Desafiante
静葉は、
「……。」
かすかに震えて握りしめていた拳を、解いた。
「……。」
かすかに震えて握りしめていた拳を、解いた。
「冬さん。」
差し出された手と、その先の琥珀色に向かって静葉は言う。
「聞かせてください。どうしても、貴方を倒さずに幻さんを追わせてくれませんか。」
その凛とした声音に冬は少々目を瞠ったが、すぐに不快げに目を細めた。
「…随分愚問をするんだな。それは虫が良すぎはしないか?わたしは君に戦うか、引き下がるかと聞いたんだ。」
「私には、冬さんと戦う理由がありません。」
…冬の目が鋭い怒りを見せたが、静葉は怯まなかった。
「けれど、幻さんは止めたいんです。」
ぐっと、自らの胸元を握りしめる。
「幻さんは、冬さんのために全てを背負おうとしている。たくさんの返り血も、自分への傷も、向けられる恨みも、全部全部、冬さんのためだと信じて、冬さんのためだと思いこんで、背負おうとしている。冬さんのために自分を犠牲にすることが、一番良いって思ってる。」
吠える幻の、あの瞳を、思い出して静葉は震えた。
何も映していない目。遠くを見ている目。冬そのものすら見ていない目。
自分の理想の中に作り上げた、冬という像だけを見ている目。
あれは、
焔と同じ瞳だった。
差し出された手と、その先の琥珀色に向かって静葉は言う。
「聞かせてください。どうしても、貴方を倒さずに幻さんを追わせてくれませんか。」
その凛とした声音に冬は少々目を瞠ったが、すぐに不快げに目を細めた。
「…随分愚問をするんだな。それは虫が良すぎはしないか?わたしは君に戦うか、引き下がるかと聞いたんだ。」
「私には、冬さんと戦う理由がありません。」
…冬の目が鋭い怒りを見せたが、静葉は怯まなかった。
「けれど、幻さんは止めたいんです。」
ぐっと、自らの胸元を握りしめる。
「幻さんは、冬さんのために全てを背負おうとしている。たくさんの返り血も、自分への傷も、向けられる恨みも、全部全部、冬さんのためだと信じて、冬さんのためだと思いこんで、背負おうとしている。冬さんのために自分を犠牲にすることが、一番良いって思ってる。」
吠える幻の、あの瞳を、思い出して静葉は震えた。
何も映していない目。遠くを見ている目。冬そのものすら見ていない目。
自分の理想の中に作り上げた、冬という像だけを見ている目。
あれは、
焔と同じ瞳だった。
「だけど、それは絶対幸せにはなれない。」
思い出した焔の瞳が、砂となって崩れ落ちた。
「大好きな人が犠牲になって、嬉しい訳がない!」
思い出した焔の瞳が、砂となって崩れ落ちた。
「大好きな人が犠牲になって、嬉しい訳がない!」
びりっ、と。
冬は肌に奔る痺れを感じていた。目の前の彼女の、拙いながら真っ直ぐな叫びに。
「革命軍とか、親衛隊とか、私にはよくわかりません。」
いつしかその場の全員が、彼女の言葉に聞き入っていた。
「私は焔のような人をもう出したくない。大好きだっていう気持ちが、悲しい形にねじ曲がるところを見たくない。そんなワガママでここまで来た、ただの"静葉"です。だから幻さんを止めたい。幻さんだけじゃない、誰かのために自分を犠牲にする人を、私はみんなみんな止めたいです!」
止められなかった、焔。
止められなかった、冥。
後悔が深く突き刺さる。
だからせめて目の前の、
まだ生きている、幻を止めたい。彼はまだ生きている。生きていれば、まだ何かが変えられる、かもしれない。
「冬さん。貴方を倒さずに、幻さんを追わせてくれませんか。」
静葉は、冬さんに向かって手を差し出した。
冬の手を取らず、冬に向かって、手を差し出した。
「幻さんが、貴方のために壊れきってしまう前に…どうか、追わせてくれませんか。」
冬は肌に奔る痺れを感じていた。目の前の彼女の、拙いながら真っ直ぐな叫びに。
「革命軍とか、親衛隊とか、私にはよくわかりません。」
いつしかその場の全員が、彼女の言葉に聞き入っていた。
「私は焔のような人をもう出したくない。大好きだっていう気持ちが、悲しい形にねじ曲がるところを見たくない。そんなワガママでここまで来た、ただの"静葉"です。だから幻さんを止めたい。幻さんだけじゃない、誰かのために自分を犠牲にする人を、私はみんなみんな止めたいです!」
止められなかった、焔。
止められなかった、冥。
後悔が深く突き刺さる。
だからせめて目の前の、
まだ生きている、幻を止めたい。彼はまだ生きている。生きていれば、まだ何かが変えられる、かもしれない。
