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Emboscada

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mato4869

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Emboscada



爆音がゆるやかにフェードアウトして行くと、さっきまでの喧騒が嘘のように、静けさが満ちた。
立ちこめている土煙は、ブーツに踏まれてたわんで消えた。ざり。冬が、歩を進める。
ざり、ざり。
濃い煙が少しずつすき通り、包んでいた景色を見せる。死屍累々の戦場の中心を、冬はゆっくり、闊歩した。
屍には目もくれず。戦場を踏みしめる。
やがて目的地に着き、足を止める。しばしそこに佇んだ後、携えていたスコップを思い切り振りおろした。
その持ち手を、
振りおろされた静葉は、残った力を振り絞って、受け止める。
「…諦めろ、静葉。」
長い時を経た琥珀の瞳は、ただ静かに見つめていた。手の力は緩めない。
「私にも勝てないようじゃ、君の望みなど叶わん。」
赤く錆びたスコップはじりじりと迫る。少しでも力が足りなければ、押し負けて潰し斬られるだろう。
「…いいえ…まだ、負けてません…。」
「だが、それに等しい。君の軍勢で動ける奴がいるか?」
冬があたりを見回した。地に伏せる者のほとんどが、静葉側の人間だ。
対して冬側は、星も鏡もまだ動ける。
「仮に君が動けたとして、こちらは私と星と鏡の三人で君を囲ませてもらおう。加減をする気は、ないからな。」
不意に、冬は手の力を緩める。そして一歩下がった。スコップから解放された静葉がふらつきながら立ちあがる。ぐっと力を込めて冬を見据えたが、容易く跳ね返されてしまった。
冬も静葉を見据える。
静かで、けれどわずかにも揺らがないその光は、静葉を深く貫いた。
「私の目的は、君を此処で殺すことじゃあない。…だからもう一度聞こう。君はどうする、静葉。」
スコップはまだ握りしめている。その後ろには星が、鏡が、音をたてず控えた。
この状況に打ち勝てる力がないなら、退けと冬は言っているのだ。
…退くとは即ち、幻を諦めるということ。ぐっと拳を握ると、傷ついた身体がずきりと痛んだ。その痛みを黙殺しようとしたが、冬の目はごまかせなかった。
「選択する時間は与えよう。だが…この期に及んで御託を聞いてはやらんぞ?」
退くか、挑むか。生きるか、死ぬか。
此処は戦場。在る選択肢は唯それだけ。
嫌だ、と静葉の中に恐れが湧いた。嫌だ、嫌だ。負けたくない。諦めたくない!
けれどその時、少し前の冬の言葉が脳裏をよぎった。

感情に駆られては、何も見えなくなる。
心で考えるな。ここはそういう場所だろう?

そうだ、考えろ。心ではなく頭で。求める解に辿りつく、一つの糸を見出さねばならない。
幻を止めるために。そのために冬に勝つために。
どうしたら、いい?
聳える三人。戦場の女王を、そして彼に仕える配下を見据えて…静葉は瞳孔を、見開いた。


「―――アノ君ッ!」
鋭く、叫ぶ。
「"冬さん"に、化けてッ!!」


冬の背後の空間が溶解した。
はっと冬が振り向いた時にはもう遅い。姿も形も全く変わらない"冬"が、"冬"に向かってスコップで斬りかかった。
「冬ッ!!」
星と鏡が駆け寄ろうとした時、飛んできた『どろばくだん』が爆発した。吹っ飛ばされた二人が起き上がった時、既に濃い土煙がたちこめていて冬が見えない。
音はする、シルエットが見える。冬のいる方角はわかるのだが。
どちらが本物の冬なのか、この状況では判別できなかった。
「冬…ッ!…ッくそ!」
それでも駆け寄ろうとする星の足を…ずるり、煙から這い出た手が掴む。
「…行かせへん、で…。」
「お前ッ…。」
それは陸だった。そのまま恐ろしい力で星を『なげつける』。なんとか受け身を取った星と、冬との間を塞ぐように陸が立ちあがった。
酷い傷だらけでようやく立っている有り様だというのに、
陸が浮かべているのは、微笑だった。
「足止め、ぐらいには…なるやろ…。此処は、通さん…。」
遠くで小さく、鏡の呻く声が聞こえた気がした。あちらもおそらく足止めされている。
ぎりっと、星が歯を食いしばった。
「…星はお前に構っていられない。速やかに殺す。」
「…来るならきぃ。」
そう呟く間にも、背骨が軋んだ。足は歩けるかすら怪しい。折れた腕からは既に感覚が遠のいている。脈打つような痛みが脳を突き刺し続けている。
それでも、陸の気分は高揚していた。
終わりそうで終わらない、最後の最後までどうなるかわからない。彼女が突き進む戦場は、ひどく愉しい。


(…せやから、俺らは。)
一瞬だけ目を閉じて、どこまでも諦めの悪い彼女を想った。
(アンタに、つきとうなる。)



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