足音
ぺた。
湿った小さな足音が、立ちつくす静葉の鼓膜に届く。ふっと振り向いたが、そこには誰もいなかった。
振り向いた頃には、音の主は影に溶けていた。
静葉が気のせいかと背を向けた頃、一対の宝石が、影から浮かぶ。
湿った小さな足音が、立ちつくす静葉の鼓膜に届く。ふっと振り向いたが、そこには誰もいなかった。
振り向いた頃には、音の主は影に溶けていた。
静葉が気のせいかと背を向けた頃、一対の宝石が、影から浮かぶ。
「…そう。先にそちらが見つかりましたか。」
砂嵐のひどい無線から、連絡の声を拾い取り。
目を閉じた男は、ひどく事務的に言った。
「ええ、構いません。」
砂嵐のひどい無線から、連絡の声を拾い取り。
目を閉じた男は、ひどく事務的に言った。
「ええ、構いません。」
「始末なさい。」
+
状況を整理しましょう。そう切り出して静葉は陸とアノニマスを集めた。
陸もアノニマスも物を考えるタイプじゃないし、静葉も頭は切れない。それでもよかった。落ちつくことが大事だった。
幻が敵に回った。
存外冷静に、静葉は事実を受け止めていた。
幻が悪いんじゃない。此処はそういう世界だから。一刻も早く夢を醒まさなければたくさんの人が呑み込まれていく。その為には、状況判断が必要だった。
「私達の敵側にいる人は誰か、それを挙げていきましょう。あと、どういう敵なのかも分けなくちゃ。」
「敵は…敵や…。」
「ううん。多分…私達の敵には2通りがいる。」
教会で出会った翠を静葉は思い出した。迷いなく口にしていた狂信の言葉。翠は、ダークライの側について戦っている。ダークライの味方だから、その敵である静葉達を襲ってくる人達がいる。
「…匂い…。」
「陸君?」
「幻…あいつの最後の匂い…多分、それや。」
そういえば陸は幻の異変を嗅覚でかぎ取っていた。彼はダークライの気配がわかるのかもしれない。静葉は一瞬瞳を輝かせた。
「ねぇ陸君、それってダークライに味方する人がすぐわかるってことかな!?」
「無理や。」
「そうなの?」
陸は顎でぞんざいにアノニマスを指す。
「…お前の匂いが強すぎる。」
「けたた、ゴメーンネ?」
「ええ…約束は約束や。とにかく俺は、よほど匂い強ないとコイツにかき消されてわからん。」
「そっかぁ…じゃあひとまずそれは置いとこうか。」
今、襲ってくる可能性のある人は誰か。
もしかしたら既に世界ごと敵かもしれない。でも戦わなければいけないなら。
敵を知らなくては。
「…俺は死ぬほど喧嘩売られてきた…ようわからん…最後のは確か…弱いジュプトル、や。」
「ジュプトル…樹さんだね、きっと。それと翠さんと…桃、さん。」
けたり、アノニマスが笑った。静葉が必死に封じる感情を嗤うように。
「それと…ラトさん、って言ったかな…。」
「ハーズレ。」
そこでアノニマスが歌うように口を挟んだ。頬杖をついてにぃやり笑う。
「けたた、ミズハはアマいからスーキ。だからトクベツに教えてアゲル。ちゃあんとミなきゃダメ。ジャナイとカワイイお人形にタベられちゃうヨ?」
「…お人形…?」
「ちゃあんと思いダシテ?ラトは、ダアレ?」
ぞくり。粟立つ腕を静葉は掴んだ。強く強く。
アノニマスの言う通りだ。まるで理解できない現象でも、認識しなければ戦えない。
「……冬、さん。」
「…どういう、ことや?」
「けた、ソレはね?」
ついとアノニマスが背後へ流し目をした。
陸もアノニマスも物を考えるタイプじゃないし、静葉も頭は切れない。それでもよかった。落ちつくことが大事だった。
幻が敵に回った。
存外冷静に、静葉は事実を受け止めていた。
幻が悪いんじゃない。此処はそういう世界だから。一刻も早く夢を醒まさなければたくさんの人が呑み込まれていく。その為には、状況判断が必要だった。
「私達の敵側にいる人は誰か、それを挙げていきましょう。あと、どういう敵なのかも分けなくちゃ。」
「敵は…敵や…。」
「ううん。多分…私達の敵には2通りがいる。」
教会で出会った翠を静葉は思い出した。迷いなく口にしていた狂信の言葉。翠は、ダークライの側について戦っている。ダークライの味方だから、その敵である静葉達を襲ってくる人達がいる。
「…匂い…。」
「陸君?」
「幻…あいつの最後の匂い…多分、それや。」
そういえば陸は幻の異変を嗅覚でかぎ取っていた。彼はダークライの気配がわかるのかもしれない。静葉は一瞬瞳を輝かせた。
「ねぇ陸君、それってダークライに味方する人がすぐわかるってことかな!?」
「無理や。」
「そうなの?」
陸は顎でぞんざいにアノニマスを指す。
「…お前の匂いが強すぎる。」
「けたた、ゴメーンネ?」