「冬さん。貴方を倒さずに、幻さんを追わせてくれませんか。」
静葉は、冬さんに向かって手を差し出した。
冬の手を取らず、冬に向かって、手を差し出した。
「幻さんが、貴方のために壊れきってしまう前に…どうか、追わせてくれませんか。」
差し出されたその手を、冬は見つめた。
真っ白い手だった。
まるで光の塊みたいに、真っ白い手だった。
(…ああ。)
眩しいなぁ。冬は少し目を細める。その手と重ね合わせて、自分の腹を剣で貫いたあの手を、思い返していた。
いつだったか<ダークライ>が嘯いていたっけ。彼と彼女は魂の双子だと。
わかる気がするよ。
君達は本当に、光の塊のようだ。
「…お嬢さん。」
冬は手を動かさないまま口を開く。
「アイツはな、"幻"はな、ああいう風になってるんだ。奴にとっての神様だけしか見えない、聞こえない、わからない。そういう風になってるんだ。」
そう、神様。
あいつの"神様"は、"誰"なんだろうね。
「そういう奴を、見たことはないか?」
「…あります。」
「そうか。じゃあそいつを思い浮かべながら答えるといい。君は、それを止めてみせると?」
「…はい。」
静葉の声がかすかに震えたのが、冬にはわかった。
「…恐れはないのか。」
「……あります。けど…。」
ぐっと、静葉が立つ足に力を込める。
震えが止まった。強く強く光る橙の瞳で、凛と冬を見据えた。
真っ白い手だった。
まるで光の塊みたいに、真っ白い手だった。
(…ああ。)
眩しいなぁ。冬は少し目を細める。その手と重ね合わせて、自分の腹を剣で貫いたあの手を、思い返していた。
いつだったか<ダークライ>が嘯いていたっけ。彼と彼女は魂の双子だと。
わかる気がするよ。
君達は本当に、光の塊のようだ。
「…お嬢さん。」
冬は手を動かさないまま口を開く。
「アイツはな、"幻"はな、ああいう風になってるんだ。奴にとっての神様だけしか見えない、聞こえない、わからない。そういう風になってるんだ。」
そう、神様。
あいつの"神様"は、"誰"なんだろうね。
「そういう奴を、見たことはないか?」
「…あります。」
「そうか。じゃあそいつを思い浮かべながら答えるといい。君は、それを止めてみせると?」
「…はい。」
静葉の声がかすかに震えたのが、冬にはわかった。
「…恐れはないのか。」
「……あります。けど…。」
ぐっと、静葉が立つ足に力を込める。
震えが止まった。強く強く光る橙の瞳で、凛と冬を見据えた。
「やる前から、諦めたくないんです。」
冬はその眼差しを受け止めた。
「…っふ」
思わずにやりとした。そして抑えることなく豪快に高笑いすると、冬はぱぁんと静葉の手を叩いた。
手を取るでも、取らせるでもなく。
同じ地平、同じ戦場に立つ、"戦友"に対しての手合わせ。
「――面白い。ならば私に示してみな、それをやれるだけの力を。私を納得させたら幻を追わせてやろう。」
そうしたら綺麗な夢物語も、少しは信じてやろうじゃないか。
久しぶりに冬は高揚していた。見せてもらおうじゃないか、そんな無茶な願いをどこまで突き通せるのか。
「私が諦めたことをしようってんだ。私を倒す力もないまま、やってみせるだなんて信じんぞ?」
「それなら――」
熱く痺れる掌を、静葉が握りしめる。次に開いた時には、水の球体が浮かび上がっていた。左の手には、泥の球体が。
右足をわずかに後ろへ引く、戦闘態勢。
その目にはもう一切、迷いがなかった。
「…っふ」
思わずにやりとした。そして抑えることなく豪快に高笑いすると、冬はぱぁんと静葉の手を叩いた。
手を取るでも、取らせるでもなく。
同じ地平、同じ戦場に立つ、"戦友"に対しての手合わせ。
「――面白い。ならば私に示してみな、それをやれるだけの力を。私を納得させたら幻を追わせてやろう。」
そうしたら綺麗な夢物語も、少しは信じてやろうじゃないか。
久しぶりに冬は高揚していた。見せてもらおうじゃないか、そんな無茶な願いをどこまで突き通せるのか。
「私が諦めたことをしようってんだ。私を倒す力もないまま、やってみせるだなんて信じんぞ?」
「それなら――」
熱く痺れる掌を、静葉が握りしめる。次に開いた時には、水の球体が浮かび上がっていた。左の手には、泥の球体が。
右足をわずかに後ろへ引く、戦闘態勢。
その目にはもう一切、迷いがなかった。
「戦わせてもらいます、冬さん。幻さんを止めるために。」
「言う事だけはいっちょまえだな。――さぁ来い、相手になろう。」
「言う事だけはいっちょまえだな。――さぁ来い、相手になろう。」