狂犬達の夜
「きゃハハはハッ!」
既に変身済みのアノニマスが、白衣をひらめかせて甲高く笑った。長い爪が絡みつく"影"を引っ掻きまわす。しかし影達は一瞬ぐちゃりとばらけるだけで、すぐにまた元の形に戻った。
それらは6匹の、"ヤミラミ"の形をしていた。
群がるシャドークローをかわしながら、アノニマスはこの悪趣味な巡り合いに、それはもう愉しそうに笑うのだった。
「センキャクバンライだネェ、シズハ?」
「…ッ…わかってる。」
これみよがしに流し目寄こさなくとも、静葉はわかっていた。
静葉は、この6匹のヤミラミを、嫌というほど知っている。…できれば考えたくない事態だけれ、ど。
…どんっ!群がってきたヤミラミを、どろばくだんで吹き飛ばした。
「…どういうこと、なのかな。冥。」
束の間の静寂で、虚空へと問いかけた。
「いるのなら、出てきて。そして教えて。どうして貴方が、私達を襲うの?」
散った影がまたヤミラミの形へ戻る。今度は先刻のように群がってこなかった。誰かを迎えるように、礼儀正しく佇んでいる。
その奥から、こつ、と足音がした。
「…冥?」
現れた人影が喋った。一対の義手を浮かべた、腕のない長身の男。
「どなたでしょう、それは。」
「…冥?」
「おや。おかしいですね、貴女には以前名乗ったはずなのですが。」
男は目を閉じたまま微笑む。
静葉が知る冥の面影を砕くように、右の義手を静葉へと伸ばした。
「私はルワーレ・マイヨール。貴女達を処刑する者だ。」
一発のシャドーボールが放たれる。それを追うように、影が飛びかかった。
「きり…あらへん…!」
その影の隙間を縫って陸が飛んだ。がぎぎぎぎッと引きずった爪をぐばっと振りあげた。微動だにしない冥に向かって。
余計な影より本体を叩けばいい。
陸の思惑通り、凶刃は冥を頭からぐちゃりと潰す。
「きりなんて在りませんよ。」
その肉塊から明朗な声がした。
硬直した陸の胸から、びっしりと爪が生えそろう。背中から貫通した、6匹分のシャドークローだ。
くっ、くっ。洩れる声は笑い声にも、嗚咽にも聞こえた。
「私は不死身、なのですから。」
既に変身済みのアノニマスが、白衣をひらめかせて甲高く笑った。長い爪が絡みつく"影"を引っ掻きまわす。しかし影達は一瞬ぐちゃりとばらけるだけで、すぐにまた元の形に戻った。
それらは6匹の、"ヤミラミ"の形をしていた。
群がるシャドークローをかわしながら、アノニマスはこの悪趣味な巡り合いに、それはもう愉しそうに笑うのだった。
「センキャクバンライだネェ、シズハ?」
「…ッ…わかってる。」
これみよがしに流し目寄こさなくとも、静葉はわかっていた。
静葉は、この6匹のヤミラミを、嫌というほど知っている。…できれば考えたくない事態だけれ、ど。
…どんっ!群がってきたヤミラミを、どろばくだんで吹き飛ばした。
「…どういうこと、なのかな。冥。」
束の間の静寂で、虚空へと問いかけた。
「いるのなら、出てきて。そして教えて。どうして貴方が、私達を襲うの?」
散った影がまたヤミラミの形へ戻る。今度は先刻のように群がってこなかった。誰かを迎えるように、礼儀正しく佇んでいる。
その奥から、こつ、と足音がした。
「…冥?」
現れた人影が喋った。一対の義手を浮かべた、腕のない長身の男。
「どなたでしょう、それは。」
「…冥?」
「おや。おかしいですね、貴女には以前名乗ったはずなのですが。」
男は目を閉じたまま微笑む。
静葉が知る冥の面影を砕くように、右の義手を静葉へと伸ばした。
「私はルワーレ・マイヨール。貴女達を処刑する者だ。」
一発のシャドーボールが放たれる。それを追うように、影が飛びかかった。
「きり…あらへん…!」
その影の隙間を縫って陸が飛んだ。がぎぎぎぎッと引きずった爪をぐばっと振りあげた。微動だにしない冥に向かって。
余計な影より本体を叩けばいい。
陸の思惑通り、凶刃は冥を頭からぐちゃりと潰す。
「きりなんて在りませんよ。」
その肉塊から明朗な声がした。
硬直した陸の胸から、びっしりと爪が生えそろう。背中から貫通した、6匹分のシャドークローだ。
くっ、くっ。洩れる声は笑い声にも、嗚咽にも聞こえた。
「私は不死身、なのですから。」
「…いらっしゃい、栞さん。」
翠は微笑もうとしたのだろう。けれど口端がかすかに歪んだだけ。
「私達の元へ来る気になった、と受け取っても?」
「いいえ。全くそんな気は起きないわ。」
「そうですか。では無駄死にしに来たんですね。」
ようやく口元が笑みの形を取る。ぎらぎらした凶眼を隠しもせず栞を見据えた。
対する栞の気迫も、普段の戦闘より高まっている。
