アットウィキロゴ
澪街悪夢Wiki
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

澪街悪夢Wiki

すてぃるはんぐりー

最終更新:

miduku

- view
だれでも歓迎! 編集

すてぃるはんぐりー



どうしよう。紅は頭を抱えながら、小さく縮こまっていた。
…冥を助けるなんて言い切って、あの家を出てきたのまでは良かった。良かったのだけれど。

――どうしよう…

冥の居場所さえ分からなければ、情報を得る当てもない。身を守る手段も戦う武器も力も作戦も何も持っていない。しかもあまりにもあの家での生活に慣れすぎたせいか、この世界の性質をすっかり忘れていた。やけに攻撃的で、やけに理解不能な物事が多い世界。
今だって、その一端に、巻き込まれているわけで。
紅は近づいたり遠ざかったりする足音に耳を集中させながら、じっとその場に身を潜めていた。

…とりあえず、ここから逃げないと。
そう思いながらそっと外を覗き込む。刃物を手にうろつく誰かはこちらに背中を向けて歩いていた。今なら逃げ切れる。紅は強く地面を蹴りだした。すると足音に気付いたのか、後ろから追いかけてくる音が聞こえ出す。逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ…!

だが気持ちが先走りし過ぎたせいか、元々走ることにおいて秀でてないからか。紅の足は数歩踏み出した途端にもつれてしまう。がくんと、細い体が地面に落ちた。足に走る痛みに顔を歪めながら、差す影にはっと反応する。
どうやら自分を追いかけてきたこの目の前の人物は、金目のものでもほしかったらしい。ざっと紅の体を眺めると、途端に興味なさ気にふんと鼻をならした。
手にした鈍く光る包丁。それが振り上げられる様子が赤い瞳に映し出される。思わず紅が目を強く瞑った瞬間、
地面が唸り声を、上げだした。

「な……ひッ!!?」
「……?」

地面の揺れが近付いたかと思うと、ばきばきばき、と今度は地面が割れる音。目の前の人物の小さな悲鳴に紅も恐る恐る目を開いた。
視界に広がるのは刃物を持った彼、と、その後ろには10メートルはあるかという大きさの<ハガネール>。

「…君、は」
「…っひ、やめろ、来るなッ!!」

吟味するかのように、ハガネールは二人を見下ろした。やがてぎらりと一瞬目を光らせたかと思うと、大きく口を開けて一声吼えた。唖然としたまま地面に手をつく紅ではなく、逃げようとするもうひとつの体に向かって、牙を。

それから聞こえてきた音に、紅は思わず耳を塞いだ。

「うっ…」

内蔵がつぶれて、骨が折れて、肉がちぎれる音がほぼ真上から聞こえた。びたた、という血肉の滴る生々しい音もついでに。
紅はまだ耳を塞ぎながら、上を見上げ、か細い声で聞いてみた。

「……こ、咬…竜……なの?」

いつか、家の近くで出会ったハガネール。名前は確か、”咬竜”だったはず。
名前を呼ばれたことに気がついたハガネールは、じぃっと紅を見下ろす。やがて頭を下げ、今度は真っ正面から観察するように。
しばらくその状態が続いた頃、紅の方からそっと手を伸ばしてみた。耳を塞いでいた手を、硬い体に触れさせてみる。ゆっくり慎重に撫でてみると、咬竜は目を細め、頭を紅にちょっと押し付けてきた。…ちょっと痛い。でも、乱暴な真似を紅にするような様子は見えない。

「…あ、そういえば咬竜、……鏡、さんは、見つかった?」

咬竜からの返事はない。ただちょっと低めの唸り声を上げただけだ。紅は咬竜の硬い肌を撫でながら、ゆっくりと話を続けた。

「…僕もね、今人を探してるんだ。……知らないよね、腕のない<ヨノワール>なんて」
「……?…」
「だよね…どこにいるんだろう…冥…
…そうだ、ねえ、咬竜。僕といっしょに、人探ししない?」

紅のそんな声かけに、細めていた咬竜の目がぱちりと開かれた。もう一度頭を少しだけ上げて、紅の話の続きを待つ。

「ひとさがし。僕も咬竜のおてつだいするよ。だから、咬竜にも僕のおてつだい、してほしいな。」
「…」
「…駄目かな」

咬竜は何も言わない。紅も咬竜を見上げたまま黙ってしまった。
だめだよね、と諦めかけた頃、ハガネールは小さく唸り声を上げた。そしてまた紅のお腹の辺りにぐりぐりと自分の頭を押しつけ始める。…今度はさっきより痛い。でも、これは肯定の返事?

「いいの?…ありがとう、咬竜」

しかし、何故だろうか。さっきの声より些か元気がないように聴こえる。紅は少しだけ首をかしげながら、考えた。そしてそのうち頭部以外のどこかから聞こえた音に、紅はやや顔をほころばせた。

「咬竜、お腹空いたの?」
「……」
「でも、この辺には食べ物とか…置いてなさそうだね」
「!……!」
「…僕は食べちゃ駄目。……他の人もあんまり食べちゃ…」

だめ、と、紅が言いかけた瞬間。
埒があかない。そう言いたいかのように、咬竜は大きく吼えた。きぃんと耳に響いた咆哮に思わず手をぱっと放してしまう。その隙に咬竜は餌の匂いを探し始め、やがて来た穴に再び潜り込んでしまった。
呆然としたまま、紅はその深い穴を見つめる。…戻ってきて、くれる…よね。

「……どうしよう」

今日何回目かの言葉を呟き、穴を覗き込んだままため息をつく。

だけど、足音に気づくまでに、さほど時間はいらなかった。
紅はびくりと怯えながらも、顔を素早く上げた。

そこにいたのは、”リーフブレード”を携えた<ジュプトル>。紅は、その姿を知っている。

「……いつ、き…さん?」


その後の展開は、あまりにも早すぎた。
唐突に襲いかかってきたリーフブレード。避けることも守ることも出来ない紅が思わず目を閉じたかと思えば、不意に誰かにものすごい力で引っ張られる。先をいく救世主は緑の髪。走りながら、その誰かに尋ねた。あなたは誰か、と。
彼はこう答えてくれた。

「よくぞ聞いてくれました!僕は、最強の正義のヒーロー、かおるんですよ!!」

にっこり笑った彼の顔。
どこか、懐かしさを感じた気がした。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
人気記事ランキング
ウィキ募集バナー