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でこぼこあっとほーむ

最終更新:

mato4869

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でこぼこあっとほーむ



「しーおーりーさん、体調どうですか?」
ワンルームの小さなおうちに、ちょこんと敷かれた子ども布団。その傍に翠がかがみこむと、布団で寝ている栞はぷいとそっぽを向いた。その弾みでけほこほと咳が出た。背中をなでなでする翠をぎろりと睨みつけるが、手で弾くだけの力もないようだ。
顔も火照っていて、目も赤くなっていて、一目で風邪だとわかる。
そんな栞に、翠は朝からつきっきりで看病していた。
「栞さん。お熱測りました?」
「なかった。」
「何度でした?」
「…なかった。」
「だめですよー測らなきゃ。」
測ったったら測った、と言い張る栞を翠は聞き流す。風邪を引いたせいだろうか、栞は妙な意地を張っているようだ。もうそんなとこも可愛いんだから、なんて思いながら翠は体温計を出した。
「脇に入れられます?え、私に脱がせて入れろなんてそんな栞さんってば」
がすっっ。栞の全力が込められた蹴りが決まった。
「っぐほ…栞さん無茶しちゃだめですってば…。」
「うるさいっ!無茶させてるのはどこのだれdげほっ、ごほっ!」
「あぁほら言わんこっちゃない。もう、仕方ないですね。」
翠は栞の前髪をのけると、こつんと額を突き合わせた。びくっ、と栞が驚いて固まる。数秒そうした後、翠はゆっくりと離れた。
「っな、何するの何その変な測り方…!」
「…うわぁ、あっつい。可哀想に、辛いでしょう。」
眉をハの字に下げて、翠は心配そうに栞を見た。
それを見ると文句がするすると喉の奥にひっこんでしまい、またさっきまでのふつふつした何かに囚われて、栞はぷいとそっぽを向いてしまうのだった。
「別に…平気よ。」
「そうですか?あ、そうだ栞さん!ご飯作ったんですよ、食べましょ?」
翠はぱたぱたと台所に戻り、ほこほこ湯気を立てる小さな土鍋を持ってきた。中身は栞のためのおじやらしい。
栞はそれを見ると、呆然と目を瞠った。やがてぎゅっと唇を引き結ぶと、今度は寝返りをうって背を向けてしまった。
「いらない。」
「え?」
「いらないって言ってるのよ。食べたくない。いらない。」
「…でも栞さん、朝から何も…」
「いらないって言ってるでしょ!!」
その怒声が小さな部屋に響いてしまう。
しまった、と振り向いた頃には翠の大きな瞳が開かれていて、やがてそれが緑の前髪に隠される。違うよそうじゃないとも言えず、ごめんなさいとも言えず、栞は布団にもぐるしかできなかった。
小山になった布団から、くぐもった声がした。
「…鍋。」
「え?」
「鍋…作ってなさい…。」
翠はきょとんとした。昨日材料をたくさん買いこんだから作れるけれど、おじやも食べれない人が鍋を食べれるだろうか。
「栞さん、お鍋食べたいんですか?」
「食べない。でも作ってなさい。」
そう言って栞はますます深くもぐる。
「鍋と、もちと、蕎麦と、すき焼きと…昨日馬鹿みたいに買ったもの、作って食べてなさいよ…。私にかまけておじやなんて作って…馬鹿じゃないの…。」
栞の声が段々と小さく、震えを帯びる。
栞は昨日のことを思い出していた。明日は大みそかだからごちそうですよ!と大張りきりする翠が、とても食べ切れないような食材を楽しそうに買っていて。
自分が元気だったら、翠は今頃それらを楽しく食べられただろう。
栞が風邪なんて引かなければ。

翠がゆっくり目を瞠って、俯いた顔を上げる。その目にはもう傷ついた色はない。
鈍い翠にもなんとなくわかったのだろう。くす、と苦笑した。
「…でしたら善は急げ、ですね。」
そう呟くと、翠は布団を敷くために仕舞ったこたつを出してきた。その上にガスコンロ、お鍋、買い込んだ野菜と肉。それらが栞の布団のすぐそばで詰みあげられた。その傍らには栞用のおじやが、そっと添えられる。栞は驚いて思わず布団から出てきた。
「な、何してるのよ…けほ。」
「こら、寝てなきゃだめですよ。栞さんが言ったように、私はここでお鍋を食べることにします。」
狭いワンルームが、布団とこたつでいっぱいいっぱいだ。翠はにこ、と微笑んでスプーンを栞に手渡した。
「栞さんは食べられそうになったら、一緒におじや食べましょう?そのおじやにも鍋用の出汁使ってるんですから。おいしいですよ!」
そうやって言い切る翠は、どこからどう見ても底抜けに楽しそうで。もう心配そうな表情はなかった。
ふつふつした何かが、栞の中でさらりと溶けていく。胃につっかえていたそれが溶けると、くぅと小さくお腹が鳴った。
「…毒味してあげるわ。」
「ひどいっ!おいしいって言ってるでしょ!」
「はいはい。」

言えない「ありがとう」の代わりに、まだ温かいおじやを一口食べた。



でこぼこあっとほーむ

(………おいしい。)


fin.



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