I love you. /1
永遠の命と、引き換えに。
音以外の全てを、捧げました。
音以外の全てを、捧げました。
「ん?風と紅なにしてーんの?」
もふもふと紅の耳をいじる風に、鉄が近寄った。ぎくっと風の肩が跳ねる。
「(け…毛づくろいしてやっただけだ毛づくろい…。)」
「うんとね、風がずっともふもふしてる。」
「(紅お前ッ!)」
「なにそれずるい!ずるい!俺も紅もふもふするー!」
飛びついた鉄が思いっきりもふもふし始めた。満面の笑みでわっしゃわっしゃ耳を撫でるので紅はくすぐったそうだ。風はへの字口でちょっと頬を赤らめながら、横からちまちま紅の耳を撫でている。
それを後ろからそっと冥が見ていた。
(…もふもふ…。)
いいなぁ…。思わず冥は生唾を飲み込む。紅の毛並みがきらきら輝いてさえ見える。触れたい。撫でまわしたい。
けど。あ、と気づいて冥は目を瞠った。
もふもふと紅の耳をいじる風に、鉄が近寄った。ぎくっと風の肩が跳ねる。
「(け…毛づくろいしてやっただけだ毛づくろい…。)」
「うんとね、風がずっともふもふしてる。」
「(紅お前ッ!)」
「なにそれずるい!ずるい!俺も紅もふもふするー!」
飛びついた鉄が思いっきりもふもふし始めた。満面の笑みでわっしゃわっしゃ耳を撫でるので紅はくすぐったそうだ。風はへの字口でちょっと頬を赤らめながら、横からちまちま紅の耳を撫でている。
それを後ろからそっと冥が見ていた。
(…もふもふ…。)
いいなぁ…。思わず冥は生唾を飲み込む。紅の毛並みがきらきら輝いてさえ見える。触れたい。撫でまわしたい。
けど。あ、と気づいて冥は目を瞠った。
伸ばせる手がない。
そんなことはもう何年も何十年も共にある現実なのに。つき、と小さく胸が痛んだ。
…ぴこん。まるでその音が聞こえたみたいに紅の耳が揺れる。
二人の手をぷるぷる振り払うと、てとてと冥のもとへ歩み寄った。
…ぴこん。まるでその音が聞こえたみたいに紅の耳が揺れる。
二人の手をぷるぷる振り払うと、てとてと冥のもとへ歩み寄った。
そして冥の胸に、ぽすっと頭を埋めた。
「…!」
びっくり。した。目を瞠った冥が少し頬を染める。
紅はぐりぐり、耳を冥へすりつける。いいだけすりつけると冥を見上げた。
「冥も。」
ちいさく、その口元は微笑んでいる。
「冥も。いっしょ。」
手を伸ばせない冥の代わりに、紅は手を差し伸べ、きゅむっと抱きついた。
びっくり。した。目を瞠った冥が少し頬を染める。
紅はぐりぐり、耳を冥へすりつける。いいだけすりつけると冥を見上げた。
「冥も。」
ちいさく、その口元は微笑んでいる。
「冥も。いっしょ。」
手を伸ばせない冥の代わりに、紅は手を差し伸べ、きゅむっと抱きついた。
…不思議ですよね。
温度なんか感じないのに。耳をすりつけられた感触すらわからないのに。
とても、とても。あたたかくて。
温度なんか感じないのに。耳をすりつけられた感触すらわからないのに。
とても、とても。あたたかくて。
「…はい。」
ふわり、冥も柔らかく微笑んだ。
そんな冥に鉄と風も、穏やかな微笑みを浮かべるのだった。
ふわり、冥も柔らかく微笑んだ。
そんな冥に鉄と風も、穏やかな微笑みを浮かべるのだった。
全てを、捧げました。
失うものなんて、なかった。
なかったから私は、強かった。
失うものなんて、なかった。
なかったから私は、強かった。
こぽこぽと泡をたてながら、冥は背中からどこかへ沈んでいた。赤い空は遠ざかる。代わりに黒い空間の、底へ底へと沈み続けた。
水面へと立ち上っていくいくつもの泡。そのひとつひとつのつやりとした表面に。
廃墟の家での思い出が、映っていた。
水面へと立ち上っていくいくつもの泡。そのひとつひとつのつやりとした表面に。
廃墟の家での思い出が、映っていた。
…失うものなんて、なかったのに。
泡を見つめながら思う。泡の数だけ映る思い出。思い出の数だけ浮かぶ泡。
こんなにたくさん、たくさん、受け取っていたんだ。
泡を見つめながら思う。泡の数だけ映る思い出。思い出の数だけ浮かぶ泡。
こんなにたくさん、たくさん、受け取っていたんだ。
見えない目に、呼びかける声を。
わからぬ味に、楽しい話を。
感じぬ鼻に、穏やかな気配を。
