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Guerra

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Guerra



がきんがきんがきんっ
錆びたスコップとスコップが、なんども激しくぶつかりあった。

全く同じ見た目、同じ雰囲気を纏って冬と冬がぶつかり合う。
攻撃の仕方も交わし方も同じ。星や鏡が見まごうのも無理はなかった。
駆け寄ろうとする足音はいつしか聞こえなくなった。代わりに遠くで、再び轟く爆音。
足止めされたか。片方の冬が、舌うちした。

その瞬間。
もう片方の冬がぐにゃりと変異した。一瞬のちに現れたのは、いつか見た紫髪の青年だった。但しその背には、禍々しい紅色の羽根がある。
三日月に笑むアノニマスが、羽根を鳴らす。
冬から見て右側に、並ぶように岩が落ちてきた。高く長く積み上がったそれは、岩の壁だ。
「…これで、簡単にはこちらへ来られません。」
冬が振り向くと、そこには静葉が立っていた。傷だらけで、されど、凛と。
「ありがとう、アノ君。アノ君は鏡さんを抑えてきて。」
「けたたっ、りょーカイv」
ずるり。液体と化したアノニマスは岩の隙間から向こうへと滑りこんでいった。
残されたのは静葉と冬だけ。遠く岩越しに喧騒が響く中、冬がゆっくりと向き直った。
「…2対1をわざわざ1対1にしたのか?舐められたものだな。」
「私達全員でかかっても鏡さん達には勝てませんでした。だからあっちの人員を薄くする訳にはいきません。」
1対1で勝てる自信がある訳じゃない。むしろ勝てる可能性はどこまでも乏しいだろう。だけど、ゼロではない。
女王から部下を、切り離す事。
唯一可能性の垣間見える勝ち筋がこれだった。
「鏡さん達をこちらに来させる訳にはいきません。」
伸ばした右手に、水が渦巻いた。
「手強い鏡さん達を、冬さんから切り離す。そして此処で冬さんとだけ戦う。私はこの勝ち筋に、賭けますッ!」

「…なり振りは構っていないようだ、な。」
若い者が無闇に好む、『正々堂々』という言葉はそこには見えなかった。
その綺麗な言葉は、時として手加減となることを彼らは知らない。反則的な変身能力を持つアノニマスを用いて撹乱させた静葉からは、そんな手加減を一切捨てた本気が伝わってきた。
掴めるものを選ばず掴んで、勝たなくてはいけないと。
その気迫が、伝わってきた。…冬は喉の奥で、小さく笑う。
「そうだ静葉。それが此処じゃ正解だ。正しさを考える余裕なんぞ持つな。願いを叶えたきゃ手段を選ぶな。そうでなきゃ先には進めんのさ。」
ただし。
手の中でバトンのようにスコップを回し、構え直した冬はにかりと笑った。
「がむしゃらに向かってきたって、私に勝てるとは限らんがな!」
冬と静葉、地を蹴ったのは同時だった。



その力は概ね互角で、冬がわずかに勝っている。
願いの効果で強化されたポケモンと、普通の人間との戦い。にも関わらず冬の動きは非常に戦い慣れたものだった。常に誰かと戦ってきたことがはっきりわかる動き。
左胸に触れかけたスコップを紙一重でかわした。返すように水を撃ったが、後ろに飛ばれてかわされた。そこから冬は一瞬で距離を詰めてくる。ひらめくマントをかいくぐるように、静葉は転がり避けた。空いた背中に向けて振りおろした『アームハンマー』。冬は振り向きざまにスコップで防ぐ。しばしせめぎ合い、両者同時に距離を取った。

戦いながらふと、静葉は気づいたことがあった。いつもより身体が軽い。

今まではいつも、迷いながら戦っていた。
相手を倒していいのだろうか。相手にも私と同じように願いがあるはずなのに。それを自分のために叩き潰す"戦い"という行為が、いつも後ろめたかった。
私がしていることは本当に正しいのか。間違っていないか。
仲間が増える度に。相手と戦う度に。いつも、迷っていた。

けど今。素早く苛烈な冬の攻撃に、言葉を発する余裕もない。
時折突き刺さる琥珀色の視線。びりりと神経が震えた。いつ殺されるかわからない恐怖、それと、負けられないという戦意にだ。
冬の攻撃は静葉の迷いを許さなかった。
誰よりも迷いを知る眼をしながら。そんなものは余分だと、言葉でも行動でもばっさり斬り捨てていた。
相手は自らの願いのため命を賭し、
自分も自らの願いのため命を賭す。
それだけのことなのだと。それが此処での戦いなのだと。
正しいか。間違っていないか。そんなことはどうでもいい。

叶えたいならば、勝て。

自分の信じる、願いのために。



(――…私は、)
腹に直接喰らったスコップで静葉は吹っ飛ぶ。幸い柄が当たっただけで助かった。吐いた血を乱暴にぬぐいながら、『がむしゃら』に拳を冬へ振り被った。
(一刻も早く、この夢を覚ましたい。)
悪夢の生み出す深い絶望に、呑まれていった焔を、冥を。
此の世界で出会った呑まれてしまった人を、呑まれかけている人を。
この先で呑まれかけている、幻を。
今もどこかで呑まれているであろう、樹を。
私は助けたい。守りたい。守り抜きたい。それが相手の本意ではなかったとしても。
貴方が絶望に呑まれるところを見たくない。そんな自分のエゴの為に、私は戦う。

そんなものは正義じゃない。
正義じゃなくていい。身勝手で我儘な、ひとつの欲望でいい。

貴方を守る、悪になる。

だって私は、貴方に生きていて欲しいんだ!




振り被った拳が、冬の胴を、捉えた。



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