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迷子の葉

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feuilles perdus



『成程。自信か。』
それは夢の入口。願いを聞き届けたダークライが微笑む。

『ならば君には"彼"をあげよう。明るく、男性らしく、そして強くて自信にあふれる、君が描く理想の"君"だ。』
さぁ、纏うといい。
ダークライが手を差し出すと、目を閉じた一人の男性が現れた。顔も体格も自分と瓜二つ。髪が少し短めで、自分じゃ着れないような格好いい服を着ている。
"彼"と自分が手を伸ばしたのは、同時だった。
手と手が触れ合った瞬間、光に包まれ、二人は、一人になる。
『おめでとう。これで君は"彼"、"彼"は君だ。』
光が消えると、さっきまで見ていた姿に、自分がなっていた。
『"彼"はいつでも君の身体を、君の理想通りに動かし生きるだろう。"彼"は君、君自身。"自信"を願った愛すべき仔。願ったままに信じてやるといい。』
ダークライの微笑みは優しかったはずなのに、今ではうまく、思い出せない。
『信じている限り、"彼"は君のものさ。』


手に入れた"彼"を、僕は"薫"と名付けた。








「薫ッッ!!!」
リーフブレードを避けながら、栞は叫んだ。
「起きなさい薫ッ、薫ッ!!!」
嫌な予感がした。何度でも蘇る悪夢の世界なのに、もう二度と薫に会えなくなるような。
冗談じゃない。私を庇って死ぬつもり?冗談じゃない!!
「薫…ッ!!」
「…?薫がどうかしたのか?」
「どうかしたのか、ですって!?刺し殺した相手も覚えてないのかしら!?」
怒りのあまり切りつけるも、容易くかわされてしまう。
むしろその隙を冷静に、突かれた。栞の肩が血しぶきを上げる。
「…ッ!」
「覚えているさ。かわいそうな薫。俺みたいな人殺しに近づいて、そして死んだ。」
金の瞳には栞への殺意と、同情が含まれていた。
ぞっとした。この男は正気のまま目的なく人を殺している。今まで会った奴とは違う、根本的に何かがおかしい。
栞を凍りつかせた怖気は、樹が微笑んだことでさらに増した。
「栞と言ったか。そしてお前もだな。かわいそうなひと。」
悪いな、と呟いて剣を振り上げる。
「お前が俺を殺せたら、お前は生き伸びられたのにな。」

その背後で土が噴き上がった。
どぉんとあたりを揺らす大きな地響き。驚いた樹が振り向くと。


既にその頭はハガネールの顎の中。


「…ッひ…!」
樹が息を呑む音と。
がきんっ。鋼の牙と牙が噛み合わさる大きな音がした。その中から聴こえた、ぐしゃり、という柔らかい音は弱々しいのに耳に残る。
ごき、ぐちゅ、ぐちゃぐちゅ、ぐじゃ、ぐじゃぐじゃぐじゃっ。
それらを、
栞はへたりこんだまま、開いた瞳孔で眺めるしかなかった。やがてハガネールが栞に目を向けた時すらも。
「咬竜…!」
紅の呼び声。ハガネールが止まる。控え目な呼び声だったのにちゃんと聞こえたようだ。
瓦礫から飛びだした紅は、ハガネール…咬竜をきっと見据えて、控え目ながらも叫んだ。
「咬竜…だめ、だめだよ…!それ以上は…。」
咬竜の口から滴る、赤黒い粘液に耳を震えさせながらも、紅は叫んだ。
「それ以上は…だめ…!」
咬竜が低く、唸った。ぐるりと紅に向き直る。
突然、咬竜は紅に牙を剥いた。
「…!」
駄目だ、と覚悟して紅は目を瞑ったが、訪れたのは予想より遥かに小さな痛み。
目を開けると、紅は咬竜に服を噛まれて持ち上げられていた。そのまま背中に放り投げられる。咬竜はぐおおおおと一声鳴くと、ものすごいスピードで地を這い始めた。
「わっ!?」
紅は振り落とされないように、しがみつくので精いっぱい。
栞が殺されなかったことにほっとしつつも、どこへ向かうのか、紅には全くわからなかった。

ぐちゃぐちゃに喰い荒らされた死体が、黒い影となって溶け消える。
その頃にようやく、栞は身体を動かせるようになった。
(…助かった…のかしら、私…。)
まだ震えの残る手を握りしめ、よろりと立つ。翠の死体もとっくに消えていた。誰もいない。
ひっく、と啜り泣く声がした。
見ると、血溜まりにへたり込んで、薫がまだ生きていた。
「薫!」
栞が駆けよる。薫は自分の胸元を握りしめたまま、嗚咽を漏らしていた。栞のことに気づいてもいない。
途方にくれた栞は、その嗚咽に、言葉が混じっているのに気がついた。

「いやです…薫…薫どこにいるですか…。」
「戻ってきてです薫…おねがい…おねがいですぅ…。」


「薫がいなきゃ…薫がいなきゃ、レイナは駄目な子のままです…!」


「……"レイナ"。」
栞が、反復した。
脳裏に砂嵐混じりの映像が映った。赤い花、二つ。黄色と緑のふんわりスカート。
「貴方は…"貴様"は。」









++

はっと目が醒めた時、背中は汗だくだった。
がばっと身体を起こして自分を眺める。腕、胴、足…傷一つない。無事に、生きている。
咬み潰された記憶は、こんなにもリアルなのに。
がたがたと、震える腕を痛いほど握りしめた。震えるな、震えるな。念じても念じても、身体は言う事をきかない。
「怖がる必要はないさ。"逃避"を願った愛すべき仔。」
ダークライの声だけが、姿も見せないのに降り注ぐ。
「此処は終わりも絶望もない世界。いつまでも楽しい夢を見ようじゃないか。」
「違う、違うッ!俺はもう逃げない、俺が死ななければ駄目なんだ!」
「言ったろう。今度こそ楽しんでいってくれたまえ、と。」
笑い声が、哂い声が、嗤い声が、降り注ぐ。
耳を塞ぐ樹に容赦なく降り注ぐ。


「二人の望みが叶うまで、君達の夢は終わらない。」



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