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閃光と陰影

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mato4869

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閃光と陰影



『お姫様はここに隠れてるですよ、いい?』
やっとの思いで走って走って、最終的には抱えてもらって辿りついた瓦礫の影。
紅はそこまで連れてきてくれた人・薫へ目を瞠り、「駄目」と思わず服を掴んだ。
薫はきっと単身で樹へと挑む気だ。紅を守る為に。
紅へ微笑みかけるその笑顔が、脳裏で冥の笑顔と重なり、さっと血の気が引いた。
『なんで…なんで僕を?僕たち、さっき会ったばっかりなのに…。』
『それはかおるんがヒーローだからですよ。ヒーローは困ってるお姫様を助けないと!っと時間ないですね、僕は行くですよ?』
『でも…っ!でもだめ、死んだらだめ!薫さんだって、薫さんだって会いたい人がいるでしょ!?』
冥を探して飛び出した、自分のように。
しかし薫は一瞬ぽかんとして、綺麗な水色の瞳をガラスのように透き通らせて。
それから、からりと笑った。
『いませんですよ。』
ぱっと、たどたどしい手を振り払った。
『だって僕は、"ヒーロー"ですから。』



容赦なく喉元を掠める刃を、ぎりぎりでかわした。
その隙にドレインパンチを見舞おうとしたが、右手に力が入らない。
仕方なく薫は後ろへ飛び、樹から距離を取った。そこでがくんと肩が落ちて、薫は左胸を押さえ込んだ。どくどくと痛む心臓に、息が荒くなる。
(――…大丈夫。)
大丈夫だから…ね?
語りかけるように心の中で呟いた。何度も。
そうしている間にも凶刃は高く跳び、薫へと振りおろされる。それを受け止めるように薫は腕で身を『まも』った。
しかし樹の二撃目は素早かった。
二度目の『まもる』はうまくいかず、薫に『リーフブレード』の直撃。腕に焼けるような鋭い痛みが、走った。
「あ…っぐ…。」
とんっ、と着地した樹がそれを見つめる。無関心、というか、出会った友人を見るのと変わりない目で。
「なんだかちょっと弱くなったんじゃないか?薫。」
そして世間話のように、他愛ない口調で言うのだ。剣から友人の血を滴らせて。
「まぁ…強くても弱くても構わないけどな。もうすぐお前も死んじゃうな。」
「…ッ死んで…たまるかです…紅には触れさせないですよ…!」
「お前の友達か?」
「そうです、さっき友達になったですよッ」
「…またそれか。お前らしいな。」
ふっと苦笑してみせるの表情も、世間話の域を出ていない。
薫は樹がよくわからなくなっていた。樹はどうして自分を殺そうとするのだろう。敵意はない、戦意もない、殺意も鈍い、なのに殺す。
そんなことあり得るの…?
『戦意』の塊である薫には、わからない。薫を斬りつける時に一瞬垣間見せる恍惚とした微笑も、薫にはわからないのだ。
「俺はお前がわからないよ、薫。どうして見ず知らずの人間を庇って戦おうとするんだ?」
まるで薫の心中を映したように、ぽつりと樹が呟いた。
「情、としては理解できる。困ってる人がいたら助けたい。けどお前は…確かその為に一度死んでいる。それでもまた怯えることなく繰り返すのか?」
自らを死なせてまで、人を助けたいのはどうして?
樹は比較的、困った人をほっとけないタチだ。その樹から見ても自分を死なせて他人を助ける神経はわからない。確かに薫の人助け精神は、常軌を逸している面があった。

薫は、
その言葉の一言一言に、呼応するように痛む心臓を押さえた。
「…僕は"ヒーロー"だからです。弱い人を守る人。」
ぐっと心臓を押さえこむ。けれどそんな痛みに屈しない目で樹を睨みながら薫は続けた。
「僕はそのために、いる。弱い人を守る為にここにいる。助けるためにここにいる。助けて、守って、いつの日かお姫様の笑顔が見たい。だから!」
吼えるように、宣言するように、言い放った。
「例え死んだって、僕は何度でも戦う!絶対に、負けない!」

それを見た樹は目を瞠り、やがて眩しそうに細めて…目を閉じた。
「…眩しいな、お前は。」
だが。
ひゅんっと樹の姿がかき消えた。次の瞬間には薫の喉元まで迫っていた。
「お前の光は重すぎる。遺された奴らにとっては、な。」
…薫の脳裏に、守りたい『お姫様』の顔が瞬く。
その気を取られた一瞬で、リーフブレードが閃いた。


「かお…るっ…」
影から見ていた紅が息を呑んだ時。
ふいに聞こえた足音にびくっと振り返った。

そこには翠がいた。
目を伏せた、無表情。無言でただそこに立っている。
「す、い。」
呼びかけに応えはない。唐突に無表情だった唇が、にぃっと歪んだ。

「あっははははははははははははは!!!!!」

唐突な哄笑。
共にぞろっ、と生え揃う『ドラゴンクロー』。紅はびくんと息を呑み、そのまま硬直して動けない。
「馬鹿な人、本当にこんなところにいるなんて!隠れ家のお家はどうしたんです?こんな遠いところまでお散歩?おめでたい人だ、自分の立場も弱さもわかってないなんて!」
あははははははははは!!本当に可笑しくてたまらないというように翠は笑い続けた。
「本当に馬鹿で可哀想な人。残念でしたね、貴方は此処で殺されてしまうんですよ。」
「ころ…される?」
「ええ、私にね。」
当然でしょう?畳みかけるように続ける翠は、紅以外の誰かにも聞かせているように見えた。
「世界を脅かす如何なる可能性も総て潰しなさなくては。例え謀反が起ころうと過去の友人であろうと恋人であろうと躊躇はしてはいけません。」
徐々に翠の言葉が速くなる。壊れたスピーカーのように。
「過去も自我も思い出も未来も記憶も何もいらない必要なのは意志と力だけ私は護るのみ護りただあの方に尽くすのみ他には何も」
ぐばっ、と『ドラゴンクロー』を振りかざした。

「貴方だって、いらないんだッッ!!!」




…きん。
肉を裂く音や、血の散る音はせず。ただひとつ金属音が響くだけの、静寂が生まれた。
「…御託はもう結構よ。」
間に飛びこんだ少女と、瞳孔が開いた神父の、目が合った。

「私が言いたいことは一つだけ。やれるものなら、やってみなさい。」

一切の戸惑いを捨てて、栞は翠を睨みつけていた。



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