていなければ、誰かが来るあてもない。いつも来るはずの誰かはもうここには来ない。
まるで待ち合わせをしているかのように、翠はただ立っている。けれど翠は誰とも約束をしていなければ、誰かが来るあてもない。いつも来るはずの誰かはもうここには来ない。
自分が作ったちかちかがれきの中に、首なしマリアが佇む。一陣の風は、マリアの腹部を切り裂いてまた止んだ。倒れる彼女を見つめながら、翠は笑った。
にんまりとした笑顔は、やがて壊れた人形のように笑い始める。あははははははははははは、なんて、滑稽に。
翠は思った。これで良かったのだ、自分には過去も自我も思い出も未来も記憶も何もいらない必要なのは意志と力だけ私は一体何を勘違いしてたのだろう自分は微かな希望を抱いていたのか彼が味方なのではないか友人ではないかとけれどそんなものはいらないいらないいらない私は護るのみ護りただあの方に尽くすのみ他には何もいらない。
「……桃さん、幻さんは?」
「革命軍の所から帰ってきたばかりよ」
「そうですか、彼は革命軍にも“冬”にも必要以上に近づけないで下さい。何の気を起こすか分かりませんから。」
「革命軍の所から帰ってきたばかりよ」
「そうですか、彼は革命軍にも“冬”にも必要以上に近づけないで下さい。何の気を起こすか分かりませんから。」
桃がようやく口を開いた。翠はくすくす笑いながら、教会だったものにくるりと背を向ける。翠は説く。桃にだけではない。影に潜む、いくつもの意志の固まりに。
「世界を脅かす如何なる可能性も総て潰しなさい。例え謀反が起ころうと過去の友人であろうと恋人であろうと躊躇はしてはいけません。」
自分に言い聞かせるように。
「この世界を、護る為に」
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