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蜃気楼の灯

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蜃気楼の灯



襲い来る橙と海色のヤミラミ。橙は『かえんほうしゃ』を、海色は『ハイドロポンプ』を撃ちながら。
撃たれた攻撃は静葉と陸に直撃したけれど。
攻撃もヤミラミも、まとめて腕一振りで薙ぎ払った。
「…弱いね。」
「ああ。弱すぎや…。」
飛ばされたヤミラミはすかさず着地し、二人を挟むように迫ってきた。静葉と陸は背中を合わせて迎え撃つ。
手のひらに纏う『みずのはどう』。爪先に纏う『げんしのちから』。
彼は、あいつは、
「「こんなものじゃない。」」

その死角から青のヤミラミが爪を構えた。音を立てて研がれる爪。『つるぎのまい』だ。
目視も難しい『しんそく』で二人へと襲いかかったが、
足元からずるりと生えた触手に、絡め取られて阻まれた。
「けたたっ、ソッチばっかリじゃツマんナいよォ?」
『とおせんぼう』で足止めしたアノニマスは、にぃやり笑う。
『ギガインパクト』を込めた拳を振り被って。
「キミはボクと、アーソボ?」

灰色のヤミラミは冥を護るように『てっぺき』を張り、それを盾として銀のヤミラミが銃弾を浴びせた。無数の『スピードスター』だ。
威力はそれ程ではないが、避けられない攻撃はじわじわと痛い。
「アァくそ、煩わシイッ!」
黒の数珠からぼうっと光が溢れ、黒が手を向けるとヤミラミ達へと放たれた。『うらみ』の光はそれぞれに纏わりつく。『スピードスター』を撃つ手ががくりと揺らいだ。
立て直す暇は与えない。次いで腕を振ると、『こごえるかぜ』があたりに吹き荒れる。
霜に覆われ動きの鈍ったヤミラミ達を確認すると、黒はちらりと視線を流した。
「…行ケ。貴様の手番ダ。」
「わかっているさっ。」
すっかり鈍重となったヤミラミの横を、einは風のように抜き去っていく。
青い葉を纏う西洋剣の『リーフブレード』。einは真っ正面から、振り降ろした。

その光景を前にして。
冥は短く息を呑む。
緑色のポニーテール。金色の瞳。輝く剣。リーフブレード。
…『ジュプトル』。

ざくッッ。
『リーフブレード』は深々と冥の肩を裂いた。
冥が痛みを感じないことは暁から聞いている。だからeinはその後『れんぞくぎり』を浴びせかけ、冥の指揮系統を乱すつもりだった。
だが。
ぼたぼたと血の滴る傷を、冥は義手で苦しげに押さえる。
まるで痛みを、感じているかのように。
「…お前…?」

「…誰が追撃を緩めていいと言いました。」
冥の背後に回った暁が拳を構える。躊躇いなくその背中へ『シャドーパンチ』。
避けようもない冥は血を吐いて吹っ飛んだ。それを無感情に見据えた暁は、すぅと目を細める。
「ein。攻撃を続けてください。足止め優先ではなく、仕留めるつもりで。」
「え、俺が…?それにあいつは死なないってお前…。」
「そのはずでしたが…。」
ゆらりと立ち上がる、冥。そして未だ血の止まらないその傷口を、暁は見据えた。
「どうやら、話は違うかもしれません。」

傷を押さえて立ち上がる冥の、口元にはもう笑みはない。余裕のない荒い息。
冥の目は閉じられているが、並々ならぬ殺気が誰に向けられているかすぐにわかった。einに、だ。
「…近寄る、な…。」
低く呟くと、周辺の瓦礫が紫に光る。そして浮かび上がった。『サイコキネシス』だ。
冥は傷口を押さえるのをやめた。ふわりと宙に浮き、両腕を高く掲げる。周囲一体の瓦礫や廃材が、その手元に集った。
「私は二度と貴方に屈しない。」
冷たい殺気がeinを、einとダブらせて見ている相手を、刺す。
「何も触れさせない。何も奪わせない。二度と、何も、」
ぎっと、歯を食いしばった。その腕を振り降ろす。
「壊させてなるものかッッ!!!」

