病的下半身と煩悩の話
男に見えない顔立ち。のわりに全体的な骨格はしっかりしていて、骨張った指は先に至るほど細い。白い肌と薄紅色の唇のバランスがいい。髪はつややかな漆黒のくせ毛、天然パーマ。長くカールした量の多い睫は黒目の大きな水色の目を縁取る。顎がつんと尖っていて、細面はまるで少女漫画。柔らかでハスキィな声が名前を呼んだ――。
「…鷲見さん、体調が悪いなら保健室で寝て頂戴」
女教師のやんわりとした怒声が飛んだ。なんだ、少し幸せな夢を見ていたような気がしたのに。名前を呼ばれたと思ったのは現実の話だったらしい。…最低だ。黙って椅子から退くと、空は保健室の代わりにトイレへ直行した。
(…気持ち悪い。)
それは保健室で処理しうる類、則ち体調不良による不快感ではなかった。個室に飛び込んで、頭を抱える。どうしてくれよう、あの男。
(まさか、まさかまさかだ)
夢で見た鉄の笑顔が鮮明にリプレイされる。からかうような口調で名前を呼ばれる夢。空は顔を真っ赤にしてため息を吐き出し続けるしかなかった。少し濡れた下着が腹立たしい、けれど鉄で抜くのはもっと嫌だ。
(おさまれよ、畜生…)
純粋な青少年になんてことを。DTなんてウブなわけじゃないが、この仕打ちはあんまりだ。時刻はヒトヒトサンマル、あと30分ちょいで台風がやって来る。
「だぁりーん! 今日のおべんとーはサンドイッチだよー!」
ぴょこっと屋上に顔を出した鉄を、空の金色の瞳が睨んだ。銃を放り出して、鉄に詰め寄る。
「にゃっ、だぁりんたんどったのぉ」
「…ひとつお前に確かめたいことがある」
「…ひとつお前に確かめたいことがある」
苛々した声と口調と、厳しく釣り上がった金色の目。鉄は一歩後ろに退いて、降参ポーズをとった。
「ハイ…なんでしょます」
「お前…男、だよな?」
「男…ですケド」
9割5分予想された模範解答。空はまた頭を抱えた。何で男にここまで心臓を打たれなくてはならないんだ絶対おかしい絶対。ああ、鎮まれ俺の心臓おおぉ。認めたくない事実がひとつ鎌首をもたげてくるけれど、自分でも気付かないように強引にしまい込んだ。
「ありえないだろう…」
小さく呟いた言葉は鉄には届かなかったらしい。鉄は少し背の高い空の顔を心配そうに覗きこむ。
「だぁりん顔赤い…病気?」
「…かもな」
「ええええ!? おねつ!?」
ため息をついた。間違いなく病気だ、こんなの。1ミクロでも認めてしまえば、…鉄が、かわいい、とか…ああ目の病気に違いない!