「…おめでたいものね。馬鹿神父が私に勝てると思ってるの?」
「以前ならそうでしょう。ですが御神は仰りました。ここは願いの強さが、想いの強さが全てを左右する世界だと。」
かちゃり。首からかけた十字架に爪で触れた。
「私の御神を護ることが願い。御神を護るためならば全てを捨てられます。貴女はどうです?護りたいものは定まりましたか?」
栞は無表情だったが、わずかに瞳が揺れた。
定まっている訳がなかった。護るとは何か、護る力とは何か、それすらもわからない。頭はぐちゃぐちゃしたままだ。特に、その結果である壊れた翠を目の前にしては。
だから栞は此処に来た。栞は翠と戦わなければいけなかった。
護る対象ではなく、誤った己の鏡像として、翠と戦い、答えを見つけなければ進めない。
翠は微笑もうとしたのだろう。けれど口端がかすかに歪んだだけ。
「私達の元へ来る気になった、と受け取っても?」
「いいえ。全くそんな気は起きないわ。」
「そうですか。では無駄死にしに来たんですね。」
ようやく口元が笑みの形を取る。ぎらぎらした凶眼を隠しもせず栞を見据えた。
対する栞の気迫も、普段の戦闘より高まっている。
「…おめでたいものね。馬鹿神父が私に勝てると思ってるの?」
「以前ならそうでしょう。ですが御神は仰りました。ここは願いの強さが、想いの強さが全てを左右する世界だと。」
かちゃり。首からかけた十字架に爪で触れた。
「私の御神を護ることが願い。御神を護るためならば全てを捨てられます。貴女はどうです?護りたいものは定まりましたか?」
栞は無表情だったが、わずかに瞳が揺れた。
定まっている訳がなかった。護るとは何か、護る力とは何か、それすらもわからない。頭はぐちゃぐちゃしたままだ。特に、その結果である壊れた翠を目の前にしては。
だから栞は此処に来た。栞は翠と戦わなければいけなかった。
護る対象ではなく、誤った己の鏡像として、翠と戦い、答えを見つけなければ進めない。
「…革命の蒼。」
呟いた栞に、翠が、目を見開いた。
「それが私の護るものよ。」
「…栞さん貴女…記憶が…!?」
「さぁ?貴方の想像に任せるわ。…さて。」
ちらり、栞は後ろの紅に目をやった。逃げろ、と。
「貴方が追いまわすこの男と、魔女に使える私。…どちらが貴方の敵、かしらね。」
金色の瞳と眼球が、零れ落ちそうだった。
見開かれた目に、薄く開いた唇。一瞬だけ翠を支配した、絶望の表情。
その一瞬が過ぎると。
目を伏せ、拳を握り、歯を食いしばり…堪え切れない想いが、叫びとなり迸った。
「それが私の護るものよ。」
「…栞さん貴女…記憶が…!?」
「さぁ?貴方の想像に任せるわ。…さて。」
ちらり、栞は後ろの紅に目をやった。逃げろ、と。
「貴方が追いまわすこの男と、魔女に使える私。…どちらが貴方の敵、かしらね。」
金色の瞳と眼球が、零れ落ちそうだった。
見開かれた目に、薄く開いた唇。一瞬だけ翠を支配した、絶望の表情。
その一瞬が過ぎると。
目を伏せ、拳を握り、歯を食いしばり…堪え切れない想いが、叫びとなり迸った。
「…ッあ゛ああああああああああ!!!!」
がぎッッ、爪と十字架が嫌な音をたてた。
栞は涼しい顔で受け止める。一瞬身体を回して紅を回し蹴る。衝撃で飛んだ紅に目もくれず、栞は樹と薫がいる方へ走った。
翠はもう紅に目もくれない。栞から目を離さないことで、必死に決意を折らずに保つ。
栞は倒れている薫の元に着くと、ざっと割り込んで、十字架を振るった。かきぃ、ん。油断していた手元からリーフブレードが飛ばされる。
こちらも緑髪に金の瞳。今日はまさしく悪夢のようね。向けられた二対の金色を、栞はぎろりと見据えた。
栞は涼しい顔で受け止める。一瞬身体を回して紅を回し蹴る。衝撃で飛んだ紅に目もくれず、栞は樹と薫がいる方へ走った。
翠はもう紅に目もくれない。栞から目を離さないことで、必死に決意を折らずに保つ。
栞は倒れている薫の元に着くと、ざっと割り込んで、十字架を振るった。かきぃ、ん。油断していた手元からリーフブレードが飛ばされる。
こちらも緑髪に金の瞳。今日はまさしく悪夢のようね。向けられた二対の金色を、栞はぎろりと見据えた。
護りたいものなんてわからない。翠の言葉を拾っただけのはったりに過ぎない。
今は、目に見える物を節操無く護り、戦うべき相手と戦う。それだけで、いい。
仁義のない刃であっても、構わない。
今は、目に見える物を節操無く護り、戦うべき相手と戦う。それだけで、いい。
仁義のない刃であっても、構わない。
護る主を知らない私は、狂犬として、信無き牙を振るおう。