「ええ…約束は約束や。とにかく俺は、よほど匂い強ないとコイツにかき消されてわからん。」
「そっかぁ…じゃあひとまずそれは置いとこうか。」
今、襲ってくる可能性のある人は誰か。
もしかしたら既に世界ごと敵かもしれない。でも戦わなければいけないなら。
敵を知らなくては。
「…俺は死ぬほど喧嘩売られてきた…ようわからん…最後のは確か…弱いジュプトル、や。」
「ジュプトル…樹さんだね、きっと。それと翠さんと…桃、さん。」
けたり、アノニマスが笑った。静葉が必死に封じる感情を嗤うように。
「それと…ラトさん、って言ったかな…。」
「ハーズレ。」
そこでアノニマスが歌うように口を挟んだ。頬杖をついてにぃやり笑う。
「けたた、ミズハはアマいからスーキ。だからトクベツに教えてアゲル。ちゃあんとミなきゃダメ。ジャナイとカワイイお人形にタベられちゃうヨ?」
「…お人形…?」
「ちゃあんと思いダシテ?ラトは、ダアレ?」
ぞくり。粟立つ腕を静葉は掴んだ。強く強く。
アノニマスの言う通りだ。まるで理解できない現象でも、認識しなければ戦えない。
「……冬、さん。」
「…どういう、ことや?」
「けた、ソレはね?」
ついとアノニマスが背後へ流し目をした。
「コノ子達が教えてくれると、思うヨ?」
アノニマスの背後では、ごぼごぼ泡立つ地面から何かが這い出していた。
+
赤い螺旋がくるくると回る。
新体操のリボンのように、螺旋は次々と人を絡めていった。くるりと絡まる頃には、絡められた人も螺旋の一部。
螺旋の中心で踊るのは一人の男だった。長い髪が、長いマントが、螺旋と共に軽やかに舞う。
最後のひゅんと右腕を振るうと、赤のリボンはしなやかに空を舞い…びしゃしゃっ、と地面に落ちた。
ごとりと倒れた死体を前にして、男は、心底満足そうに微笑んだ。
新体操のリボンのように、螺旋は次々と人を絡めていった。くるりと絡まる頃には、絡められた人も螺旋の一部。
螺旋の中心で踊るのは一人の男だった。長い髪が、長いマントが、螺旋と共に軽やかに舞う。
最後のひゅんと右腕を振るうと、赤のリボンはしなやかに空を舞い…びしゃしゃっ、と地面に落ちた。
ごとりと倒れた死体を前にして、男は、心底満足そうに微笑んだ。
と思えば、ふいに素早く後ろを振り向く。
次の瞬間には樹が真っ直ぐ降りおろした『リーフブレード』と、両腕をクロスさせた薫の『まもる』が交差していた。
樹は少しも力を緩めず、ふわっと微笑む。
「薫、久しぶり。しばらくぶりだな。」
「っじゃあなんで斬ってきやがるですか…!」
「さぁ、なんでだろう。なんでだろうな。」
わるいやつだよなぁ。のんびりとそう言って、ふいに刀を離す。
それを再び降りおろすと、薫はなんとか避けて間合いを取った。わずかに震える肩をごまかすように、息を吐く。
「…わかってるじゃないですか。友達を殺そうとする奴はめっ!ですよ!いい加減にしないとかおるんが成敗するですよ!」
びっと薫が指を突きつける。その先にはぼんやりたたずむ樹。相変わらずふんわりと微笑んでいた。
金の瞳を冴え冴えと光らせて。
「そうだ、お前が正しい。薫。わるいやつはやっつけないといけない。」
うまいこと殺してくれよ?言いながら血濡れの刀を構える。
その樹らしからぬ人を食った発言に、薫はさすがに戸惑いを見せた。これは、なんだ。本当に樹なのか。しかし樹はその迷いすら許さない。
次の瞬間には樹が真っ直ぐ降りおろした『リーフブレード』と、両腕をクロスさせた薫の『まもる』が交差していた。
樹は少しも力を緩めず、ふわっと微笑む。
「薫、久しぶり。しばらくぶりだな。」
「っじゃあなんで斬ってきやがるですか…!」
「さぁ、なんでだろう。なんでだろうな。」
わるいやつだよなぁ。のんびりとそう言って、ふいに刀を離す。
それを再び降りおろすと、薫はなんとか避けて間合いを取った。わずかに震える肩をごまかすように、息を吐く。
「…わかってるじゃないですか。友達を殺そうとする奴はめっ!ですよ!いい加減にしないとかおるんが成敗するですよ!」
びっと薫が指を突きつける。その先にはぼんやりたたずむ樹。相変わらずふんわりと微笑んでいた。
金の瞳を冴え冴えと光らせて。
「そうだ、お前が正しい。薫。わるいやつはやっつけないといけない。」
うまいこと殺してくれよ?言いながら血濡れの刀を構える。
その樹らしからぬ人を食った発言に、薫はさすがに戸惑いを見せた。これは、なんだ。本当に樹なのか。しかし樹はその迷いすら許さない。
「できなければ後ろの坊やが、ずたずたになっちゃうからな。」
びくん、と。
その言葉に肩を跳ねさせたのは、瓦礫の影に隠れる紅だった。
その言葉に肩を跳ねさせたのは、瓦礫の影に隠れる紅だった。