触れえぬ肌に、温かな心を。
わからぬ味に、楽しい話を。
感じぬ鼻に、穏やかな気配を。
触れえぬ肌に、温かな心を。
無くした両手に、差し伸べる手を。
冷たい孤独に、眩しい笑顔を。
空っぽだったのに。とても大きな空っぽだったのに。それがいっぱいになるくらい、あの家は満たしてくれていた。
このままずっと暮らしていきたいと思う程に。
ずっとここで生きていきたいと思う程に。
これまでのことなんか全部忘れて、してきた事も全部なかった事にして。
『ルワーレ』なんて捨てて。『冥』として。
ずっと、ずっと。此処で、いつまでも。
このままずっと暮らしていきたいと思う程に。
ずっとここで生きていきたいと思う程に。
これまでのことなんか全部忘れて、してきた事も全部なかった事にして。
『ルワーレ』なんて捨てて。『冥』として。
ずっと、ずっと。此処で、いつまでも。
『俺は最初から間違えてたのかもしれない。冥を俺に付き合わせたのが間違いだったのかもしれない。』
間違えたのは、私の方。
消える刹那の淡い夢に、永遠を夢見てしまった私。
犯した罪が生む影から、目を逸らしてしまった私。
取れない返り血で真っ黒な事も忘れて
貴方達へ近づいてしまった。その、結果が。
消える刹那の淡い夢に、永遠を夢見てしまった私。
犯した罪が生む影から、目を逸らしてしまった私。
取れない返り血で真っ黒な事も忘れて
貴方達へ近づいてしまった。その、結果が。
上がる。上がる。泡が、上がる。満たしてくれていたものがひとつひとつ、泡となって、冥から遠ざかっていった。
ここから見ると破片のよう。ばらばらに砕かれた、あの家の破片のよう。
砕いたのは、誰?
冥は、ぐ、と奥歯を噛んだ。
ここから見ると破片のよう。ばらばらに砕かれた、あの家の破片のよう。
砕いたのは、誰?
冥は、ぐ、と奥歯を噛んだ。
ごめんなさい。
想うのは、それだけだった。
何度も何度も何度も、血を吐くように想うのはそれだけだった。
ごめんなさい。ごめんなさい。近づいてしまって。壊してしまって。
元々がルール違反の願いだったのだ。
身の程も知らない、愚かで不相応な願いだったのだ。
何度も何度も何度も、血を吐くように想うのはそれだけだった。
ごめんなさい。ごめんなさい。近づいてしまって。壊してしまって。
元々がルール違反の願いだったのだ。
身の程も知らない、愚かで不相応な願いだったのだ。
人殺しが幸せになりたいだなんて。
鉄。紅。風。
壊してごめんなさい。あの家を壊してしまってごめんなさい。
出会って、ごめんなさい。近づいて、ごめんなさい。
一緒にいて、ごめんなさい。
壊してごめんなさい。あの家を壊してしまってごめんなさい。
出会って、ごめんなさい。近づいて、ごめんなさい。
一緒にいて、ごめんなさい。
私がいなければ。
私がいなければ、貴方達とあの家が壊れることなど、なかったのに。
泡の中に一粒、水の粒が紛れて浮かぶ。
それが泡の一つに触れた瞬間。
それが泡の一つに触れた瞬間。
とす、と冥はどこかに着地した。
…え?
痛くはない、けど。背中から地に落ちた冥が身を起こす。真っ黒だったはずの世界が、いつのまにか真っ白になっていた。
…とすん。一拍遅れて、冥の傍にもう一つ何かが落ちてきた。
真っ白な世界でよく目立つ黒い出で立ち。冥は大きく目を瞠った。忘れもしない。その人は。
痛くはない、けど。背中から地に落ちた冥が身を起こす。真っ黒だったはずの世界が、いつのまにか真っ白になっていた。
…とすん。一拍遅れて、冥の傍にもう一つ何かが落ちてきた。
真っ白な世界でよく目立つ黒い出で立ち。冥は大きく目を瞠った。忘れもしない。その人は。
「紅…!?」
紅はぱち、と目を開けると、ふらりと身を起こした。
そして冥を見つめ二三度まばたきすると、小さく微笑した。
それは、冥が知る紅の笑い方より、幾分大人びたものだった。
そして冥を見つめ二三度まばたきすると、小さく微笑した。
それは、冥が知る紅の笑い方より、幾分大人びたものだった。
「…"僕"と"貴方"が会うのは、きっと初めてですね…。」
紅は…紅だと思った青年は、少し切なげに微笑んだ。
紅は…紅だと思った青年は、少し切なげに微笑んだ。
「―――はじめまして。カルロ・ジーリアスと申します。」