一斉にeinへ降り注いだ瓦礫は、水の壁に弾かれた。
割って入った静葉の、『まもる』によって。
追撃はしない。できれば止めたい。けれど酷い罪悪感が、静葉の喉を絞める。
「冥…。」
「…どこまでも邪魔するんですね、『時の巫女』。貴女だって同罪だ。私の敵だ。」
着地した冥は静葉を見据える。冥を中心にして放たれたのは『あくのはどう』。
「…ッが!」
吹き飛ぶ程ではない、が、ダメージは痛い。ぐらりとよろめきながら、静葉はeinと暁を守る構えを崩さなかった。冥は構わず、『あくのはどう』を連発する。
「貴女はどれだけ、どれだけ私を殺せば気が済むんだ!私にはもう生きて帰れる場所なんてない、此処に逃げるしか場所がないのに!悪夢を壊すですって?目を醒ますだけですって!?目を醒ました瞬間に、私は時代ごと死ぬと言うのに!!」
波動に乗せるように、冥は叫ぶ。血を吐くように、血を吐きながら、何度も何度も。閉じられた両の目からは、赤い涙が滴っている。
捨てた場所。捨てておきながら、護りたい場所。必死になればなるほど矛盾だらけだ。空回りだらけだ。十分にわかっている。誰を始末したって、願う結末にはならないことを。
護りたかった場所は既に、冥の胸中にしかないかもしれない。
『あくのはどう』は止むことなく静葉を、冥に近づくものを弾き続けた。触れるなと、言うかのように。胸に抱くものに、誰も触れさせないように。
「私は死にたくない!目覚めたくない!私は、私はあの家を失いたくない!!」

ばちっ。冥に走る一筋の電流。
それは冥の身体に絡まって、無理矢理波動を止めた。暁が放った『かなしばり』、だ。
「…ein。」
「わかってる。」
ぐらりとよろけた静葉をそっと抱くと、einは地面に優しく降ろした。そして一歩、踏み込む。身動き取れない冥に向け、剣を光らせた。
「ein、さん…?」
「…静葉、と言ったか。無理させて悪かった。後は俺がやるよ。」
静葉が息を呑む。待って、と思わず小さく言った。聞きとったeinはかすかに静葉を振りむく。ちいさく微笑したが、目には暗い光が宿っていた。
「静葉と冥がいた世界と、俺達のいた世界は、違うけどきっと似てる。だから、わかるんだ。あいつはきっともう…此処で終わらせてやるしかない。」
それは憐れむような、自嘲するような、どこか諦めたような、微笑。
そしてがたがたと震える冥を、無表情で見据えた。
「…優しい夢に逃げたって、いつまでもは続かない。」
わかってるんだろ?感情を押し殺した声音で言いながら、einは剣を振り上げた。

「俺達はあの時代と共に生きて、死ぬしかないんだ。」



振り降ろされるその直前に。
地面が、激しく縦揺れた。einを転倒させる程に。
『じしん』で宙に跳ねとばされた瓦礫が、冥を囲むように落ちる『いわおとし』。einは素早く後ろに下がった。轟音を上げて落ちた瓦礫と、立ちこめる砂煙。
その砂煙が晴れると。
一匹のハガネールが、冥とeinの間に立ちふさがっていた。
「………うそ。」
冥は、
ハガネールよりも、それに乗る人物に釘付けになる。
「こ…う?」

紅は、大急ぎで咬竜から降りた。着地は綺麗ではなく、よたよたしていて、案の定転んでしまったけれど。
それでも必死な顔で、冥へと駆けよる。
そんな冥の背後から、足音ひとつ。弱々しい音だったけれど、確かに、聞こえた。



「よかった…間に合った。」



優しい、優しい、声。
呼吸も心臓も止まった。嘘、でしょう?嘘だと確かめたくて振り向いたのに、そこには、そこには。

「………て、つ。」



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